沖縄空手振興でシンポジウム 「空手発祥の地」だからできること

 

 沖縄空手の「保存・継承」「普及・啓発」「振興・発展」を目指す沖縄県の「沖縄空手振興ビジョン」を実現するための「第2期沖縄空手振興ビジョンロードマップ」の策定シンポジウム(主催・沖縄県文化観光スポーツ部空手振興課)が2月26日に宜野湾市の沖縄コンベンションセンターで開かれ、今後の空手振興の在り方や関連産業の創出、伝統空手の保存・継承などについて議論を深めた。新たな取り組みとして、小学校での学習プログラムなども紹介され、世界唯一の「空手発祥の地」として将来像を描いた。

無形文化遺産登録など見据える

 「沖縄空手振興ビジョン」は2018年度からの20カ年計画。ロードマップは5年ごとに策定され、「第2期ロードマップ」(2023~2027年度)には、第1期を継続・発展させる形で「ユネスコ無形文化遺産登録に向けた取組の推進」「産学官連携による空手を活用した人づくりの体系化」「空手ツーリズムの推進」など34の施策が盛り込まれている。沖縄県は、県外における「空手発祥の地・沖縄」の認知率を、現状の34%から5年後の2017年度には46%に引き上げるなどの成果指針を設定している。

沖縄空手振興ビジョンとは

沖縄空手会館

 沖縄空手振興ビジョンの基本理念は以下の通り。

【保存・継承】
・先人により創造され育まれ受け継がれてきた精緻な技と平和の武としての精神性を保存する。
・後継者を育成し空手の型に秘められた精緻な技と平和を希求する精神性を継承する。

【普及・啓発】
・県民が世界に誇れる伝統文化として沖縄を発祥の地とする空手の価値を認識している。
・沖縄空手のブランド化に向けて伝統空手を確実に継承しつつ競技空手についても推進し子ども達に夢を描かせ、世界に向けて「空手発祥の地・沖縄」を普及・啓発する。

【振興・発展】
・空手家が経済的に自立し世界中の人々から尊敬されるとともに、沖縄は空手に関する夢が叶い殆どの課題が解決される「空手の聖地」となっている。
・空手を目的とした交流人口の拡大が、新エンジンとなって沖縄経済の成長に資するとともに、自我作古の気概を持って空手界及び産業間が連携し振興・発展に取り組む。

保育園での指導で道場入門増

 シンポジウム第1部では学校現場や観光産業で空手を関連付けた取り組みが発表された。

 豊見城市立ゆたか小学校の島尻千賀子教諭は、校区内にある沖縄空手会館を活用し、4年生の学習プログラムに取り組んだ事例を紹介。空手の動作の他にも、その歴史文化に触れることで「総合的な学習の時間」「社会科」「体育科」「道徳」の学びにつながることを述べた。空手の授業について児童にアンケートを取った結果、「道場で空手を学びたい」と回答した児童が28%いたことも報告された。

教育現場での取り組みを述べるゆたか小学校の島尻千賀子教諭

 保育園での取り組みも紹介された。沖縄県空手道連合会の具志川光彦事務局長は週2回出向いて保育園児向けの型を指導し、発表会で保護者や地域の人々に向けて披露したことに触れ「卒園後は1割程度の子どもたちが道場に通っています」と、空手人口の裾野を広げることにつなげた。

 沖縄空手・古武道専門の旅行会社、アゲシオジャパンの古田桂一さんは、同社がコロナ禍で新しく始めた空手のオンライン稽古などの取り組みを紹介した。沖縄の道場と海外をつないで「一度の稽古で100人以上が参加したケースもあります」と需要の高さを物語った。

空手ツーリズムの取り組みを話すアゲシオジャパンの古田桂一さん

 JTB沖縄の池原和也さんは、世界のGoogle検索数分析のデータを引用し「Okinawa」よりも「karate」の方が検索数が多く、世界的にも認知されていることを示した上で、沖縄と空手を結び付ける必要性を説いた。

裾野拡大で伝統空手の発展に

 シンポジウム第2部では各分野からのパネリストが登壇。沖縄伝統空手道振興会理事長の新垣邦男氏、沖縄県立博物館・美術館館長の田名真之氏、沖縄空手・古武道連盟副理事長の金城常雄氏、沖縄小林流空手道協会で元高校教諭の小松聡氏、沖縄空手会館館長の中村靖氏、沖縄県産業振興公社経営支援部長の安慶名貢氏の6人が沖縄空手の将来について意見を述べた。コーディネーターは県空手振興課の佐和田勇人課長が務めた。

 小松氏は35年間高校に勤務した経験から「沖縄が空手の発祥地であることの認知度は向上していると言えますが、中学・高校の学校現場における空手人気には必ずしも直結していないと感じました」と、空手部員の減少などの課題を指摘。「沖縄で空手に携わる以上、伝統空手の継承・発展に寄与する空手家が増えることが最終目標だと思います」と強調しつつ、子どもたちが空手を継続するモチベーションとして「競技空手の競い合う要素は、子どもたちが夢中になりやすいです。若いうちは競技空手で勝利を目指し、引退後に伝統空手に切り替えるという道があってもいいのではないか」との道筋を提案した。

 安慶名氏はマーケティング的な視点を交えながら、今後の伝統空手の発展についてかりゆしウエアの話で例えてみせた。「かりゆしウエアを普及させようと安価なものが出回った当時、“本物”を作っていた人々は『かりゆしウエアの価値が下がる』と大反対でしたが、かりゆしウエアが普及した今、かえって“本物”の方に人気が集まりました」とのエピソードを紹介し「空手も(どのような形であれ)普及していけば、いつか本物の伝統空手を習う人も多くいるはずです」との展望を示した。


長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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