西表炭坑描いた『緑の牢獄』が台北映画賞にノミネート

 
映画や書籍について対談する作家の温又柔さんと黄監督

自分の人生を選択できない「孤独」

 また、映画に関連して、黄監督が制作過程の記録をまとめた書籍『緑の牢獄 沖縄西表炭坑に眠る台湾の記録』(五月書房新社)の出版を記念したオンライン対談が5月22日に開催された。黄監督と対談したのは、台湾生まれの作家・温又柔さん。映画を見て、本を読み込んで温さんが感じたことや黄監督への質問など、1時間半に渡って語り合った。

 温さんはまず、映画について「美しい沖縄の自然を舞台にした、南国台湾のおばあさんの話というと、多くの人たちは癒しを求めると思うんですが、それが裏切られます。それでもおばあさんの魅力がすごく強烈なんですけど、その魅力は映画を見る人たちにとっては決して優しくないものでした。そのことがこの作品に引きつけられる理由になりました」と感想を話した。

 ルーツである台湾がテーマに関わる作品を見るには「個人的な覚悟が必要」という温さん。日本で育った台湾人として、常に自分が帰属できない感覚を抱いてきたという。「日本人を気持ちよくさせるようなものを見ると、心が乱れてしまうんです。感情移入ができず、突き放されて疎外感を覚えます」

台湾から西表に移り住んだ橋間良子さん。映画は彼女の晩年を記録している

 そうした中で『緑の牢獄』に出演している橋間さんには、自分の人生の責任を誰にも取ってもらえなかったことや、自身で人生の選択をできないままに西表の家に住み続ければならなかったことによる「孤独」を感じ、この作品の特徴を「歴史のせいで自分自身の人生を恨むような気持ちを持ってる人物を正面から捉えていて、作り手の敬虔なまなざしがうかがえます」と語った。

 黄監督は「橋間おばあに感じたのは絶望感ではなく『ここにいるしかない、生きるしかない』みたいなものだったんです。そういうおばあの雰囲気の背景にあるものを受け取りながら、撮りたいという思いでカメラを回していました」と説明した。

 映画は本島地域での上映は一旦終了しており、今後年内に八重山での上映会を予定している。

『緑の牢獄』公式サイト

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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