母国インドを救え!OIST研究者が酸素生成装置開発 皆が作れる設計図

 
バンディ准教授が製作した2種類の酸素濃縮装置。大型の装置(左)と、持ち運び可能な小型装置(OISTウェブサイトより)

 新型コロナウイルス感染者が急増しているインドの現状を受け、同国出身で沖縄科学技術大学院大学(OIST、恩納村)非線形・非平衡物理学ユニットのマヘッシュ・バンディ准教授は、中南部の都市・ハイデラバードで医療用酸素を生成する装置を開発した。インドでは医療用酸素が不足しており、バンディ准教授は自身のウェブサイトで装置の作り方を公開、すでに企業などが製作・出荷に乗り出しているなど、母国のピンチと人々の命を救う。

医療用酸素が足りないインド

 医療用酸素は酸素濃度が95%以上の混合ガスのことで、呼吸困難に陥った重症患者に対する救命治療に使用されている。インドでは4月に入って新規感染者が爆発的に増加し、26日時点で直近1週間の平均が1日あたり約23万人、ピークとなった5月上旬には約40万人となっており医療用酸素が需要に追い付いていない現状があるという。OISTのウェブサイトによると「闇市場では酸素タンクの価格が市場価格の10倍にまで高騰している」という。

インドの感染者数が突出していることが分かる(Googleの感染者数マップより)

空気中から窒素を除去し酸素を濃縮

 バンディ准教授は、大小2つの装置を設計・製作した。
 大型の装置は1分間に100リットル強、小型の装置は1分間に約9リットルの医療酸素を作り出すことができる。新型コロナウイルス感染症の重症患者は、毎分5~15リットルの酸素を必要としているという。小型の方は持ち運びが可能だ。

 同装置では、空気を2本のシリンダー(円筒)間で行き来させる中で、窒素を“ふるい”にかけて除去して、酸素を生成する。
 空気の約78%は窒素、約21%は酸素が占めており、そのうちの窒素をそれぞれ「ゼオライト5A」「ゼオライト13X」という人工化合物に吸着させて取り除く。一方で酸素はこれを通過するため、酸素を濃縮させることが可能だ。
 フィルター的な働きをするゼオライトは、5分後にはそれ以上の窒素を吸着できなくなるが、加圧した空気で吸着済みの窒素をゼオライトから払い落として空気中に放出させることで、継続的に窒素の吸着・除去を続けることができる。

 バンディ准教授は学生時代、これに似た方法で実験用酸素をすでに作り出していたというが、今回は「実験室の無いところで製作するのが最大の課題だった」と振り返っている。

分子のふるいとしての役割を果たすゼオライト5A(OISTウェブサイトより)

進む実用化

 装置の作り方を公開して以降、すでにインド国内の5つの企業、3つのNGO、6つの研究チームが製作と出荷に取り掛かっているという。
 そのことについてバンディ准教授は「自分で作り始めている人がいると聞いて驚いています。装置は複雑に見えますが、実は非常に単純な仕組みでできています。失われていたかもしれない命が1人でも多く救われれば、努力の甲斐もあったと思います」とOISTのサイト上でコメントしている。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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