「沖縄」を話し続け、考え続ける 『わたしが沖縄を発信するワケ』イベントレポ

 

沖縄の人じゃないと沖縄を語れないのか?

 ウチナーンチュと“ナイチャー”、そして沖縄と本土というボーダーの引き方と「当事者性」を巡る話題も飛び出した。

 仲村さんは「よく『沖縄と本土の溝』みたいな言い方がされるけど、県外の人たちが沖縄のことを考えて何かを発言した時、それを受けた沖縄の人の中には『ナイチャーのくせに何が分かるば』って言う人もいるじゃないですか」と指摘。「そんな光景もたくさん見てきて、自分も同じようなことをしちゃってないかなって、こういう場で発言する時はいつも気をつけてます」と続けた。

「当事者じゃない人が何かを発言することに対して、すごく強い言葉で返してくる人たちもいるけれど、例えば当事者だけしか声を上げられない世の中だとしたら、社会は変わりにくいものになってしまうと思うんです」と前田さんが言葉を継ぐ。

みんながみんな同じ温度感ではなくて、自分なりの温度で興味を持っていくことが重要なんだと思います。『あなたの沖縄』の活動がすごく良いのは、結論が出ない、良し悪しでは判断できない問題についての思いを、隣の人に話しかけるように『私はこう思うんだよね』って語っていることです」

 西さんは前田さんの言葉に同意し「答えが出ない中でやっていかないといけないし、それしか出来ないとも思うんですけど」と応じる。「“溝”を埋めたり、“壁”を乗り越えるんじゃなくて、それに向き合ってみんなで話し続ける、考え続けるしかないんですよね」

「なぜ今私たちがこんな風に問われているのか?」

 Rude-αさんが「うむい」を歌い上げたこともあり、イベント後半では平和や沖縄戦を巡る話が中心となり、来場者からも質問がいくつか投げかけられた。

 西さんは90年代生まれについて「おじいちゃんおばあちゃんから直接戦争の話しを聞けた最後の世代」ということを感じているという。「戦争を経験していない人がどう伝えていくかを考えないといけないし、そして直接話を聞いた私たちがどんな場所でどんな思いで語ってくれたのかというディテールも含めて表現していくことに意味があると考えています」と話した。

 来場者からの「沖縄は今平和ですか?」という問いかけに対して、Rude-αさんは「空を見上げたら戦闘機が飛んでるし、地面からは不発弾も見つかるし、100%安全という状況ではないと思います」としつつも、自身の祖母やコザの個性的なおばーたちの微笑ましいエピソードを例に出しながら「日常で『平和だな』と感じることはある」と目を細める。「何に平和を感じるか、ということもあるでしょうね」と問いを残した。

 一方、中村さんは「平和じゃないと思います」と言い切った。「もしかしたら平和というのは、誰も見たことがないのかもしれなくて、ずっと望むものだと思っているんですよね」と続けて、「だからと言って決して今が不幸というわけではないですよ」と付け加えた。

 最後に客席から投げかけられた米軍基地の存在についてどう思っているか、という質問では西さんが「沖縄の人たちや平和が脅かされる暴力があることには絶対反対だし、みんながそうだと思います」とした上で、「良し悪しという二択の枠組みではなくて、なぜ今そこに基地があるのか、なぜ今私たちがこんな風に問われているのかを考えることが、そのまま平和を思うことにつながると思っています」と語った。

 複雑かつ多層的な沖縄の社会的・政治的問題について発言することには、その状況を目の当たりにして真摯に向き合っている人ほど慎重にならざるを得ない。それゆえに、ある種の“ハードルの高さ”があるのも確かだ。しかし、だからといって何も言わず、何も議論しなければ問題が解決に向けて進むことは永遠にない。
 とは言え、すぐに出る明確な「正解」など無いのも事実。そういった状況下では、西さんの言葉にもあるように「話し続ける、考え続ける」ということが大きなアクションの1つになるはずだ。今回のイベントは、それを形にして実践した場だった。終演後、フロアで世代の違う人たちが意見を交わしている光景を目にして、そう感じた。

■関連リンク
あなたの沖縄|コラムプロジェクト
“沖縄に出会い直す”90年代生まれの言葉たち 「あなたの沖縄」25日にイベント ‖ HUB沖縄
【慰霊の日】島に咲く“うむい”を未来に手渡す Rude-αが楽曲に込めた祈り ‖ HUB沖縄

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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