国家的プロジェクトを支える琉球大学再生医療研究の現在地

 
琉球大学医学部(同学部HPより引用)

 琉球大学(沖縄県西原町)が再生医療の分野で全国的にも存在感を高めている。手術や治療で余り、一般患者から提供された脂肪や歯、骨髄などの組織を、学内に設置した「みらいバンク」を通して大手の製薬関連企業に非営利で安定供給し、組織中の「体性幹細胞」を活用してもらうことで再生医療関連の研究発展の基礎を担っている。2017年には琉球大学発のベンチャー企業として、脂肪組織由来幹細胞を原料とした化粧品を製造販売する株式会社GRANCELLが立ち上がり、その後も業績を伸ばし続けているなど、沖縄の新たな産業の可能性としても先行きは明るい。

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体制幹細胞を琉大から安定供給「みらいバンク」

 「体性幹細胞」とは、特定の組織や臓器で、消えゆく細胞の代わりを造り続けている細胞のこと。その中でも、比較的安全かつ十分に採取しやすい脂肪幹細胞を例に挙げると、乳房欠損や軟骨再生、難治性潰瘍などさまざまな病気に有効だと考えられている。

 その一方で、日本の再生医療の問題として、薬剤などの原料となる体性幹細胞を国内で安定的に入手することが困難で、研究開発にかかる時間がかかってしまうことが挙げられている。このことを背景に“国内の先駆け”として「みらいバンク」が立ち上がった。

 同大では2015年に再生医療研究を開始。2020年7月に国内初となる「産業利用倫理審査委員会」を設置し、医療倫理的にも適切に細胞提供ができる体制を構築した。翌21年11月には製薬大手のロート製薬に脂肪組織の一部を提供。これを皮切りにこれまで琉球大学は9社と連携してきた。2021年度は8件、2022年度は17件の提供実績がある。

 同大学大学院医学研究科教授でみらいバンク長である清水雄介医師は「沖縄は地理的に日本の端にあって不利にも思われますが、海外と連携していくという点では非常に有利な立地だと言えます」と、人やモノの面で海外を視野に入れた際のメリットを語る。

清水雄介医師

 さらに「企業にとって拠点を分散させることは、災害時などのリスク回避にもなります。本州から離れた沖縄でヒト組織が入手できることは、もしもの際の備えにもなります。これらの観点からも、琉球大学は(旧帝大や有名私大に比べると)小さい大学ではありますが、相対的な重要性が増しています。小さい大学だからこそ、一丸になって研究や体制構築に取り組めています」と話す。

再生医療研究で大学発ベンチャーも

 そんな中で大学発ベンチャーとして立ち上がったのが、前述の株式会社GRANCELL(奥田もえり社長)だ。同社は2017年2月に立ち上がり、同7月に琉球大学発ベンチャーの第1号として認定された。同大での再生医療研究を社会にいち早く還元することがコンセプトで、「COSME ACADEMIA(コスメアカデミア)」ブランドの4商品(クリーム、ローション、美容液、マスク)を展開している。

COSME ACADEMIAの商品ラインナップ(同ブランドHPより引用)

 これらのアイテムは脂肪幹細胞を原料にしたもので、肌の再生成分を含んでいる。形成医療や美容医療の専門家でもある清水医師と、先端医学研究センター特命准教授の角南寛医師が無報酬の学術顧問を務めており、高い信頼性を担保している。現在のところ6期連続の黒字を記録しており、沖縄県内ではそれほど多くない医療テクノロジー系の産業として先駆者的な企業となっている。

スポーツや観光にも応用 沖縄は「勝ちやすい」

 再生医療は、スポーツや観光の分野での応用にも期待がかかっている。2月3日には「スポーツ再生医療シンポジウム」(主催・沖縄スポーツ再生医療推進共同研究体)が琉球大学で開かれ、医療とスポーツがもたらす沖縄観光の可能性について議論がされた。

スポーツ再生医療シンポジウムの様子=2月3日、琉球大学

 シンポジウムで清水医師は「個人的な見解なんですが」と前置きした上で、2024年度末に宜野湾市へ移転予定の琉球大学病院と医学部の跡地利用について「スポーツ選手が集まってヘルスケアを行う施設にできれば」との展望を語った。同じく登壇していた元プロ野球選手の斎藤佑樹氏も、ケガに苦しんだ現役時代を振り返って「再生医療は多くのアスリートを救う一つの材料になります」と期待を膨らませていた。

 シンポジウムを振り返って清水医師は「沖縄県にはプロ野球キャンプなど国内外から多くのアスリートが集まってきます。沖縄のプロスポーツチームもたくさんあります。沖縄で選手が治療を受けることはもちろん、『あの選手がここで治療した』という実績から、一般の人も医療ツーリズムで訪れるケースが絶対増えるはずなんです。観光地としての魅力も高い沖縄が、この分野では“勝ちやすい”という要素が潜在的にあると考えています」と、沖縄の“強さ”を語る。「もしも大谷翔平選手が沖縄で治療したとなったら、メジャーリーガーだって来ますよね」

「沖縄を日本一のスポーツ再生医療県に」

 琉球大学は2018年に、医療分野の研究開発の中核的な役割を担う国の機関「日本医療研究開発機構」による再生医療事業に、いち地方の国立大学でありながら、東京大学や慶應義塾大学らと並んで採択されるなど、再生医療の国家的プロジェクトを支える立場ともなった。

「5年後には琉球大学を日本で一番スポーツ再生医療に取り組んでいる大学にしたい。沖縄を日本一のスポーツ再生医療県にしたい」との目標をはっきり堂々と述べてみせた清水医師。大きな目標だったとしても「この夢を掲げるということが大事なんです」。日本の端でなく、周辺諸国の結節地としての可能性は、医療にも観光にも通じている。


長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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