琉球から現代、沖縄の女性たちのあゆみを眼差す 公文書館で『女性たちの沖縄』

 

教員不足は50年前から続いている?

 また、「学級担任外教諭増員についての要請決議」(1972年)は復帰直前のタイミングで出された要請文で、「中頭地区母親と女教師の大会」で決議したものを当時の中央教育委員会に提出している。

 決議文では女性教員たちに「児童に対する教育労働」に加えて「妻として母親としての家族の健康管理をはじめ多忙な家事労働」という二重の負担があると指摘。現状のままでは「児童、生徒の教育がなおざりなものとなり、また他の同僚教員へのシワ寄せとなることは必須」という現場の窮状を述べた上で、教員の増員を訴えている。

 この資料を目にした時、とてつもなく既視感を覚えた。沖縄県内で教員不足の深刻化が断続的に報道されているからだ。50年以上のタイムスパンを経て、休暇のとりやすさなどはもちろん改善された部分もあるだろうし、教員を取り巻く状況は多少なりとも変わっているかもしれないが、本質的な構造は変わっていないのではないかと考え込んでしまう。

 現在にも通ずる問題・課題を訴える陳情や要請の文書から分かるのは、一筋縄ではいかない課題解決の困難さと、その一方で声を上げる人たちが存在し続けることの重要さだ。

「社会はもちろん徐々に変わってはきています。環境や社会的な立場、そして労力などを考慮すると、みんながみんな声を上げるというのはなかなか難しい側面もあると思うんです。だからこそ、こうして声を上げた女性たちが結束して訴えを出す行為を繰り返すことが、今につながっているということを少しでも感じてもらえたらと思っています」(麻生さん)

米軍基地があることの暴力性

 最後の「女性の人権尊重と地位向上を目指して」では、戦後から現在までの「性的暴行目的の殺人事件発生状況」をまとめた大きな表が目に飛び込んでくる。1945~2016年までに発生した事案が事実ベースの筆致で羅列されている文章を読み込むと、本当に今自分が立っているこの地で起こった出来事なのかと疑うほどのショックを受けるかもしれない。

 「こうしてあらためて見てみると、やっぱり衝撃的でした」と麻生さん。「敗戦直後に事件が多発している状況を見ると、本当にどこにも安全な場所が無いような状況だったことが如実に分かるかと思います。米軍基地があるということの暴力性と、被害を受けた女性たちが少なくともこれだけの数いたという現実に向き合う必要があります」と続けた。

 強姦事件・強姦未遂事件についての数字も記載されているが、これらはあくまで発覚した分の数字だ。この2種類の事案については、二次被害への懸念や社会的な理解・支援体制の不十分さから、被害者がいわゆる泣き寝入りをして被害を申告できないケースもかなり多いとみられる。それゆえ、実数は数倍どころか、0の数が増えて桁が違ってくる可能性も否定できない。

 そして、この表のすぐ下に展示された「米軍人による婦女子強姦事件に対する住民の指導に関する件」(1947年)という琉球政府文書の記述には、当時の米軍政府の副長官が沖縄民政府知事に対し、強姦事件が一向に減らないのは住民が自重・自戒しないためだと遺憾の意を示して「住民の自覚を喚起した」とある。

 今現在でも特にネット上で頻繁に見かける、被害者を糾弾する「夜出歩く女性も悪い」論法である。責任を問うべきは加害者であるはずなのに、弱い立場の方を責め立てるというロジックには目を疑うが、こうした物言いが70年以上前から今までずっと続いているのだ。

「声を上げることが出来なかった人たち」の存在

深堀りコーナー

 メインの展示の他にも展示室中央には深堀りのコーナーが設置されており、Aサインバーや売春防止法、戦後の医療を担った「公衆衛生看護婦」、無国籍児などの資料も並んでいる。

 近代化、戦後、そして復帰を経て「女性たちの立場や権利は本当に少しずつしか変わってこなかったんだなと感じます」と麻生さんは話す。ただ、前述したように声を上げること、訴え続けることがその小さな変化を生んできた。こうしたプロテストの歴史を蔑ろにすべきではなく、それを踏まえた上で今とこれからの社会を眼差していく必要がある。

「公文書として、記録として残っている声は本当にほんの一部だと思います。その過程で、声を上げることが出来なかった人たちも当然社会にはたくさんいたはずで、それをどんな風に読み取っていくのかも大きなテーマだと考えているんです」

 公文書館の開館時間は午前9時~午後5時、休館日は月曜・祝日・慰霊の日(6月23日)。

■関連リンク
「女性たちの沖縄―公文書館資料にみる女性のあゆみ」(沖縄県公文書館WEBサイト)
県民は何を望んだのか 公文書でたどる復帰 「日本復帰と沖縄」展 ∥ HUB沖縄

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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