有馬記念のOP曲を手掛けたのは沖縄出身の音楽家・稲福高廣さん

 

人との縁でつなげたキャリア

レコーディング現場での稲福さん(左、本人提供)

 音楽家としての道を歩み、さらには経営者としてチームをまとめる。いわゆる、多数派ではない生き方を突き進むのには、そもそもの強い行動力があった。

 大学時代には人脈を増やしていこうと、銀座の高級クラブでボーイとして働いたり、新宿のバーの店長をしたり、著名作曲家の運転手やアシスタントをしたりした。政界や経済界の一線に立つ人とも付き合うことができた。「なので、大学の勉強は2割ぐらいしか力を傾けていなくて、8割は社会勉強をしていました。良くない学生なんですけど」と話すものの、そうやってつながった人との縁のおかげで、大学在学中からメジャーアーティストのサポートキーボーディストを務めるなど、他の学生よりもいち早く音楽の現場に飛び出していた。

 作曲家として本格的なキャリアを踏み出す時には、この人に師事したいと思った作曲家の名前をCDの歌詞カードから探して、自分で直接連絡したこともあった。ほとんどの場合で相手は耳を傾けてくれたという。

お金を稼ぐことを優先する理由

 稲福さんが仕事をする上で優先すべきことは、非常に明快だ。

「お金を稼ぐことです。仕事は報酬をしっかりもらってこそですよ。楽しさだけではできません」

 思い浮かべるのは、福プロダクションのメンバーの顔だ。「人を育てて羽ばたかせたいんです。そのためには報酬もしっかりお支払いできて、実績も作らないといけません。メンバーのためにも稼がないといけません」

 稲福さん自身、音大在学中に取り組んだあるプロジェクトの方針や姿勢の違いから、自身から離れていく人が多くいた中で、そばにいてくれる人の大切さを身に染みて知った過去がある。だからこそ「僕のそばにいてくれる人は、僕にとって宝なんです。人間なので、頼りたいし頼られたい。要は、寂しがり屋なんですよね」と話す。

海外の仕事も拡大へ

 そんな福プロダクションでは、中国語や英語ができるスタッフを強化しつつ、“世界の二大言語圏”の人々と直接やりとりすることで仕事の射程距離を海外に広げる。今年はさらに韓国人とアメリカ人のメンバーを迎えるつもりだ。自身が中国やアメリカでの出会いの中で、魅力的だと感じた人に声をかけた。

 そうやってプロダクションの基盤を固めた上で、今度は自分自身が海外に飛び出して活動する予定だ。目指すは世界一の音楽大学と言われる米国ニューヨークのジュリアード音楽院。「かっこいいじゃないですか。『世界一の学校で学んできたからこそ僕に仕事をください』って。僕は天才じゃないので」

 そのために定めた目標は5年後の35歳。それまでもそれからも、稲福さんはたくさんの楽曲を“宝”である仲間たちと生み出し続ける。あなたがどこかでふと耳にした曲が、福プロダクションで生まれた曲かもしれない。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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