沖縄県海外事務所探訪②台北編 沖縄進出を目指す台湾企業が増加している理由

 

 沖縄県は県産品の販路拡大や観光誘客などを担う海外拠点として、6事務所(台北、上海、北京、香港、シンガポール、ソウル)と1駐在所(福州)を置いている。

 このシリーズでは、各拠点がどのような取り組みを行っているのか掘り下げながら、世界の中の沖縄の可能性を一緒に考えていく。

 第2回は台北事務所。正式名称は「公益財団法人沖縄県産業振興公社台北事務所」だ。台湾の最大都市・台北のオフィス街に位置しており、台湾全域をその担当地域としている。ミッションは大きく4つで、「観光」「物産」「企業誘致」「文化交流」の各分野を推進することにより、台湾と沖縄の懸け橋としての窓口業務を全般的に行っている。現地の地域の豊年祭にも参加するなど草の根的な活動を行う上江洲辰徳所長に、沖縄と台湾の経済交流の現状などについて訊いた。近年は沖縄に進出したい台湾企業が増加傾向にあるという。その理由とは。

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沖縄県台湾事務所の(左から)江怡欣副所長、上江洲辰徳所長、邱萱之さん

沖縄のすぐそばにある巨大市場

台湾南部・高雄市の夜景

 沖縄から見た時に「一番近い大都市」はまさしく台湾の都市だ。人口規模にしても、台北市を中心とした周辺の新北市、基隆市などを合わせた台北都市圏の人口は約700万人で、沖縄県の総人口の約5倍に匹敵する。その他にも、台中市(約280万人)、高雄市(約270万人)、桃園市(約230万人)、台南市(約190万人)など、九州ほどの面積の台湾に大都市が点在していることから、沖縄にとっては観光面でも物産面でも、その魅力を売り込むことで大きなチャンスがある巨大市場だ。

沖縄に進出したい台湾企業が増加する理由

 台北事務所の一角には、沖縄県産の飲料や黒糖、県産原料が使われたスイーツなどがズラリ並べられていた。その中にちょこんと混ざっていたのが「分解茶」だ。日本国内で見かけることは少ないが、台湾のスーパーやコンビニに行けばほぼ確実に手に入る。

 沖縄産のゴーヤーの粉末を原料の一部に使った商品で、健康に良く美味しいことから、ロングセラーを続けている。沖縄の農産加工品が大きな市場で成功した代表例とも言える。

店頭に並ぶ分解茶

 このようにして沖縄から台湾に商品を展開する時に、関連業者を紹介したり、マーケット情報を提供したりといった「はじめの一歩」を踏み出すための機能が、台北事務所にはある。「台湾で30年以上培ってきたネットワークがありますので、まずはご相談ください」と、上江洲所長は胸を張る。

 逆に、台湾から沖縄の市場へ商品を輸出したいという企業も近年は増加しているという。食品や化粧品、IT関連ではアプリサービスなど、分野はさまざまだ。台湾よりも圧倒的に市場規模が小さい沖縄でビジネスを展開させるのには、どのようなメリットがあるのか。

 「まずはテストマーケティングの意味合いも含めて沖縄に進出して、ゆくゆくは日本市場全体に進出したいと話す経営者の方もいました」(上江洲所長)

 台湾から見た時に「日本の入り口」となりやすい沖縄。沖縄経済の活性という視点からも経済交流でプラスの化学変化が起きるきっかけが転がっている。

台北事務所が入居するビル周辺のオフィス街

みんなでダンス!観光PR

 台湾各地で開催される旅行関係や物産関係のイベントにブースを出展して沖縄をPRすることも、台北事務所の大事な業務だ。特にここ数年間はコロナ禍で台湾からのインバウンドがストップしている期間が長かったため、台湾の人々に沖縄観光の情報が届きにくい現状にあった。その間にオープンした沖縄県内の観光施設や沖縄の物産品などの案内を、台北事務所のメンバーがステージ上で発表する活動なども行っている。

 上江洲所長は「発表した後に、ダンスもしました」と、満面の笑顔で話す。

2022年台湾美食展での県産品ダンス(「沖縄県産業振興公社 海外事務所・委託駐在員」のFBページより)

タロコ族の豊年祭 実現なるか編み物交流

タロコ族の豊年祭の様子(Facebookページ「沖縄県産業振興公社 海外事務所・委託駐在員」より)

 「昨年10月にはタロコ族の豊年祭に参加してきました」と上江洲所長。台湾には政府認定の16原住民の他にも多くの民族集団が存在する。タロコ族は台湾東部の花蓮県北部に居住しており、人口は2万人前後とされている。ちなみに台湾では「原住民」という呼称が一般的で、日本語で「先住民」とするとすでに滅びたかのようなネガティブなニュアンスがついてしまうため、公式に「原住民」という表現がされている。

 知人を介して紹介を受けたことをきっかけに、歴代の台北事務所長としては初めて豊年祭に参加した。伝統行事の際には伝統衣装に身を包むところにも、沖縄の豊年祭と共通する部分がある。

 特別に作ってもらったというタロコ族の衣装に身を包み、豊年祭の壇上でスピーチに臨んだ上江洲所長は「タロコ族の歴史や文化についていろいろと勉強していきたいと思っています。みなさんにもぜひ沖縄のことを知って頂きたいです」とちゃっかりと沖縄PRも忘れなかった。

衣装を作ってくれた女性(中央)と並ぶ上江洲所長(Facebookページ「沖縄県産業振興公社 海外事務所・委託駐在員」より)

 タロコ族に限らず、台湾の原住民の伝統的な織物の編み方が、沖縄の編み方ととても似ているという。「タロコ族の編み物の先生から『沖縄との編み物交流がしたい』という声も頂きました」と話し、新しい文化交流の糸口もつかみ始めている。

メールでも気軽に相談可

 「いつでもウェルカムです。メールでもお気軽にご相談ください」とにこやかに話す事務所メンバー。台湾で事業進出やイベント開催を考えている人はとにかくまず沖縄県台北事務所に頼ってみるのが吉だろう。分解茶をそっと差し出してくれながら、いろんなヒントを教えてくれるはずだ。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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