台湾金門島旅行記【後編】マントをまとったシーサー?風獅爺
- 2023/1/7
- 国際
昨年12月29日、中国から直線距離で約5kmしか離れていない台湾の離島県・金門県と沖縄を結ぶ初めてのチャーター便が運行され、沖縄からは約120人がツアーに参加しました。金門県と沖縄県台北事務所、台湾の旅行会社「彭大家族旅行社」、沖縄ツーリストが連携して実現したこのツアー。
今回はその旅行記の後半です。沖縄と金門には驚くほどたくさんの共通点があります。
・国共内戦の最前線としての歴史
・特産の蒸留酒「高粱酒(こうりゃんしゅ/ガオリャンジョウ)」
・沖縄のシーサーのような「風獅爺(フェンシーイェ)」
などなど。今回はお酒とシーサーについてお話しします。
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金門島最大の産業「高粱酒」
次の話をしましょう。酒です。
沖縄には言わずと知れた蒸留酒・泡盛がありますね。金門には高粱酒があります。高粱酒の生産こそが金門島の最大の産業です。今は台湾市場での流通が中心ですが、コロナ前は主に中国に輸出されていました。
高粱酒はその名の通り、高粱という穀物からできたお酒です。度数は38%だったり58%だったりいろいろとありますが、まぁどっちみち高いですよね。あまりお酒には詳しくない僕ですが、飲むと後味でふわっと穀物の味がして「これが高粱かぁ」ってなります。
泡盛業界にも高粱酒業界にも共通した課題があります。それは若者をどう取り込むのか、ということです。やっぱりあれなんですかね。若者のアルコール離れというのは土地が変わっても共通なのでしょうか。もしくは度数が高い酒が敬遠されているのか。そこで高粱酒のメーカーも若者向けにあれこれと新商品の開発に勤しんでいます。
その一つが高粱酒のカクテルです。あれ?どこかで聞いたことありますね。沖縄の泡盛カクテルみたいです。
実際に金門島初日の夜、ホテルの受付のお姉さんに教えてもらった「金門島で一番オススメのバー」に行って、高粱酒を楽しんできました。「Vent Bar 夢酒館」という、ネーミングからして楽しそうなバーです。6人掛けぐらいの小ぶりなカウンターに、他にはテーブルが1つ、あとは外にもテーブルがいくつか、といった具合です。バーテンダーは人当たりのいい兄さん2人。
メニューには高粱酒のカクテルもしっかりありました。カンパリが入った苦味ガツンの大人な一杯、柑橘系の香りが印象的な爽やかな一杯、ピーチやオレンジの甘さが優し気な一杯。あとはジンやウォッカに混ざって、普通に高粱酒のショットもありました。
お酒が文化と結びつきやすいのは、やはりその土地で生産されたり、貿易をしている中で地域に根付いたりした農産物が、お酒になって楽しい気持ちにさせるからなんでしょうね、きっと。表面だけで言えば、高粱酒のショットを飲んで楽しくなっちゃっているだけなんですが、高粱酒を飲んでいる時はたしかに、金門島のストーリーごと飲んでいるような気がしていました。
風獅爺にあって、シーサーにないもの
最後のテーマはシーサーと風獅爺です。沖縄のシーサーと実によく似ている風獅爺はもはや、金門島の守護神でありシンボルです。風獅爺を見つけてオンライン図鑑を作るアプリもあるほどで、まさに金門島版ポケモン。ちなみにこのアプリには、2022年9月のアップデートで沖縄のシーサーも追加されました。
金門島の冬場は、強い北東の風が吹きつけます。その風から人々や集落を守るのが風獅爺です。「口を開けて風を食べる」というワイルドなディフェンスの仕方で、明時代からの文化だそう。沖縄のシーサーのように個人の家の門や屋根の上にあるのではなく、集落に点在しています。それぞれに名前があり、誕生日の時には集落の人たちがお祝いまでするそうです。
色や形、大きさもさまざまです。マントを付けてヒーロー感が際立つ風獅爺もいます。シーサーのように4足で鎮座しているのはかなりの少数派のようで、だいたいが2足で立っています。そして、必ずちんちんが付いています。しかも、惜しげもない感じでかなり強調されて付いています。「男らしさ」の象徴というか守護神的な強さというか、そんな意味合いがあるのかもしれません。
かくいう沖縄のシーサーも、もともとは中国からの流れがあると聞いたことがあります。琉球の時代に交易していたのは、今の福建省でした。まさに金門県のある省です。同じような獅子信仰が、分化して違う形になったかもしれないということは興味深いです。
とここまで書きながら、ふと思いを巡らせたものがあります。それは、石で作られた沖縄の集落獅子です。沖縄本島南部に多く見られる、集落を守るための獅子。この役割こそがまさに風獅爺と共通しているのではないでしょうか。たしかに、ここまでくると金門島の風獅爺、全部見て回りたくなってきました。
観光産業は平和産業
以上、沖縄と金門を比較することで、金門のことを知りながら沖縄の文化も見直そうとの思いで書き進めた今回の回想記。今回のチャーター便就航など、決定的な動きがないとこれまでなかなか金門島について知る機会も少なかったと思いますが、裏を返せば何か一つのきっかけでここまで近くに感じることができるんだと思えた瞬間でもありました。
似た文化を持つ沖縄、台湾・金門、そして対岸の中国・福建。やはり実際に人と人とが行き来して、言葉を交わして、友だちになることで湧き出てくるプラスの感情も多いと思います。そういう意味においても、観光産業は平和産業だと再認識できました。地の利はそうやって生かしていきたいですね。