沖縄に根付きつつある大喜利カルチャー フリー芸人クレの挑戦

 

 漫才、コント、ものまね、etc…。さまざまあるお笑いのジャンルで「大喜利」が沖縄で熱を帯び始めている。11月には初めて、県内のお笑いタレント事務所などの垣根を超えた大喜利イベント「第1回大喜利模合杯」が開催され、満席となった那覇市のテンブスホールは笑いの渦に包まれた。純粋にお笑いとして楽しめながらも“知的な頭脳戦”としての一面も見せる大喜利の奥深い魅力。大喜利模合杯を主催したのは、フリーのお笑いコンビ「めたりか」のクレだ。沖縄に大喜利文化を広めたいという1人の純粋な想いが、花咲いた瞬間でもあった。

大喜利とは

 大喜利は、あるお題に対して参加者が回答する内容で笑いを取っていくもので、テレビ朝日系列『内村プロデュース』、フジテレビ系列『IPPONグランプリ』といったテレビ番組などの影響もあり、一般的にも認知度を高めていった。さらにNHK『着信御礼!ケータイ大喜利』や大喜利サイト『bokete』の登場は、大喜利を“見るもの”から“参加するもの”に変革させたきっかけでもあると言える。

 前述の「第1回大喜利模合杯」にはフリーやアマチュアも交えた24人の芸人が参加。優勝にはみっち~(FEC所属)が輝いた。

沖縄のお笑いシーン

「この規模の大喜利イベントは初めてですよ」「これを機に大喜利を頑張っていきたい」―。クレが他の芸人から贈ってもらった言葉だ。

 沖縄はいち地方都市としてはかなりの数の芸人がいる。「関東芸人」「関西芸人」「福岡芸人」のように、「地名+芸人」でワードが成り立つのはほぼ大都市圏に限られる一方、沖縄は「沖縄芸人」という市場が一定の規模で確立されている珍しい地域だ。

 沖縄テレビ『新春!oh笑い O-1グランプリ』、琉球朝日放送『エッカ石油お笑いバイアスロン』といった沖縄県内のお笑い賞レースもあり、特に漫才やコントの実力を磨く素地は他の地方と比べても整っていると言える。

初めての大喜利に「生きてる実感がした」

めたりかのクレ

 そんな中で発展途上だったジャンルが大喜利だった。クレが初めて大喜利をしたのが、忘れもしない2021年6月のことだ。県外の芸人と一緒になってZoomで参加した大喜利イベント。「ずっと楽しい1時間でした。『これは何なんだ』って。感動してしまったんですよね。1人1人の個性があふれ出てて。生きているっていう実感すらありました」

 大喜利の魅力をさらに広く伝えたいと「大喜利模合杯」を個人で主催した。事務所に所属していないこともあり、沖縄の芸人や事務所とのつながりは少なかったため、直接知っている芸人何人かにメッセージを送ることから始めた。何から何まで初めての経験だった。

 普段の仕事もこなしながら、4人の子を育てる父でもある。多忙な日々で、妻には「なんで参加する側じゃなくて主催する側なの?」とも問われたというが、クレは「僕がやるしかないと思っていました。やりたいという情熱が抑えきれませんでした」と振り返る。

地道に続けた週1の“大喜利コミュニティ”

 物腰の柔らかなクレが「僕は(沖縄の大喜利の)開拓者だと自負しています」と胸を張るのは、今回のイベント主催に留まらない活動を続けてきたからだ。

 クレは2021年11月から「沖縄県唯一の全員参加型」を銘打った大喜利コミュニティ「大喜利の壺」を主催している。那覇市の「壺屋演劇場かさね」で毎週行っているもので、ライブではなく、あくまで参加するためのコミュニティだ。ツイッターアカウントにも「大喜利で遊んでみませんか!」と敷居の低さをアピールしながら、大喜利の楽しさを共有し、互いに腕を磨く場にもなっている。

大喜利の壺Twitterより

 テンブスホールでの「大喜利模合杯」は、そういった意味でクレにとっては一つの節目になる出来事だった。プロの芸人が中心となった24人の出場者のうち、6人は「大喜利の壺」の出身者。彼らも引けを取らずに大喜利を楽しむ姿があった。

 「大阪で大喜利のシーンを作っている人が、イベントを見て『沖縄はレベルが高い』と言っていました。地域独特のローカルな話題を放り込んで笑いを取っていくのが、驚きだったようです」

なぜクレはこんなにもへこんでいるのか

 沖縄の大喜利シーンで大きな一歩を踏み出し、成功裏に終えたかのように見えた「第1回大喜利模合杯」だったが、主催者であるクレは一人落ち込んでいた。取材日はイベントから1カ月以上も経っていたのに、いまだに落ち込んでいたのだ。

 「もっと良いものにできたはずなんですよ。今のところほぼ後悔しかしていないぐらいです。へこみすぎてまだ出演者や関係者のみなさんにお礼のメールも出せていません。パソコンで文字を見るのもキツいというか」

 聞けば、後悔の元は「もっと芸人さんをちゃんとケアできたはずなのに」「緊張してしっかりコミュニケーションを取れなかった」という、主催者としてどのように出演者に気持ちよく出てもらえるか、というポイントだった。もともとメールの文面を考えるのにも「失礼がないか気になって、1時間ぐらいかかってしまう」というほど、他者に気を遣ってしまう人柄だ。

「興奮してますか?」

 しかしその反省をバネにしつつ、もうすでに第2回の開催計画は着々と進んでいるという。スポンサーは初回に引き続き、那覇市の情報サイト「テキーラナビ」を運営するテキーラ不動産だ。イベント終了後、同社の代表からクレにこんなメッセージが届いた。「興奮してますか?」

 クレは思い描いてみた。2回目開催の情景を。クレの返事はこうだった。「興奮は冷めていません」

 もしかしたらまた立ち上がれないほどへこむかもしれない。だけどその興奮をたくさんの人に伝えたい。沖縄の大喜利文化は、着々と芽吹き始めている。


長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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