電力価格高騰、識者「節電では解決にならない」鍵はシステム転換

 
沖縄電力の吉の浦火力発電所=沖縄県中城村

 沖縄電力株式会社が来年4月から、電気料金の値上げをプランによって約4割~5割程度値上げする方針を示したことで、家庭にも企業にも経済的な負担がのしかかることになる。エネルギー自給率が2-3%と、全国平均11-12%と比べてもかなり低い沖縄県は、電力価格が外的要因で変化しやすい環境にある。

 官民問わず各分野をつなげ沖縄県内のエネルギー自給率向上を目指す「株式会社エネルギーラボ沖縄」の宮城康智代表は、電力供給を電力会社だけに頼らず、地域や行政がイニシアチブを取って電力を地産地消する大切さを説く。ひっ迫した電力事情に対して、県民ができることとは何なのか。宮城代表に電気料金の値上げや背景、今後のエネルギーのあり方の可能性などについて話を聞いた。

脱炭素化で上がり基調だった燃料価格

Q.今回の沖縄電力の値上げ申請をどのように受け止めていますか?

「電力価格の値上げという事象自体は、誰にとっても良いことではないと思います。沖縄電力も上げたくなかったでしょうし、家庭も企業も困ることになります。ただ、社会的な風潮として『沖電が価格を上げた』という見方には注意が必要です。食品もガソリンも含めてさまざまな物価高騰が続く中で、沖縄電力も企業として電力の安定供給するための設備を維持し、事業を継続させていくという点では致し方ないと言えます」

Q.値上げの背景や原因はどのように分析しますか?

「一つには、みなさんがご存じのように、世界的な燃料価格の高騰です。ほぼこれが原因とも言えます。ロシアがウクライナに侵攻したために、諸国からの制裁としてロシア産の天然ガスや石炭が輸出されなくなって、供給不足で燃料価格が上がったというシンプルな構図です。なおかつ、中東の産油国が燃料の増産に踏み切りませんでした。そういった様々な要素がドミノ倒し的に作用してどんどん高騰していきました。しかしそもそも、それ以前から世界的な脱炭素の流れで燃料価格は上がり基調でした。石油や天然ガスといった化石燃料の需要は2030年頃ピークを迎えると予測されていて、事業の将来性が厳しく投資が集まらなくなり、供給量を増やすことができなかったので、価格を上げて売るしかないということになったと言えます」

Q.今回、沖縄電力が他の電力会社よりも値上げ幅が大きかった背景には何があるのでしょうか。

「沖縄電力は他の電力会社よりも、発電のための燃料を石炭と天然ガスに大きく依存していること、また地域の燃料需要が小さいため、調達コストや輸送費用が他社よりも多くかかっているからなのではないかと見ています。このような特殊事情から、沖縄には『独自のエネルギーのあり方』を決める必要性が示されているのはないでしょうか」

地域自らエネルギーを『作り出す』という考え方

自前のソーラー発電システムで野外のオフィスワークを行う宮城さん=2022年4月

Q.節電を強化しようという雰囲気も増してきました。

「脱炭素化の流れもあり、燃料価格の高騰は一過性のものではないので、節電や省エネは『続けられること』をすべきだと考えています。例えば『寒いのに暖房を切る』というように無理してしまうと、健康被害やストレスの方が心配です。高齢者となるとなおさらです。さらには、節電を意識しすぎて『ろうそくで生活する』という人も耳にしましたが、人間の創造性や価値を発揮するために生まれたものをあまりに抑え込むと逆効果というか、もしかしたらエネルギー問題を解決するためにプラスになる物事も生まれなくなってしまう可能性すらあります。もちろん節電は大切ですが、やせ我慢して人間の活動が停滞することを危惧しています」

Q.節電以外にできることとは?

「燃料価格が今後も下がることがないと仮定した場合、解決策は『電気代が気にならないぐらいみんなの所得が上がる』か『今の社会システムを変えて電気代を下げるチャンスを生み出していく』のどちらかだと思います。エネルギーの観点から言うと、やはり後者に挙げたようなエネルギーシステムそのものの転換が求められます。個人個人の節電努力というよりも、システムを変えていくことで根本的な解決となって20年後30年後の課題を解決できるはずです」

Q.システムの転換のためにできることとは何でしょうか?

「沖縄電力は、電力の安定供給を守るために値段を上げざるを得ない一方で、消費者は値段を下げてほしいと思うので議論は平行線のままです。地域が一体となってエネルギーの議論を進めていくと共に、地域のエネルギーを自ら『作り出す』という考え方が必要です。例えば、行政が主体となって公有地にソーラーパネルを設置して公的施設の電力に使用するなど、エネルギーの地産地消をすることができます。地域で共同出資して発電所を作って、売電で利益を生むという方法もあります。実際に県外では市民出資型の発電所や、行政が一部出資した発電所ができています。このように、節電以外にもできることはたくさんあります。省エネ住宅を増やしていくことなどもその一つです」

Q.電力を主体的に生み出すという考え方は革新的ですね。

「沖縄電力の値上げが予定されていますが、社会全体でエネルギー問題に意識が向いている今というのはある意味でチャンスです。『電力が値上げされて残念だ』というだけではなくて、自分たちに果たして何ができるのかを総点検して、行政や民間企業がパートナーシップを作り組織的に取り組んでいくことが重要です。特に沖縄は島国で、エネルギーをこれまでは外に頼らないといけない立場にいました。ただ、今回の電気料金の変更をきっかけに、依存を減らすため地域で地産地消型のエネルギー社会に大きく変わることができるなら、世界的な注目も集まると思います」


長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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