違法ポスター・のぼりに撤去命令続出…沖縄は不名誉な“公選法特区”

 
違法掲示物への注意を呼び掛ける沖縄県選挙管理委員会のポスター

 選挙が近づくと私有地や道路沿いなどに乱立する、候補者・候補予定者のぼりやポスター。時期や選挙の種類によっては、こうした掲示物は公職選挙法で禁止されているが、もはや沖縄の選挙戦の悪い意味での“風物詩”と化している。

 来月11日投開票の県知事選に限らず、7月に実施された参院選や過去の大型選挙では毎回数千件の撤去命令が県選挙管理委員会から出されており、こうした県内の選挙戦が“公選法特区”と称されて非難、嘲笑されることも毎度おなじみ、という状況だ。例えばTwitterで「公選法特区」と検索をかけると沖縄の選挙関連のツイートが並ぶ。そして、選挙の度にこうした記事が書かれることになる。

前回知事選では3,497件撤去

 9月11日投開票の県知事選を巡っては、県選管が違法ポスターやのぼり旗の掲示について3人の立候補者陣営と支援政治団体宛てに計696件の撤去命令を出した(8月30日付)。県選管によると、内訳はまず候補者別で玉城デニー氏が237件(22種類)、佐喜眞淳氏が230件(7種類)、下地幹郎氏は24件(3種類)。
 さらに政治団体別では、経済・危機突破県民の会(佐喜眞氏支援)が118件(6種類)、平和・誇りある豊かさを!ひやみかちうまんちゅの会(玉城氏支援)が67件(9種類)、日本共産党沖縄県委員会(同)が18件(4種類)、そしてれいわ新選組(同)が2件(1種類、本部宛て)となっている。

ポスターはきちんと掲示場所で

 公選法では候補者などの個人名を記載したのぼり旗やポスターの掲示は、政治活動用事務所や演説会開催中に限り認められている。一方で、道路や住宅などの私有地、街頭演説でののぼり旗掲示や、任期満了の日の6ヶ月前から選挙期日までの期間のポスター掲示は禁じられており、2年以下の禁錮か50万円以下の罰金が科されることもある。

 県選管によると、これまでの知事選で出された撤去命令は2010年に4,008件、14年に4,103件、そして前回18年は3,497件にのぼっている。ちなみに、今年7月の参院選は755件(公示日後)となっている。

 昨年実施された衆院選の際、県選管は公示前に2度撤去命令を出して取り締まりを強化し、違法掲示物を具体的にイラストで示したポスターも作成して周知した。担当者は「数字は減ってはいるので、ある程度の効果があったと考えています」とし、沖縄の撤去命令件数については「国政選挙では他府県の数字が大きいこともありますが、県知事選挙レベルでみると沖縄は特に多いと思います」と述べた。

 ちなみに「公選法特区」という言葉が名を馳せたのは、2010年に実施された県知事選の際、選挙に向けて社民党が開いたパーティーのあいさつで同党の照屋寛徳衆院議員(当時)が、支援する候補者への激励で「沖縄は『公選法特区』なので、逮捕を覚悟でやってもらいたい」と発言したことが1つのきっかけだ(当時の新聞各社の記事には「冗談で言った」という照屋氏の釈明も記入されている)。

SNSで印象操作に利用されることも

 ネット選挙が定着しつつある昨今、SNSでものぼり旗やポスターの写真をアップして違法性を指摘する投稿を見かけることもある。ネット上で情報が広がっていく中、掲示物でのアピールが選挙戦を展開する上で逆効果になっていたり、あるいは有権者への印象操作に利用されたりしている面もある。

 インターネットやスマートフォンについて情報発信するモバイルプリンスさんは「政策や政局などと違い、違法掲示物はネット上で良くも悪くもカジュアルに指摘しやすい面がある思います」と話す。加えて、選挙カーや街頭演説といった「音」の煩わしさは文面や動画でもなかなか伝わりにくいが、“画像一発”で伝わる違法掲示物については、SNSで違法性を指摘するには「相性がいい」という。

 ただし一方で、SNS上での違法掲示物の指摘を「支持する候補者の相手候補を批判するための手段」として投稿しているユーザーも少なくない。公選法を遵守するための違法性の指摘ではなく、いわゆる“相手候補たたき”というニュアンスだ。

 他の候補も違法掲示しているにも関わらず、特定候補の掲示物だけをピックアップして批判し続ければ、その特定候補“だけ”がイメージダウンすることになりかねない。これは保革・左右問わず言えることだろう。モバイルプリンスさんは「有権者はこの手の印象操作にも十分注意しないといけません」と釘を刺した。

 各種選挙で年々投票率が下がっていることや、ネットの普及によりコミュニケーションツールの選択肢が増えたこともあって、従来のようにポスターやのぼりでのアピールやその数で選挙を盛り上げる時代は終わりつつあるのではないか。それにも関わらず、違法性を認識しながら「相手がやっているから」という理由で同じことを繰り返していては、“公選法特区・沖縄”の汚名はいつまで経っても返上できない。

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真栄城 潤一

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1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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