ライブハウス存続支援に大きなうねり「文化を生み出し続ける」決意

 
ライブハウス写真
Tシャツ工場さながらとなったフロア=那覇市の沖縄Cyber-box

 国の「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」の対象区域が4月16日に全都道府県へと拡大されたことを受け、沖縄県は同23日から、遊興施設を含めた多様な業種に休業要請を出した。MONGOL800やオレンジレンジなど、全国区でも人気を博す沖縄の音楽シーンを長く支えてきたライブハウスもその対象だ。大阪のライブハウスで2月にクラスター(小規模な集団感染)が発生したことも記憶に新しく、沖縄県内のライブハウスも休業要請以前から営業自粛やイベントのキャンセル・延期が相次いでいた。
 ステージの場としてだけでなくさまざまな交流を生んできた「音楽シーンの発信源」の灯を絶やさないよう、ミュージシャンや経営者、音楽ファンが一体となって“コロナ危機”を乗り越えようとしている。

Tシャツ販売で県内ライブハウス・スタジオ支援の受け皿に

 「どこのライブハウスもみんなきつい。コロナ収束後もそのままシーンを残していけるようにしなくては」と語るのは、那覇市では最老舗のライブハウス・沖縄Cyber-Boxを経営するホエモさん(48)だ。12種類のTシャツを製作販売して、売り上げを沖縄県内8ライブハウス、6スタジオに振り分けるなどして金銭面での直接支援につなげる行動に踏み切った。

 プロジェクトの名前は「Keep Making New Culture」(新たな文化を生み出し続けよう)。4月24日の夜に販売を開始すると、SNSなどでそれを知った人たちから続々と注文が入り、5月4日までに約800枚が売れた。30代や40代を中心に売り上げを伸ばし、注文の約15%は県外からだという。
 特に販売開始後の2日間は注文が約250件と殺到し、ホエモさんのケータイは5分に一回鳴っていた。これまで「支援したいけど方法が分からなかった」という人々の気持ちの受け皿にもなってきた。「ライブハウスとシーンはずっとつながってきた。一緒に乗り越えようという気持ちで一つになっている」

 「この企画に関わっているライブハウスやスタジオは全部お世話になっている」と話す下田義之さん(36)は、6着購入した。自分用に2枚、親戚用に3枚、女性へのプレゼント用に1枚だ。短期間で多くの売り上げがあることについて「音楽シーンは人々が『広く深く』つながっていて濃い。自分のように、どうにか支援したいと考える多くの人がいて、それが単純に可視化されたのだと思う」と俯瞰する。「支援金を寄付しても良いぐらいの気持ちだった。Tシャツも購入できて一石二鳥だ」と、今後もTシャツの購入を続けるという。

 ホエモさんはもともとTシャツの制作事業も手掛けており、その技術を活かした。ライブハウスのフロアは期間限定のTシャツ工場だ。手作りのマシン。いつもならドラムのビートやギターの轟音が鳴り響いているはずの週末の夜は、Tシャツに転写したインクを乾かすドライヤーの音が響いていた。

 沖縄Cyber-Box自体も3月半ばからどんどんイベントがなくなっていき、4月はライブがなくなった。5月にもイベントが入らないのは目に見えていた。固定費だけで月50万は出ていってしまう。他のライブハウスも同じ苦境に立たされていると想像するのは容易だった。
 「一丸となるための組織がもともとないから、自分のためにもみんなのためにも始めた。(多くの人が)買ってくれてありがたいですよね。他の店舗さんも好意的で協力してくれて」。
 コロナ収束後は、このTシャツを着た人々が会場を埋め尽くして、ステージに熱狂する姿をホエモさんは心待ちにしている。

Keep Making New Culture
https://scapegoat.thebase.in/

ライブハウス写真②
1枚1枚Tシャツを仕上げていくホエモさん。1日フル稼働してここだけで約50枚を生産できるという

「スタジオがなくなるとバンドそのものがなくなる」

 前述の「Keep Making New Culture」が支援するのは、ライブハウスだけではなく、音楽スタジオも含まれている。発起人でもあり、ライブハウス・沖縄Cyber-Boxのホエモさんはこう話す。
 「もしもライブハウスがなくなったとしても、県外からでも誰かしらがハコをまた建てるでしょう。ただ、スタジオとなると、企業が参入しにくい。練習する場所がなくなってしまうとバンド自体がなくなる」

 那覇市内で音楽スタジオを経営するMEGさん(35)は、自身もメジャーシーンで活躍したギタリストでもある。そのMEGさんは、YouTube上でこう語っている。
 「どこのスタジオもそうだと思うが、お客はほぼゼロで、苦境に立たされている。さっき家賃交渉をしてきたばっかりです。そんな音楽スタジオもしっかりと拾ってくれるホエモさんの男気に感謝している」

 一方、今回の企画に敢えて参加しなかったスタジオもある。沖縄市のGIG STUDIO 騒音舎だ。ライブハウスとしての機能もそろえており、沖縄のパンクシーンの最重要スポットとして認識されている。同スタジオは仲間同士で運営するNEO POGOTOWNというスペースの一角にあり、それぞれがデザイナーや映像制作、雑貨や衣類販売、タトゥースタジオなどをしながらの多角経営をしているため、スタジオ存続の危機にはまた至っていなかった。

 NEO POGOTOWNのYOUさん(34)は自身も楽観的な状況ではないとしながらも「ライブハウスやスタジオが生き延びるために、少しでも取り合いにならないようにしたかった。『助けて』と言っている所をまず助けた方が良い」と慮った。

2021年のライブを予約

 県内で活動するインディーズバンド「Milk and Cookie」は、那覇市のライブハウス「G-Shelter」で2021年5月に、同じく那覇市の「Output」で同年6月に自主企画ライブを決めた。1年後のライブにも関わらず、会場費はすでに支払っている。普段は会社員や経営者をしており、コロナの影響は多少あるものの、今はより難しい状況に置かれているライブハウスを支援すべきだと考えた。

 ベースのかずきさんは「ライブハウスは、学生時代からたくさんの友人が作れた大切な場所。とても楽しい遊び場で、多くの社会勉強もさせてもらった。ライブハウスがなくなるということは、子どものころからの思い出の公園がなくなってしまうのと一緒です」と語る。
 ギターのモリヤさんは傍らで続ける。
 「(1年後の会場費という)大きな資金をまず入れて、一緒に頑張ろうという思いです。『もう予約入れたんだから、閉めるなんていうなよ』と。タイムカプセルをイメージしています。このやり方がもっと他のバンドや主催者にも広まってくれたらと思っています」

 筆者も1年後のチケットを2枚予約した。Keep Making New CultureのTシャツを着て楽しめたらと思う。1年後のこの時期は梅雨時だろうが、集まる人々はきっと晴れやかな表情を浮かべていることを期待して。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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