コロナ禍を追い風に 伝統芸能エンタメ、収益ゼロからの多様化模索

 
NEO Ryukyuのメンバー
新しい感性を伝統芸能に付け加えた独自のステージを披露するNEO Ryukyuのメンバーら=2019年11月29日、那覇市内

 琉球国時代から独自の伝統文化を育んできた沖縄。三線の音が響く音楽やエイサーなどの演舞は、観光資源としても活用されてきた。
 新型コロナウイルスの影響による観光客の激減や、相次ぐイベントのキャンセルなどで、沖縄県内のエンタメ業界は5月上旬現在までに全体として減収の一途を辿り、演者と呼ばれる「舞台上の人々」にもしわ寄せが広がる。アクロバティックな創作エイサーやLED照明など光の演出を個性に、従来の伝統芸能とは違った方向からのアプローチで「沖縄エンターテイメントショー」を銘打つ団体「NEO Ryukyu」の与那覇仁代表(33)らに話を聞いた

沖縄の伝統芸能界の現状や展望を話し合うNEO Ryukyuの与那覇仁さん(左)と吉田翔さん=2020年5月4日、那覇市内

4月の収益は「0円」

 NEO Ryukyuは代表の与那覇さんと社員の吉田翔さん(23)の2人からなり、共にパフォーマーとしてステージでも中核を担う。その他、ステージごとに参加する所属パフォーマーも合わせて10人ほどの団体だ。創作エイサー団体「那覇太鼓」のメンバーを中心に、2019年1月、正式に設立された。海外公演を行うなど積極的に沖縄の文化を発信している。

 「これ、見てください」と差し出されたのは、団体を運営する「Neo Ryukyu合同会社」の収支資料だ。2月の売り上げはそれまでの平均の半分まで落ち、3月はさらに激減、4月に関してはついに0円だった。
 NEO Ryukyuは主に、国内外からの社員研修や修学旅行に加え、国際的な会合など、いわゆるMICEの分野でステージを披露し、沖縄文化体験の入り口に立ってきた。これらの案件が軒並みキャンセルになった。

 与那覇代表は「1カ月で収束すると思っていたんですけどね。2月、3月で落ち着いて、4月からは通常に戻るかなぁとは思っていましたが、余計に悪化しました」
 これまでの利益などを切り崩しながらなんとか持ちこたえているが「このままでは夏まで持たない」との予測を立てる。昨年12月に出演した3日連続公演の立て替え費用が、この4月にまとまって返ってきたのがせめてもの救いだ。
 「活動自体はストップしているので、出ていくお金はないのですが、休業手当や社会保険料などの出費は引き続き出ていくので、これが痛いところです。いざとなったら(貸し付けや給付金など)国の制度に頼るしかありません。金策を練る毎日です」

 吉田さんは「こういう(コロナ渦で暗い状況に直面している)時だからこそ、文化や芸術が大切になってくると思うんですけどね」と視線を向ける。自身も、中学時代にサッカー部を引退してから「フラフラとしていた」(吉田さん)時期にいとこに誘われてエイサー団体に加入し、いきいきとできる場所を見つけられた一人の青年でもあった。

 「芸能って無形なのでお金の使い方が難しいかもしれませんが、舞台に立つ人間がいて初めて芸能が成立します。演者の支援がもっと手厚くなれば」(与那覇さん)
 「これまで文化をつないできて頂いた、人間国宝級の方々への支援も大切ですが、これから文化を『つないでいく』若い人にも投資してプッシュしてくれると助かります。これは芸能に限らず、どの分野にも言えるかと思います」(吉田さん)

「芸能で飯を食う」という覚悟

 もともと、エイサー団体は地域の若者の活躍の場となる受け皿や、伝統文化継承の観点などから、地域の青年会などを中心に発展してきた文化だった。エイサー団体の活動資金は、各自治会の予算や団体への寄付などが一般的だ。

 しかし、NEO Ryukyuの与那覇代表が掲げるのは、そこから一歩踏み込んだ「芸能で飯を食う」というコンセプトだ。

 「これまで、伝統芸能の世界は、趣味の段階であることが主流でした。エイサーに打ち込んでいた子も(仕事や家庭で忙しくなるなど)だいたいが10代で辞めていきます。このことが、とてももったいないと感じています。沖縄の文化を継承し、県外、海外へと発信していくという意味でも、対価としてしっかりと評価してもらい、誇りを持ってほしいとの思いがあります」

 与那覇さんが沖縄の文化や芸能に関心を高めたのは、高校時代の進学先である、カナダ・ケベック州の「セドバーグ・ハイスクール」での日々がきっかけだった。ケベック州は、英語圏のカナダでありながら公用語はフランス語だ。学校教育では英語も用いられるが、日常生活ではフランス語が話される。2つの言語が共存する状況に「日本語とうちなーぐち(沖縄口)のような感じだな」と意識し始めた。

 初めて三線を手にしたのは、学校の先輩にバンド結成を持ち掛けられたのがきっかけだ。「君、沖縄の出身なんでしょ?変わった楽器できる人探しているんだけど」。そう言われたが三線を弾けない自分が悔しかった。沖縄に一時帰省した時に買ったその店で一番安い三線が、今の活動までつながった。

 結成したバンドの名前は「ザ・ブーガーズ」。英語で「鼻くそたち」という意味だ。

 高校時代から「沖縄の文化を世界に発信」という目的意識を育てていった。

アフターコロナのエンタメを模索「プロセスもコンテンツに」

 コロナ渦の影響下で、ただ事態が収まるのを待っているわけではない。舞台のないこの期間で今後の展望を見詰め直す機会とし、コロナ収束後のショービジネスの在り方を模索している。それは「目の前で見るエンターテイメント」だけではない「プロセスを可視化する」試みだ。2人はこう話し合っていた。

 与那覇さん「コロナが収まったら、自粛の反動でエンタメのニーズが高まるんじゃないかと期待しているよ」
 吉田さん「NEO Ryukyuが演目を完成させるまでの練習とか、そんなプロセスをオンラインで公開するのもいいんじゃないですか?完成品は作ってしまえばいつでも見れますけど、プロセスはその瞬間にしか見れないので」
 与那覇さん「そうだな。首里城の再建も、再建のプロセスそのものを観光資源にしようという動きもあるよね」
 吉田さん「ちょうどサグラダファミリアみたいな」

 新型コロナウイルスという前代未聞の向かい風に対峙しながら、最善の解決策を紡ぎ出し、芸能の多様化を目指す動きが、ここでも生まれ始めている。

NEO Ryukyu HP  www.neoryukyu.com


長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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