新型コロナウイルスが変える選挙のかたち①

 
沖縄県議会
沖縄県議会

 6月7日に投開票を予定する沖縄県議会議員選挙。新型コロナウイルスの影響で従来の選挙戦とは違った様相を見せている。

「ポスター写真がマスクをしていない」と苦情電話

「選挙ポスターの写真で候補者がマスクを着けていない。それでいいのか」
 沖縄本島中部のある候補の選挙事務所にはそんな電話がかかってきたという。

 候補者は「あくまで選挙ポスターですからね。直接そこにいるわけでもない。マスクで顔を隠すわけにもいかないですし」と吐露する。
 街頭演説の際に、マスクをつけるかどうかも判断に迷ったが、結局、つけない方針にすることに決めた。その代わり、運動員同士のソーシャルディスタンスを徹底し、自身も有権者に接近しないなどの対策を講じた。

 このように「有権者に近づけない」選挙運動は、これまでの戦い方そのものを一新させてしまった。

封印されたどぶ板選挙

「直接地域を回れず、とにかく厳しいです。万が一、自分が知らないうちに感染してしまっていたら、迷惑をかけることにもなり、動けないのです」
 そう重たい口ぶりで話すのは、県政与党側から県議選に出馬する新人候補だ。
 新人候補にとって、すでに知名度で差をつけられている現職候補と張り合うためには少しでも顔と名前を覚えてもらわなければならない。

 そんな時の鉄板の活動方法が、いわゆる「どぶ板選挙」だ。
 候補者や運動員が有権者の民家を一軒一軒回り、直接顔を合わせて話したり、握手をしたりして親近感を持ってもらう。特に沖縄のような地縁血縁や重視される社会では、どぶ板選挙の効果は高い。目と目を見て会話し、握手をして手の温もりを交換し合う。時には地元の話題でも出して盛り上がる―――。
 こういった積み重ねの一つ一つが、一票一票にダイレクトにつながっていくであろうことは十分に予想ができる。

「2月までは握手、3月までは訪問もできましたが、今は全くできません。志村けんさんが亡くなってからさらに危機感が広がったと感じています。自分が感染している可能性もあるので難しいです。回っていても良い顔はされなくなってきました」

 4月の第一週の週末だった。選対事務局長は会議でこう告げた。
「訪問するのはもうやめた方がいいのではないか」

 新人候補にとっては苦渋の決断。この時点で「地域の人に直接顔を売る機会」を奪われた形となった。
「家々を訪問することだけではなく、集会を開くこともできない。選挙運動は三密だらけの世界です」
(この候補の陣営幹部)

「三日攻防」もどうなるのか

 「自由に外を歩いて人と話せたあの頃」の選挙運動の流れは、一般的にはこうだった。
① 戸別訪問や街頭演説などで顔や名前、政策を売っていく。
② 地域ごとに人を集める中規模の「地域懇談会」を開催していく。
③ 総決起大会を開催し、気勢を高めて得票を伸ばす。

 特に投開票日までのラスト3日間は、「三日攻防」と呼ばれ、各陣営共に熾烈なアピール合戦を始める。人間の記憶は新しいものから上書きされていくため、例えば投開票4日前までA候補に入れようとしていた有権者がいたとしても、翌日にB候補本人と話したり演説を見聞きしたりすると、たちまちB候補に投票するという動きもよく見られるという。
 ちなみに「三日攻防」という言葉をインターネットで検索すると、沖縄の選挙のことばかりヒットする。沖縄独自の言い回しのようだ。それほど沖縄では、各陣営は最後まで気が抜けず、緊張感を維持することが求められる。
 沖縄名物のこの「三日攻防」も今回の選挙ではどうなるか分からない。

 企業動員の多い保守系は集票カード数の3分の1が、革新系は集票カード数から直接的にある程度の数が、実際の得票数の目安として計られる傾向にあるそうだ。

ポスター掲示板
那覇市内に設置された県議選ポスターの掲示板

主戦場は街頭へ

 力を入れたのは、街頭でのアピールだった。
「とにかく露出することが大切です。朝夕は必ず手を振って、ノボリの数を増やしました」
 もともと30本だったノボリは、100本追加して130本になった。それでも対立候補に比べると「物量差は3倍」といい、依然として「ノボリ知名度向上作戦」の差は開くばかりだ。

 交差点の電柱などに違法にノボリを立てている候補者も後を絶たないという。沖縄では選挙戦の度に脚光を浴びる負の側面だ。
 しかし新人候補者はこう言い切る。
「別の陣営が(違法掲示物などを)やる以上、こちらとしてもやらざるを得ない。これも含めて選挙です」

コロナ一色で争点が明確化できず

 ノボリの他にも、街頭での演説にも力を入れている。国や県の緊急事態宣言下で、自宅にいる人が増えているため、演説する場所から近いところに住む住民のなかには、耳を傾けてくれる人も多いとみるからだ。
 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大は、選挙運動のあり方のみならず、有権者へのメッセージの内容にまで大きく影響しているという。
「コロナ対策のフェイズが次々と変わるため、それに応じて政策面の主張も変えていかなければならなくなりました。でも、どこまで言及していいのか、あるいはこれからどのような展望になるのかも分からないのが正直なところです」

新型コロナウイルス以外のことに関する主張をすることも難しくなったという。

「とにかく世の中はコロナ一色になりました。8~9割はコロナの話題なのではないでしょうか。暮らしや企業への支援などは、どの候補者も同じことを言っています。争点となりやすい基地問題などには言及できる雰囲気になく、他の有権者との違いを浮き彫りにできない面があります」

 本来であれば投開票日1か月前には、支援者を集めてBBQなどのイベントをしたり、ワイワイと協力したりしながら、地域を2周も3周もしているはずだった。

「動きたいのに動けない。焦りしかない。そもそも選挙運動をやっている感じがしない」 支援者の男性はそう語る。手ごたえや糸口をつかめないまま投開票日は刻一刻と近づいてくる。まずはできることを毎日模索しながらとにかく街頭に立ち続けるしかない。

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