「地域をラジオで守る」電波塔建設でクラファン FMやんばるジョバンニ新城さん

 

 名護市のコミュニティ局・FMやんばる(77.6MHz)が、災害時の情報発信を強化すべく新たな電波塔の建設を目指したクラウドファンディングに挑戦。40日間で目標額の600万円を大きく上回る約810万円の支援を受けることに成功した。呼びかけの中心にいたのは、同局の社長であり、名護を愛し、名護に愛された男、その名もジョバンニ新城さん。

 コロナ禍でスポンサー降板が相次ぎ、自社予算での電波塔建設を断念しかけた矢先、名護を愛する人々からたくさんの手が差し伸べられた。

 市制50周年を記念して「50時間ラジオ」に踏み切り、時にはYouTuberとしても名護を盛り上げる「やんばるいちのフリムン(ばか者)」を自称するジョバンニさんに、防災への思いや名護愛を聞く。

番組で車まで買ったジョバンニさん

 「よろしくお願いします」と差し出された名刺には明朝体で「代表取締役 新城拓馬」の文字。その反対側にはゴシック体で「パーソナリティ ジョバンニ」の文字が躍る。

 童話「銀河鉄道の夜」の主人公の名前と、漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の登場人物にいそうな名前、という理由で名付けた。

 今は市役所からの文章がジョバンニさん名義で届くなど、本名よりもジョバンニさんとして名前が浸透している。

 「なので、本名で呼ばれると逆に恥ずかしいんですよ。かゆくなってきます」

「拓馬さん」と本名で呼ばれ、本気で照れるジョバンニさん

 代表番組は「ジョバンニ、車と家を買う」。名護の企業を盛り上げ、スポンサー企業に感謝を示そうと、車と家を本当に購入する過程をリスナーの皆と共有する壮大な企画だ。

 約4年前の特番で、246万円の新車の購入を1時間で決めた“実績”がある。

 「もうローンが終わるんで、次また番組で車買います」

災害の教訓から「地域の命をラジオで守る」

 このようなエンターテイメントとしての役割だけでなく、災害時の情報発信元として「地域の命をラジオで守る」という使命感を持っていたジョバンニさん。東日本大震災時には65%の人々がラジオから情報を取っていたというデータにも触れていた。

 「ラジオが一番に担うべきは防災で、防災のためのラジオ局であるとも思っています」

 実は名護市は、災害被害を受けてきた地域でもある。1960年にはチリ地震による津波によって真喜屋地区で3人が犠牲になり、小学校がまるごと流されている。名護湾と大浦湾の2つの湾があるため、津波の威力が増幅される地形でもある。

 名護市民の防災意識を高めたいと、今年7月には防災をテーマに特番を放送。名護市には指定避難所と緊急避難場所合わせて全105カ所を生放送27時間で自ら回るという企画を敢行した。

 「分かりにくいところは本当に分かりにくくて。1カ所探すのに40分かかったところもありました」

 だからこそ、せめて最寄の避難所や避難場所がどこにあるのかを、番組を通して知ってもらいたかった。

みんなで一緒に電波塔を 愛されるラジオを目指して

 防災への願いが、電波塔建設の実現へと駆り立てた。

 現状では、市街地の広がる名護市西海岸では受信できるが、山を隔てた東海岸ではきちんと受信できない環境にあった。東海岸は人口密度が低く、緊急時にはとりわけラジオによる情報共有が求められる地域でもある。同様に、屋我地島にも電波は届けられていない現状だ。

 建設に向け、実際に社の予算での事業計画を2019年10月に策定。その後も行政や業者などと協議を重ね、着工寸前の段階まで来た時に、新型コロナウイルスが猛威を振るい、経済が停滞してしまった。前述したようにスポンサーも次々降板してしまい、計画は頓挫してしまう。

 しかしこれでめげないのがジョバンニさんだ。

 リスナーからの要望にも後押しされ「どうせ建てるなら『みんな』で一緒に建てよう」と、さらに地域に愛されるラジオ局へと舵を切った。

 資金をクラウドファンディングで募り、目標額は最低限必要な600万円に設定した。目標額に達しないと1円も受け取れない「All or Nothing方式」だ。

 「電波塔が立たないと意味がないですから。一部だけ頂くというような小細工は無しです」

独居高齢者にラジオを「1円も無駄にしない」

 ふたを開けると、人口規模6万人の市でありながら、542人もの人がクラウドファンディングを通して支援してくれた。加えて、現金で支援してくれた人も多くいるといい、実際は約700人の支援を背中に受けた。

 締め切りを翌日に控える中での達成の日。ジョバンニさんは地に頭を付けてお礼をした。

 電波塔を建てて残った金額は、一人暮らしの高齢者の家にラジオを贈るなどして「1円も無駄にしない」と誓っている。

 ジョバンニさんは自身のフェイスブックで書き残していた。

 「情報で命を守るラジオ、一番つらいときに笑顔を届けられるラジオを目指して、尽力して参ります」

 大好きな名護で困っている人が一人も出ないように、みんなが笑顔になれるように、ジョバンニさんの挑戦は続く。

FMやんばるのスタッフらと達成を喜ぶジョバンニさん(右)=本人のフェイスブックより

ジョバンニさんはなぜこんなにも名護が好きなのか

 名護市の名桜大学の大学院で、名護市の研究をしていたほど名護市への興味が尽きない名護市我部祖河出身のジョバンニさん。1998年から8年間続いた岸本市政での振興計画を研究していた。

 「なぜ自分はこんなにも名護が好きなのか」と抱いていた疑問に、しっくり来た答えを見つけられたのは、そんな研究のさなか出会った「第一次名護市総合計画」だった。まちづくりの指針となるような計画で、現在の名護市が誕生して3年後の1973年に打ち出されている。

 「本計画が一つの地域計画として全体世界にかかわりを持ち、地球上の一画を担当していることの重要な意味を認識する(中略)ことに、基本的な目標をおくべきであると考える」

 「目先の派手な開発を優先するのではなく、市民独自の創意と努力によって、将来にわたって誇りうる、快適なまちづくりを成しとげなければならない。(中略)たとえ遠まわりでも、風格が内部からにじみでてくるようなまちにしたいと思うのである」

 ジョバンニさんは言う。

 「これって、今のSDGsの原型かと思うんですよ。世界的目線を持ちながら、内部から自分たちの町をつくっていこうという気質がある。あぁ、だから自分は名護がこんなに好きなんだ、と思いました」

 「第一次名護市総合計画」の資料の出どころは「秘密です」とほほ笑むジョバンニさん。このコピーをずっと大切に保管している。いかにジョバンニさんの支えになっているかをよく物語っている。

 基地移設問題などで政争の場となり、「基地と経済振興」が論じられることも多い名護市。約50年前に描いた未来とはまた違う状況に置かれ、難しい問題を抱えさせられている。

 「基地問題に揺れるネガティブなイメージがあるかもしれないですが、それを払拭するぐらい明るい話題を提供していきたいです」

 ジョバンニさんの笑い声は電波に乗って、新しい電波塔から名護市全域へと到達していく。

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長濱 良起

長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。2019年に県系移民などをつなぐウェブメディア「One Okinawa」創設。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(東洋企画)

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