小さな島から見えてくる、どの土地にも“地続き”なこと 『水納島再訪』橋本倫史さんインタビュー

 
橋本さんが滞在した水納島の民宿「コーラルリーフ・イン・ミンナ」のテラス(橋本さん撮影・提供)

「いかに地続きに書けるか」

 ―文中に時折挟まれる、民宿のご飯の描写が美味しそうなのと、はしゃぎ声が聞こえてきそうな子どもたちの描写に島の生活の息づかいみたいなものを感じました。

「ちょっとドライな言い方に思われるかもしれませんが、滞在記という文章のリズムを保つため、と言えばいいでしょうか。島に流れてきた歴史や、その先にある現在が抱えている問題をしっかり書いておきたいと思うんですけど、それだけだとなかなか壮大な話になってしまって、普段からそういった内容に関心を持っている人以外には飲み込みづらくなってしまう。

 でも、食事シーンや子どもたちの情景があることで、滞在記としてするする読んでもらいつつ、その先にある島の生活や時間を感じてもらえる要素があると思うんですよね。そういう時間を、読んでもらう人にいかにして感じてもらえるかということは考えました。

 あと、滞在中に僕自身も揺れ動いていたんですが、何か結論めいたことを文章に書くよりも、その時に感じていた質感を言葉で手渡したくて。これを読んだ誰かが、『ふうん、離島って大変だな』という感想だけでは終わらないように、考える余白や余韻みたいなものを感じてもらえる構造にしておきたかった、という思いもあります」

 ―1975年の海洋博に伴う開発を巡る当時の話は、事情が少し違うのですが今のコロナ禍の沖縄と重なるような部分があったように感じました。

「研究者でもない僕に言えることは限られていますが、今回の取材を通じて感じたことは、復帰から海洋博に向かっていく時期に、現在の沖縄に至る流れは大きく決まったのだろうなということでした。

 その意味では、今も当時と地続きなことが起きているのかもしれません。だから水納島のことも、近代化のあゆみと現在とを『いかに地続きに書けるか』ということはすごく思っていたところです。

 水納島は沖縄本島とは海で隔てられた離島ですが、そこをいかに“地続き”な場所だと受け止められるような建て付けで書けるか、ということはずっと考えていました。それは、引いては沖縄という海で隔てられた土地を、県外の人たちが地続きに捉えられるかということにも繋がってくるのでは、と」

 ―水納島がこのままでは無人島になってしまうということに衝撃を受けたことが触れられていますが、一方でそれは必ずしも固有で特殊なことではないとも述べています。

「この本は沖縄の離島という“特殊な土地”のことを考えましょうと提案しているわけではないんです。例えば東京でも、豊島区はこのまま人口が減ると自治体として存続し得なくなる消滅可能性都市として名前を挙げられています。

 都心でもそういう場所がある状況の中で、水納島が無人島になってしまうということは特殊なことではなくて、どこの土地にもつながっていて、どこの土地のことも想像するべきだと思っています。そういう風に読んでほしいですね」


『水納島再訪』の刊行に合わせて、3月20日(日)15時からジュンク堂那覇店のB1Fイベント会場で、橋本さんと「市場の古本屋ウララ」店主・宇田智子さんをゲストに迎えたトークイベントが行われる。参加は無料。

■関連リンク
『水納島再訪』(講談社BOOK倶楽部)
『市場界隈 那覇市第一牧志市場界隈の人々』(本の雑誌社)
『ドライブイン探訪』(筑摩書房)

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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