キムタツコラム⑥県民が保護してきた琉球文化 街づくりに活用を
- 2022/3/3
- 社会
国内有数の進学校、灘中学校・高等学校(兵庫県)の元英語教員で「夢をかなえる英単語ユメタン」シリーズや「東大英語基礎力マスター」シリーズなど数多くの有名参考書を手掛けている作家の木村達哉さん。 「NPOおきなわ学びのネットワーク」 を立ち上げて沖縄の生徒の学びを支援しているなど、沖縄に縁深く活動している木村さんに、教育に限らずさまざまな角度からコラムを書いてもらいます。
根路銘まりさんとの出会い
皆さん、こんにちは。木村達哉です。どうぞよろしくお願いします。
オリジン・コーポレーションのひーぷーさんがTwitterで僕のコラムを取り上げてくださったり、じゅん選手がYouTube「おきなわちゃんねる」で僕の著作『ユメタン』を取り上げてくださったりしたおかげで、沖縄の知り合いが増えてきました。オリジン代表の首里のすけさん、琉球新報社の編集者の方々、NHK沖縄放送局の渡辺ディレクター、ジュンク堂書店那覇店の森本店長、興南をはじめとするいろんな学校や塾の先生方など、僕が沖縄に戻るタイミングで「会いましょう(≒飲みましょう)」とご連絡をくださるのが嬉しくて、感染の心配と少し闘いながらいそいそと出かけていきます。沖縄の温かさに感謝しています。
そんななか、2月に戻った際に昨年末にお会いした南城市の方からご連絡をいただきましてね。県立美術館に染色芸術家である根路銘まりさんの作品が展示されているので是非にとのことでした。日本とロシアを中心に活動の幅を広げておられる根路銘まりさんですが、絵として鑑賞できる「飾り衣装」を手掛けていらっしゃいます。
ラッキーなことに彼女と話をする機会がありました。僕は物書きですので芸術家ではありませんが、クリエイターの端くれとして、大いなる刺激を受けました。彼女はご自身の作品について、僕のつまらない質問に真剣に答えてくださいましてね。こういう機会は滅多にありませんから、時間の許すかぎり、彼女を「独り占め」させていただきました。変な意味ではありませんので誤解のないように。根路銘まりさんの作品などが見られるオフィシャルサイトはこちらです。
沖縄ほど自文化を大切に維持している県はない
日本各地を旅しているとそれぞれの都道府県や地域の文化や言語を楽しめるのですが、沖縄ほど琉球文化を大切に維持している県はありません。沖縄の指導者が大旗を振りながら市民を指導しているのではなく、沖縄の方々がみんなで保存しようという意識を根底に持っておられるように思います。そして、その文化に浸りたくて県外から多くの人たちがやってくるのです。確かに青い空と海を求めてやってくる人たちもいるだろうけど、それにしたって那覇空港に流れる空気は、出発してきた空港のそれとはまったく違っていて、それに浸った瞬間になんとも言えない幸福感に包まれるのです。それが沖縄です。
たとえば僕は奈良県出身です。確かに奈良時代の天平文化を保存していこうという気持ちは強く持っています。しかし、天平文化を一般の県民が意識して愛し、それを保存しようとしているなんて話は聞いたことがありません。兵庫から奈良に移動しても、確かにお寺は多くなりますが、奈良特有の文化に包まれることはありません。むしろ、大阪で働く人々のベッドタウンと化し、奈良の大阪化が止まりません。一方で沖縄の場合、那覇空港で飛行機を降り、手荷物受取所に向かう通路に入った瞬間に琉球文化(沖縄音楽文化を含む)に包まれます。県外の人たちはそれを求めて、何度も沖縄に訪れるのだと確信しています。
根路銘まりさんの作品にも、言うまでもなく、沖縄の文化が染み込んでいます。展示作品では、人間がガジュマルに包まれながら天に召されていく様子が神々しく描かれていました。これがガジュマルではなくて桜や梅だとしたら、僕はあんなにも引き込まれなかったかもしれません。