「音楽の楽しみを一緒に探す」 コロナ禍の学生を応援するコンサート

 
ソプラノ・サクソフォンの上野耕平さん(左)とバリトン・サクソフォンの田中奏一朗さん(右)

 コンサート当日。「G線上のアリア」の繊細で穏やかな調べが鳴り響いた幕開けで、会場の空気は一変した。心地よい音に身を任せてしまおう、という安心感をもたらすような演奏で一気に観客の心をつかむ。各地の民謡を織り交ぜた「ふるさと狂詩曲」は、演奏前に上野さんのMCで、沖縄民謡の「安里屋ユンタ」が盛り込まれていることが示されたこともあって、観客が聞き取ろうと集中している空気が会場を満たす。カルテットのメンバーが編曲したQUEENの美しいバラード「love of my life」と、映画の記憶も新しい「Bohemian Rhapsody」が立て続けに披露され、第1部が終了した。

音楽奏でる姿に感じる希望

 演奏の素晴らしさもさることながらメンバーによる曲間のトークも軽快で、楽曲について分かりやすく解説してくれるため、“観客フレンドリー”で全編通して曲の世界観に入りやすい。

 第2部では緩急の効いた「サクソフォン四重奏曲」に始まり、今回の公演で世界初披露となる「愛の悲しみ」の悲哀と美しさが同居した旋律も印象を残した。演奏の合間に上野さんが「金管の同属楽器でも、これだけ豊かな響きがあるんです」と説明した言葉通り、次々と演奏される楽曲はカルテットとは思えないほどの厚みと多彩さがある。

 アンコール1曲目は、金管カルテットのために作曲されたのではないかと錯覚を覚えてしまうような見事なアレンジの「見上げてごらん夜空の星を」。続いては、いよいよ高校生たちとの共演だ。

カルテットと「宝島」を演奏する吹奏楽部員たち

 楽曲は吹奏楽の言わずと知れた名曲「宝島」。ステージに高校生たちが呼び込まれると、学生を代表して前出の仲眞さんが上野さんと短く会話を交わして配置についた。軽やかなリズムが刻まれると会場からすぐに手拍子が起こり、明朗でダイナミックなメロディが空気を彩る。序盤は学生たちに緊張が見えたものの、後半に向かう楽曲の盛り上がりとともに生き生きと演奏を楽しんでいる気持ちが表情に溢れ出す。
 上野さんもリズムに合わせて手拍子する大きな仕草をして客席を煽り、満面の笑みで学生たちと目配せしながら「音楽の楽しさを共有すること」をステージで体現していた。

 演奏が終わると、達成感に満ちた爽やかな面持ちの高校生たちとカルテットのメンバーが深く一礼し、会場は大きな拍手に包まれた。

 長らく続くコロナ禍でさまざまな制限を課され、多くの高校生たちが本来過ごせたはずの学生生活という大切な時間を満足に送ることができなかった。そんな中、今回ステージで演奏した高校生たちは貴重な経験を得ただけでなく、朗らかなその姿を見ていた人たちにも希望や温もりを与え、音楽や芸術が必ずしも「不要不急」ではないことを目に見える形で示した。
 これから、この日のような光景が色んな場所で少しでも増えてほしい、そんな思いを強くするコンサートとなった。

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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