第25回日本伝統文化振興財団賞受賞 池間北斗さんの横顔に迫る

 

 沖縄の伝統芸能界に明るいニュースが入ってきた。5月1日、琉球箏曲演奏家の池間北斗さんが第25回日本伝統文化振興財団賞に選ばれた。
 男性が珍しいとされる箏の世界。32才、平成生まれの池間さんはどんな人なのか。人物像を探った。

琉球箏曲演奏家 池間北斗さん

やわらかな音色で寄り添う演奏

 箏と琴は「コト」という同じ読み方のため混同しやすいが、実は異なる楽器である。琴は大正琴のように割とコンパクトな大きさで、柱(じ)とよばれる弦の下に置く可動式ブリッジが無い。一方、今回の主役「箏」は長さ180センチ超の大きな楽器で、柱を立て指に箏爪をはめて、弦をはじいて演奏する。
 琉球箏は18世紀頃に薩摩経由で日本から琉球にもたらされたといわれ、以来琉球芸能には欠かせない存在となっている。

 池間北斗さんは相手に寄り添うような演奏で、三線の伴奏時にもそのやわらかな音色で華を添える。技術もさることながらセンスの良さに定評があり、ワークショップなどでは現代のヒット曲なども弾いてみせて、若年層の心を掴んでいる。

自然に入った琉球箏曲の世界

 那覇市内で4人兄弟の末っ子に生まれた池間北斗さん。すでに兄や姉が琉球舞踊や三線の道場に通っていたことから、自身も習うのが当たり前の環境だったという。しかし三線も太鼓も続かず、唯一続いたのが箏だった。

 周りはほぼ全て女性。もちろん子供は皆無。そんな中でも継続できたのは、良い師匠に巡りあったこともあるだろう。師匠の又吉貞子氏は「大阪在住歴が長く大阪弁混じりで口調は強かったが、箏は上手なのはもちろんとても優しくて面白い先生だった」と振り返る。

 小学校卒業後も教室に通い続けた。男子中学生が箏なんてと非難する人が居そうな時代だが、「そろばん教室にも通っていたため、箏を習っている事は周りの友達にばれなかった」という。

 高校は姉が通っていた南風原高校郷土文化コースへ進学した。学校でも習い事でも“箏一色”ではさすがに息が詰まるので、同コースでは空手や三線を選んだ。高校生になると様々なことに目が向くようになり、バンド活動も始めた。

 そのころ国立劇場おきなわではちょうど組踊実演家の養成研修事業が開始され、師匠の勧めで組踊研修も受けるようになった。高校2年生で最年少。「それまで組踊に触れたことがほぼ無く、研修で何をやるのかすらよく分からず実感がつかめないまま始まった研修だった」と言いつつも「高校時代は学生で一番楽しい時間だった」と振り返る。

(撮影:大城洋平氏)

忘れられない『南洋浜千鳥』

 大学は沖縄県立芸術大学へ進学。 受験した時も、演奏家としての自覚や将来の夢があったわけではなく、漫然とただ周りに流されるように決めたものだった。

 しかし、大学で同じ琉球芸能を専攻した仲間に囲まれ 、第一線で活躍する先生方に習うことで刺激を受け、徐々に意欲的な自覚が芽生えていったという。
「『南洋浜千鳥』という舞踊曲があるんですが、大学の稽古で大勢の前で弾いた時、自分の演奏を聴いて講師が『替わりなさい』と同じ曲を弾き始めた。そのレベル違いの演奏を聴いてとてもショックを受けた。自分では上手く弾けたつもりでいただけに、ものすごく恥ずかしかった。同時に悔しさも募り、これが本気で取り組む大きなきっかけになったかもしれない」と吐露した。

独り立ち、賢順賞への挑戦

 劇場の研修修了そして大学も卒業すると、にわかに舞台への出演依頼が増えていった。NHK、東京の国立劇場、坂東玉三郎との共演、ジャパンソサエティによるニューヨーク公演と、華々しい舞台が続く。「頼まれたものは断るな」という師匠の教えにより出演経験をどんどん重ね、舞台で演奏することや演奏家仲間で作品を創ることの喜びと同時に、責任も感じるようになっていった。

 2017年には、全国箏曲コンクール(賢順賞)に応募した。免許はおろか賞レースに何の興味もなく「自分から能動的に動くことはなかった」という池間さんが、初めて自らすすんで応募したコンクールだった。結果は初挑戦にして見事一位の賢順賞。それまでこのコンクールには琉球箏曲の参加者が無かっただけに、会場で異質扱いのような好奇の目にさらされ「単身乗り込んだのはいいものの、周りからのプレッシャーは半端なかった」というが、受賞をきっかけに別ジャンルの演奏家とも交流が生まれ、視野も広がったという。

舞台で独奏する池間さん(撮影:大城洋平氏)

伴奏楽器から独奏楽器へ

 そして2021年、今回の財団賞。同賞は毎年1人、日本の伝統芸能において将来の活躍が期待される芸能家に贈られるもので、池間さんが歴代最年少での受賞である。県内からの受賞は2015年の佐辺良和さん(琉球舞踊家・組踊立方)以来、2人目。

 受賞連絡が来た時は、まさか自分が受賞するとは信じられず「琉球古典音楽で歌三線の先輩方が沢山いらっしゃる中で伴奏楽器の箏がなぜ?という疑問が大きかった」と語る。

 受賞理由の一つに『琉球器楽の会』開催というものがあった。
 琉球古典音楽は歌三線を中心とし、伴奏楽器として箏・笛・胡弓・太鼓などの種類があるが、楽曲は全て三線曲である。(琉球箏曲に残存する段物7曲・歌物3曲は県外からの伝来曲と思われる。)これら器楽と呼ばれる楽器は伴奏以外で単独の曲を持っていないことが課題と感じていた森田夏子さん、入嵩西諭さん、池間北斗さんの器楽仲間三人で企画したのが『琉球器楽の会』である。箏・笛・胡弓の新しい独奏曲を創り演奏するという、琉球の歴史上画期的な公演が、“琉球古典音楽の新しい境地を開いた”と評価された。

 受賞者は演奏DVDが制作され、一般発売される。「怖いというか不安もありますが、琉球箏の魅力を伝えられたらいいですね。琉球箏曲の良さはやわらかい音色。薩摩から流入した箏だけど、すでに県外では途絶えた技法や曲が沖縄に残っていたりする。箏はヤマトのイメージが強いけれど、琉球箏の音からも沖縄を感じてもらえたらなと思います」

第1回『琉球器楽の会』左から胡弓の森田夏子さん・箏の池間北斗さん・笛の入嵩西諭さん(撮影:大城洋平氏)

受賞しても自然体

 池間さんは最近、TwitterやInstagramなどのSNSでも発信している。特にYouTubeでは、ドライブやドッキリ企画など琉球古典音楽とは無関係の動画も多数アップしている。
「SNSでは個人的に、芸能を知らない世界の人とも繋がってみたいと思って始めました。人って誰がどんなきっかけで何に興味を持つかわからないじゃないですか。だからいろんな切り口で試してみて、自分をきっかけに琉球箏曲や琉球古典音楽の入口を知ってもらえるんじゃないか、という気持でやってます」とあくまで自然体だ。

 たとえ正統なことをやっていても”若手で男性“というだけで珍しがられ異端だと思われてしまう琉球箏曲家。そんな自分の立場を逆手に取って、”異端な事をやり続ける正統派“というアプローチを見つけたようにも見える。

 受賞したからといって傲らず気負わず「まだまだ勉強不足だし、琉球箏自体が未知の可能性に満ちあふれた楽器だから、やりたい事、やらなきゃいけない事はたくさんある」という彼の語り口は、ライトでありながらも常に真摯だ。
 来年2月25日には第2回『琉球器楽の会』開催予定とのこと。これからの活動に期待したい。

会場提供:十貫瀬モノラル

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大野 順美

投稿者記事一覧

一般社団法人ステージサポート沖縄代表。琉球芸能プロデューサー。
東京生まれ。新国立劇場、文化庁勤務を経て、2003年国立劇場おきなわの開場スタッフとして依頼されたのを機に沖縄へ転居。その後(財)沖縄県文化振興会で勤務、沖縄の文学・古謡の事業を担当。2010年組踊を中心とした沖縄伝統芸能の舞台制作として独立、県内外や海外での公演を手掛ける。
大好きな組踊をひとりでも多くの人に知ってほしい&良い舞台が観たいという一心で、組踊と名のつく仕事なら何でもやる人。

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