「これが俺のありのままの姿」グルクンマスクの顔面露わに 沖縄最後の一戦で

 

 4月28日に那覇文化芸術劇場なはーとで行われた琉球ドラゴンプロレスリング「RYUKYU DRAGON MEMORIAL 2023〜旗揚げ10周年記念大会〜」で、グルクンマスクがタイトル「御万人王座『琉王』」に挑戦。YAMATO(GRAGONGATE)にマスクを剥がされ、リング上で初めて露わになった素顔は怒りに満ちた表情のまま王者を奪還。YAMATOに3度防衛され他団体に流出していたベルトが、ついに琉球ドラゴンプロレスリングに戻ってきた。同イベントには藤波辰爾(DRADITION)や葛西純(FREEDOMS)といった人気選手も所属団体の垣根を越えて続々参戦。琉球ドラゴンプロレスリングと他団体の交流の深さを知らしめた。

「御万人王座『琉王』」に挑むグルクンマスク(左)と、王者のYAMATO

 グルクンマスクはこの日を最後に休業宣言しており、沖縄での試合は見納めとなる可能性が高い。来年4月までは他団体の試合に「御礼行脚」しながら引退を予定しており、琉球ドラゴンプロレスリングの社長業に注力していく。

 なはーとでは初となるプロレス興行。当日の様子は全てYouTube「琉球ドラゴンチャンネル」で無料配信された。

第一試合 RYUKYU-DOGディンゴの1日限定復帰戦

約3年ぶりのリングで闘志を見せるRYUKYU-DOGディンゴ

RYUKYUDOGディンゴ×
美ら海セイバー
K-JAX

(13分20秒:コウモリ吊り落とし→片エビ固め)
ビリーケンキッド○
TAMURA
ドレイク森松

 RYUKYU-DOGディンゴの約3年ぶりとなる1日限定復帰戦。K-JAX、美ら海セイバーと共に組む「MAD DOG CLUB」として、ビリーケン・キッド(大阪プロレス)、ドレイク森松(フリー)、TAMURA(プロレスリングHEAT-UP)と対戦した。「MAD DOG CLUB」は外国人のファンも多く、終始声援を受けながらのホーム感だ。

MAD DOG CLUBの(左から)RYUKYU-DOGディンゴ、美ら海セイバー、K-JAX
(左から)ビリーケン・キッド、TAMURA、ドレイク森松

 K-JAXは、TAMURAとビリーケン・キッドから同時攻撃を受けるものの、188cm、110kgの巨体を生かし2人まとめてのブレーンバスターを見舞うと会場は大盛り上がり。大暴れのK-JAXにドレイク森松はパイプ椅子やバット、金的で応戦し不敵な笑みを浮かべる。

2人同時にブレーンバスターを見舞うK-JAX

 ディンゴは3年ぶりとは思えないハードな動きで存在感を見せたものの、ビリーケン・キッドのスープレックスやラリアットなどを連続で受け続け、最後は苦悶の表情でホールド負けとなった。

勝負を決めるビリーケン・キッド

 闘病中のためリングを離れていたディンゴ。試合後起き上がったディンゴには会場からの温かい拍手が送られ、相手の3人から握手を求められた。ビリーケン・キッドからハグを受けながら何度もうなずく姿が印象的だった。

第二試合 “デスマッチのカリスマ”葛西登場

佐々木貴
葛西純○

(10分04秒:パールハーバースプラッシュ→体固め)
戰熊
闘魚×

 佐々木貴と葛西純(共にFREEDOMS)と、闘魚と戰熊(共に台湾Puzzle)による日台対抗戦。“デスマッチのカリスマ”葛西は普段、カミソリや画鋲の上で投げ合ったり、蛍光灯の束に突っ込んだりする試合が多いことからその傷だらけの背中が異様なまでの存在感を放つ。会場からの葛西コールが響く。

 試合開始のリングを待たず、佐々木・葛西が闘魚・戰熊に襲い掛かる。試合序盤は闘魚と戰熊が共にパワーを生かした攻撃で主導権を握っていく。

戰熊(左)と闘魚が葛西に襲い掛かる

 しかし勝負は徐々に佐々木・葛西のペースに。佐々木がトップロープからの雪崩式ブレーンバスターを闘魚に決めると、そこからの決着は早かった。タッチした葛西がパイルドライバーを見舞い、3カウント目前まで行くと、コーナーロープ最上段から華麗にスプラッシュを決め、そのままホールド勝ち。ベテランペアが意地を見せた。

闘魚にブレーンバスターを決める佐々木

第三試合 フィメール同士の直接対決

まえだを締め上げるハイビスカスみぃ

ハイビスカスみぃ◯
(09分40秒:スパインバスター→エビ固め)
まえだみさき×

 ハイビスカスみぃとまえだみさきによるシングルマッチ。試合の2日前にはまえだはみぃのことを「憧れ」とツイートしていたほど、特別な相手との直接対決だ。対するみぃは「好きだから、信頼してるから、ボコボコにする。」と、先輩としての矜持を見せる。

 みぃが序盤から積極的に締め技や関節技を仕掛けていく中、まえだは隙を見て下方からみぃの顔面目がけて蹴りを突き上げ攻勢に。たまらずコーナーにもたれかかったみぃに串刺し式で尻を押し付けるコミカルな技も繰り出す。

みぃに笑顔で尻を押し付けるまえだ

 そこからはキックやエルボーの応酬など一進一退の攻防が続くが、経験に勝るみぃが関節技を中心にまえだを徐々に追い詰めていく。強烈なラリアットを入れて体力を削ってからの、ロープに振ってスパインバスターでフィメール対決を制した。

第4試合 レジェンド藤波のドラゴンスクリュー炸裂

GOSAMARU(右)と組み合う藤波辰爾

GOSAMARU×
首里ジョー

(12分39秒:ドラゴンスリーパーホールド)
藤波辰爾○
LEONA

 GASAMARUと首里ジョーの琉ドラコンビがリング上で待ち構える中、赤いガウンを身にまとったレジェンド・藤波辰爾はおなじみの入場曲『ドラゴン・スープレックス』に乗せて息子のLEONAと登場。藤波にとって沖縄は1988年、タッグを組んでいたアントニオ猪木に感情を爆発させ、突然自ら前髪を切った「飛龍革命」でも思い出深い土地だ。

 冒頭はGOSAMARUと藤波のマッチアップ。ロックアップや関節の取り合いで慎重な展開が緊張感を生み出していく。続くLEONAは、ボクシング出身の首里ジョーは持ち味である強力なチョップやGOSAMARUの顔面キックなどで苦しめられるが、父親譲りのテクニックで技を返していく。タッチを受けた藤波がGASAMARUに対して得意技のドラゴンスクリューを決めると場内は大きく湧いた。

首里ジョー(右)がLEONAに強烈なチョップを浴びせる

 試合中盤にはLEONAもドラゴンスクリューを披露。最後はリング上で4人が入り乱れ、親子でドラゴンスリーパーを同時に決め首里ジョーからギブアップを奪った。

第5試合 県出身タッグがスピード&パワーで躍動

Kzy(左)とウルトラソーキ

Kzy
JACKY”FUNKY”KAMEI×

(15分23秒:獅子噛→エビ固め)
ウルトラソーキ
ティーラン獅沙○

 琉球ドラゴンプロレスが認定するタッグ王座「御万人王座『双琉王』」タイトル戦。空位となっている同タイトルに、沖縄県出身のウルトラソーキ・ティーラン獅沙ペアと、Kzy・JACKY “FANKY” KAMEIペア(DRAGONGATE)が挑む。KzyとKAMEIは歌とダンスで入場に2分以上を費やすなど早くも余裕を見せつけた。

歌って踊るKzy(左)とJACKY “FANKY” KAMEI

 試合は終始、ティーラン獅沙のフランケンシュタイナーや、KAMEIの打点の高いドロップキックなど、両者ともに素早さと身体能力の高さを武器に試合を魅せていく。そこに“糸満の人間魚雷”ウルトラソーキがパワーファイトを仕掛けるバラエティに富んだ展開だ。

 Kzy・KAMEIの芸術的とも言えるアクロバティックなコンビネーションが再三にわたり炸裂。ウルトラソーキが2人相手に同時に全体重を乗せたラリアットで場外にアウトさせると、ティーラン獅沙がリング上から長距離ダイブでプレスを仕掛ける。

宙を舞うティーラン獅沙

 長い闘いが決着を見せたのは15分を過ぎてから。ティーラン獅沙がKAMEIをエビ固めでマットに沈め、琉ドラ10周年の節目にタイトルを発祥地に取り戻した。

 ウルトラソーキは涙のマイクパフォーマンスで、Kzy・KAMEIペアにお礼を述べて頭を下げた後、同い年でもありデビューした日も1日違いの盟友ティーラン獅沙には「運命的なタッグでこれからも頑張っていこう」と熱いメッセージ。ティーラン獅沙は観客に対して「約束します。このベルトはもう二度と沖縄から離さない。15周年、20周年を引っ張っていくのは俺たちだから。先頭に立って必ずプロレスを盛り上げていきます」と宣言した。

第5試合 怒りのグルクンマスク「51歳のおっさん、頑張りました」

YAMATO×
(23分25秒:ムーンサルトプレス→体固め)
グルクンマスク○

 メインイベントは御万人王座『琉王』のタイトルマッチ。試合前の調印式では王者・YAMATOはグルクンマスクに対し「沖縄のローカルどインディーのアルバイトレスラーが、世界を股にかける全知全能のこの俺YAMATOに勝てるわけがない」と挑発していた。

 試合のゴング。琉ドラ所属の選手が一堂に会してリングサイドで見守る中、場外に逃れたYAMATOに弾丸ダイブするなど捨て身のファイトでボルテージを上げていく。

YAMATO目掛けて弾丸ダイブするグルクンマスク

 執拗なヘッドロックに苦しめられたYAMATOはグルクンマスクのマスクの一部を破り、そのヒールっぷりで会場を不穏な空気で包む。

マスクの一部が破られ、中からは茶髪が覗きはじめる

 グルクンマスクの脚を極めた後には、観客に「もう終わっていいか?」と煽ったものの、グルクンマスクは高さ2mはあろうかというドロップキックを顔面にヒットさせ、場外に出たYAMATOに対してコーナー最上段からムーンサルトを仕掛ける。

 事件は起こった。「シャッターチャンスだぞ」。観客に見せつけるようにグルクンマスクの“顔面”をはぎ取り、悲鳴を上げる観客も。

ついにマスクを破られたグルクンマスク。その顔面にはYAMATOの足が乗る

 怒りに燃えたグルクンマスクはYAMATOのエルボーを連続で受けても前進し続け、力いっぱいのラリアットでYAMATOを半回転状態に。連続のスープレックスで畳みかけると指笛が鳴り響いた。

怒りの表情のグルクンマスク

 最後はムーンサルトプレスからの体固めで勝利を決め、執念の3カウント。自らが初代王者でもある『琉王』を取り戻した。

 試合後にもマスクをかぶることはなく、「なぜならこれが俺のありのままの姿だからです。51歳のおっさん、頑張れました。みなさんの声が届いたからです。俺はやられてもやられても立ち上がるプロレスラーだからです」と声を上げた。

琉王を奪還し観客に感謝の言葉をかけるグルクンマスク

 敗れたYAMATOは「こんなはずじゃなかった…。こんなはずじゃなかったんだ…。お前ら一人一人の琉球ドラゴン愛が大きくて深かったようだな。それだけは俺の誤算だった」と漏らし「琉球ドラゴンのサポーター共よ、また会おう」と捨て台詞を吐くと、大きな拍手で送られた。

次回大会は5月7日

 「プロレスが大好きだ」の合言葉で幕を閉じた今大会。琉球ドラゴンプロレスは「プロレスで夢と勇気と感動と笑顔を」をモットーに活動を続け、この日から11年目に入る。次回大会は5月7日は同じく那覇文化芸術劇場なはーとで開催され、DRAGONGATEからYAMATOとパンチ富永も参戦する予定だ。


長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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