台北でポーク玉子おにぎり店経営の和氣さん 3年で4店舗に拡大

 

 市場の一角、2畳ばかりのスペース。夫婦で売り始めたポーク玉子おにぎりは、初月にして150万円を売り上げた。現在は台北市内で専門店4店舗を運営する「太朗飯糰」の代表で神奈川県出身の和氣龍太朗さん(34)は、沖縄発祥のポーク玉子おにぎりに、日本各地の味を詰め込んだ「庶民の味」を通して台湾と沖縄の懸け橋となっている。

ポーク玉子おにぎりとは

人気メニューの一つ「沖縄ゴーヤ天ポークたまご」(同店インスタグラムより)

 「ポーク玉子」は、沖縄の家庭や大衆食堂でよく目にするメニューで、ポークランチョンミートをカットして焼いたものに薄焼きの玉子焼きを添えたお手軽料理だ。その後、これをおにぎりの具とした「ポーク玉子おにぎり」は弁当屋などで販売され、多くの沖縄県民にとっては「当たり前にあるありふれた総菜の一つ」だったと言える。

ポーク玉子(資料写真)

 そんな「ありふれた総菜」だったはずのポーク玉子おにぎりは近年、専門店が展開され観光客にとっても「定番の沖縄フード」となるなど、県民にとっては目からうろこの人気商品となった。

1972年まで米軍統治下にあった沖縄県ではポークランチョンミートが食生活に浸透し、デンマーク・チューリップ社とアメリカ・ホーメル社の商品がシェアでは2強を誇る。ポークランチョンミートは全国的には「SPAM」と呼ばれることが多いが、実際のところSPAMはホーメル社の商品名だ。

広島カキや東京とんかつも

 「太朗飯糰」は2019年1月に創業した。商品ラインナップは多彩だ。「エビフライ明太子ポークたまご」「カニカマ明太子ポークたまご」など豪快に具材を盛り込んでいることが特徴で「沖縄ゴーヤ天ポークたまご」「日本昆布ポーク玉子」のように、日本各地の名物具材を入れたものもある。中にはあえてポークを挟んでいない「広島カキたまご」「東京とんかつ」などもあり、沖縄発祥のポーク玉子を入れ物に、日本各地の食を提供している。台湾産のコシヒカリを使用し、ポークは「程よいしょっぱさ」という理由から現在はチューリップ社を採用。価格帯は1つ70~130台湾ドル(約300~560円)ほどで、好みに応じて追加トッピングもできる。

 和氣さんは「台湾の人って、いろんな具材が入っているものが好きなんですよ。デラックス感というか。お客さんからのリクエストでトッピングして作ったものがそのままメニュー化されたものもあります」と話す。

台湾に恩返し コロナ禍で助け合い

「太朗飯糰」の和氣龍太朗代表

 コロナ禍でなかなか海外に行くことができなかった台湾の人々の間では「あたかも海外旅行をしたかのような気持ちになる」という意味の「偽出國」という言葉が生まれていった。店舗の壁に飾られた大きなパネルには「日本の伝統料理おにぎりを喜んでいただけるように精進してまいります」との文字が躍る。

 「台湾で商売させてもらって今の自分があるのは、台湾のみなさんのおかげなので」と、コロナ禍では、患者を受け入れている宿泊施設や医療施設の関係者には特別割引で商品を提供した。

旅行で訪れた沖縄で

 ポーク玉子おにぎりで店を始めたきっかけは、偶然と言えば偶然のきっかけからだった。

 大学卒業後、東京で25歳まで会社員をしていた和氣さんには、かねてから海外で起業したいという目標があった。カナダでのワーキングホリデー生活などを経て、28歳の時に台湾にやってきた。「台湾で飲食店をする」という大枠を設定したまま、資金を貯めようと今度はオーストラリアでワーキングホリデーへ。わずか1年で十分な開業資金を貯め、30歳で再び台湾に戻ってきた。

 飲食業界は初めてで、さらに言えば起業も初めてだったが「もし失敗しても、日本に帰れば仕事が何かしらあるわけですし。体使って時間で労働すれば、何でもいいから一生懸命頑張れば月に30万円ぐらい稼げますよね。とにかく自分のビジネスを持ってやるんだという気持ちでした」と、持ち前の“イケイケドンドン”精神で道を切り拓いていくことを決めていた。

 そんな矢先に訪れた沖縄。台湾の人々が行列を作ってはポーク玉子おにぎりを買い求めている姿を目にした。「台湾の人にとっても馴染みのあるポーク玉子おにぎりが、台湾でも食べられるってなったら良いなと思いました」と和氣さん。そこから自身の“ポーク玉子人生”が始まることとなった。2018年の出来事だった。

店内はできる限りDIYで仕上げた。紅型の布で壁を飾り沖縄色も演出する。

600kmをポーク玉子でつなぐ

 そこからは早かった。翌年には店を始めていた。

 ある日物件検索アプリを開くと、近所の慣れ親しんだ市場の一角、2坪ほどのスペースが空いていることを知り、すぐに掛け合った。毎朝7時から12時まで、1日100個の限定販売を夫婦で始めると、1時間待ちになるほど人気が出た。お店が終わると夕方まで毎日仕込み作業の日々だ。

「結構きつかったですよ。バイクに食材積んで移動して」と振り返るが、和氣さんの表情ははつらつとしている。経営規模拡大とリスクヘッジで、その後約3年間で一気に現在の4店舗まで増やした。数年後には8店舗を、最終的には20店舗を目標に精を出す。

 一貫してポーク玉子おにぎりにこだわるのには、こんな理由がある。「いろんなことにあれこれ手を出そうとせずに、成功しているモデルをしっかりやり続けるのが王道だと思っています」

 沖縄と台湾約600kmの距離を、ポーク玉子おにぎりでつなげる。沖縄に行かなくても、沖縄を感じることができる。まさにプラスの意味での「偽出國」だ。


長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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