東京五輪は沖縄空手発展の“波”となるか 「目指すは無形文化遺産登録」

 
空手発祥の地としての沖縄を発信する「沖縄空手会館」

 上原さんの実感では、オリンピック競技の正式採用による門下生増加はまだなく、県内の空手人口は1990年代から現在までほぼ横ばいのイメージだという。
 海外の空手愛好家は「我々県民が思ってる以上に、空手や東洋的な精神性に強い憧れを持っている」という。コロナ禍になる前は、空手を目的にした海外観光客も多く来沖しており、宿泊しているホテルに空手の講師が招かれたり、沖縄空手会館でのセミナーを開催するなど、新たな沖縄観光の一形態として「武道ツーリズム」を推進する動きも出てきている。

 ただ、伝統空手の伝統を重んじる空手家からは、こうした“観光化”の動きに対して「空手は商品ではない」という反発の声も上がる。

自然遺産に続いて文化遺産へ

「現実として空手の保存や発展を考えると、人材育成や運営費の捻出など経済の壁があるのは否めません。威厳をきちんと保ったまま、どのように経済とつなげていくのかというのはとても大きな課題だと思います

 特に伝統空手で伝統的な精神に則って修行を積んできた空手の指導者には、空手を教えて料金をもらうことに対して否定的で、無料や安い月給で指導をする人も多かった。しかし、経済的に厳しい状況にある現状は否めない。振興会として「空手はタダじゃない、きちんと対価をもらうべき」ということから啓蒙しているという。

 上原さんが今後可能性を見出しているのは、沖縄空手の歴史やストーリーを体感できるスポットを巡る「巡礼コース」を作り出すことや、伝統空手の指導者たちの「空手ナラティブ」を構築して語り伝えることだ。先述したような空手愛好家の海外観光客にPRし、楽しんでもらうことで世界的レベルでの沖縄空手のブランド化を図る。

「空手のために沖縄を訪れる方々は基本的にリピーターになるので、来てもらうたびに歴史や伝統についての理解を段階的に深めていく機会を作るためのプロデュースが必要だと思うんです」

 今後の沖縄空手の展開として、一つの大きなゴールはユネスコの無形文化遺産登録だ。

空手はあくまで“文化”だということをきちんと伝えたい。それを踏まえた上で、今回のオリンピックを沖縄空手発展の“波”の一つにして、やんばると西表の自然遺産に続いてユネスコ無形文化遺産登録を目指して取り組んでいきます」

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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