「現場は県政の被害者」県医師会宮里副会長ロングインタビュー 中部病院公表遅れ

 

 「通常ならば病院側がクラスター発生を隠ぺいしようとはしません。病院側にとってはメリットが一つもないからです」と話すのは、沖縄県保健福祉部長、北部福祉保健所長などを歴任した、県医師会副会長の宮里達也医師(北部地区医師会病院)だ。うるま市の県立中部病院で5月末から6月半ばにかけて新型コロナに約50人が感染、17人が死亡するクラスター(集団感染)が発生したことについて、7月1日に中部病院が開いた記者会見で玉城和光院長が、県からの会見取りやめのメールで公表が遅れたと説明したが、県は「意図的な中止指示」を否定している。医療の現場と行政、両方を知る宮里医師に、今回の問題点や、医療現場における透明性や信用性の重要さを説明してもらった。

Q.1日の中部病院の会見では病院側は「現場として隠ぺいという感覚は一切持ち合わせていない」「(クラスターを)公表すべきだったと思う」としていました。この説明についてはどのように受け止めていますか?

宮里医師「一般的な責任ある医療関係者の感覚では、今回のクラスター発生のようなことが起きた時には『県民に公表したい』と思います。当然、中部病院側は公表したかったと思いますし、県の担当者も医療関係者ですから、同じ常識を共有していたはずでしょう。公表は義務という意識を持っています。なので従来ならば、事態の公表について県の管理部門の人たちが口を出すことはしないはずです。どうして6月11日の公表予定が取りやめられたのか、全く予想が付きません」

Q.医療現場は通常、集団感染時の詳細公表など、透明性の確保についてはどのような姿勢ですか?

宮里医師「今回のような集団感染などが起こった時に、我々医療関係者は事態を公表する義務があります。私もこれまでたくさん記者会見の場で事例の報告をしてきました。原則なんです。県は病院側に対して『公開基準がないから』と説明したとのことですが、それは勉強不足か言い逃れです」

宮里医師「事例の公表には2つの大きな意味があります。1つ目は、医療機関同士で経緯を共有するという意味です。沖縄県内のコロナ患者受け入れ医療機関が25カ所ある中で、医療従事者同士のコミュニケーションや医療技術の向上を図れます。もしもクラスターを隠しっぱなしにしていたら、中部病院の経験を他の医療機関に生かせなくなります。2つ目は、住民に対する注意喚起です。クラスターの経緯を知ってもらうことで、感染症予防について理解を深めてもらうことにつながります。また、医療現場の危機的状況をしっかりと周知し、その病院の機能をこれ以上悪化させないための協力をしっかり呼び掛けることができます。決して、単純に『大騒ぎ』するために公表するという訳ではないのです。『隠ぺいする』ことについての病院側のメリットは一つもありません。

宮里医師「これら2つの大きな意味を犠牲にしてまで、当初の公表を取りやめたことに対して、県として合理的な理由があったのか。あったとしたら説明しないといけません。不思議なんですよ、医学的に見たら非常識な判断を、どうして県は行政判断としてやってしまったのか

Q.今回の事態が現場にもたらす影響というのはどのようなものがあると考えますか。

宮里医師「病院現場は県政の被害者ですよ。中部病院は立派な病院です。現場に責任があるかのように伝えられると、一生懸命やっている現場のモチベーションも下がります。たとえ現場に隠ぺいするつもりがなくても、結果としてこのような形でのクラスター発生の公表となると、周囲からは『隠ぺいの意図があったのでは』と勘繰られることもあると思います。治療行為そのものも不審の目で見られてしまいます。それが心配です」

Q.報道によると、県は「会見をやめさせる意図はなく、コミュニケーションに齟齬があった」と説明しています。

宮里医師「病院事業局側は中部病院に送ったとされるメールの内容を一刻も早く開示すべきです。ただ、現実には会見が取りやめられた訳ですから『やめてほしい』というニュアンスを含んでいたということは事実だと思います。積極的に『やめて』と言っていなかったとしても、少なくとも消極的にはそのような意味を含んでいたと思います。今後すべてを明らかにしてもらいたいです」

Q.6月30日の県議会一般質問で、玉城知事は「調査状況が分かり次第、公表している」と答弁したものの、県は地元紙に対して「県三役が6月30日までクラスターの詳細を知らなかった」と説明しているようです

宮里医師「これが万が一本当だとしたら、そちらの方がさらに問題です。とんでもない話ですよ。県の中枢の病院で起きたことです。当然、三役は詳細を知っておくべきですし、関係者は知事や副知事にも知らせていたと考えます。国も県も、今直面している一番大きな問題が新型コロナの問題です。県議会で初めて知っただなんてこと、想像できますか?相当無責任で能天気でもない限り、こんなことはあり得ないですよ」

Q.今回の会見は中部病院で行われ、県の担当者は同席しませんでした。

宮里医師「そもそも今回の病院側の会見は、県庁記者クラブで行うべきでした。病院には療養者が多くいるので、外部から記者を集めて会見をすべきではありません。病院で会見をさせたということは、県の『自分たちは関係ない』という姿勢の表れでしょう。私にとっては耐えがたいほどの無責任ぶりです。沖縄県がこれまで地道に医療を積み上げてきたのに、涙が出そうなほど悔しいです」

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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