「沖縄振興予算」ネーミングが生む誤解 毎年3000億円超は優遇か否か

 
沖縄県庁 沖縄ニュースネット
次期振興計画の策定に向けた作業が進む沖縄県庁

 5月15日に本土復帰から48年を迎えた沖縄県。復帰後、特別措置法に基づく政府の沖縄振興策が10年単位で続き、現行計画は2021年度に期限を迎える。

 この振興策に基づいた「沖縄振興予算」は2012~2019年度でおおむね3000~3500億円で推移している。

沖縄県企画部資料より

 沖縄振興予算とはどういう予算なのだろうか。優遇措置はあるものの、実態は他府県に対する国庫支出金などと大きく変わらない。しかし、そのネーミングなどから、他県と比較して“著しく優遇”されていると誤解されがちな面もある。詳しく見ていこう。

そもそも沖縄振興予算とは

沖縄県と他府県とでは、予算が編成されるまでの仕組みがそもそも違う。

【沖縄県以外の道府県の場合】

その県の事業について、大まかに、教育関係なら文部科学省、道路整備なら国土交通省、企業支援なら経済産業省など、管轄の省庁が個別に予算を計上する。国庫支出金や地方交付税と呼ばれる。

【沖縄県の場合】

 国庫支出金などを財源に、教育関係でも道路整備でも企業支援でも、内閣府で一度取りまとめた上で一括予算計上する。これを「内閣府沖縄担当部局予算(沖縄振興予算)」と呼ぶ。

 沖縄振興予算は、他府県が受ける国庫支出金と大まかな性質は同じと言える。さらに、那覇空港の滑走路増設事業や沖縄科学技術大学院大学(OIST)事業など、都道府県予算とは切り離されるべき国直轄事業予算も含まれている、との指摘もされている。

 しかし、後述するように、公共事業などの補助率に違いが見られる他、沖縄県や県内市町村が使途を決められる自由度の高い「一括交付金」も、この沖縄振興予算に含まれている。

 沖縄振興予算に対する公式説明は以下の通り。

沖縄県
https://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/kikaku/yokuaru-yosan.html
首相官邸
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/okinawa_shinko/yosan_sesaku.html

「沖縄の特殊事情」とは

 このような違いが生まれたのは「沖縄特有の特殊事情」があるからだという。

 沖縄県のHPによると、①歴史的事情…沖縄戦の戦禍と、26年間日本の施政権外にあった、②地理的事情…本土から遠隔にあり、広大な海域に多数の離島が点在している③自然的事情…亜熱帯地域にある④社会的事情…国土面積の0.6%の沖縄に在日米軍専用施設・区域の約70.3%が集中している―ことから「沖縄の総合的かつ計画的な振興を図り、もって沖縄の自立的発展に資する」などの説明がされている。

 沖縄振興予算の根拠となる沖縄振興特別措置法は地域振興法の一つだ。地域振興法は沖縄と同じく日本の施政権外に置かれた奄美地域、小笠原地域にも実施されている。北海道についても資源や国土の有効利用の観点から北海道開発法が制定されている。

「3000億円もらっているなら文句言うな」の誤解と議論ノイズ

 ところが、沖縄振興予算にまつわる誤解は後を絶たない。沖縄県だけが他の都道府県とは「別枠で」3000億円以上を上乗せされているとの主張だ。このことがよく経済振興や基地問題などと結びつけられ、議論のノイズとなることがある。

 現にツイッター上では「国から3000億円もらっておいて文句を言うな」「首里城の再建にはまず沖縄振興予算を使え」「(コロナ禍での)5万人の飛行機キャンセル料は沖縄振興予算で賄え」などといった投稿が並ぶ。

 だが、沖縄県だけが特別に優遇されているわけではない。例えば、比較的沖縄振興予算が高額だった2015年度決算においても、内閣府の資料によると、1人あたりの行政コストは都道府県別で沖縄県は19位となっており、山形県や新潟県と同水準にすぎなかった。

(出典:https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/290316/pdf/shiryou2-1-3.pdf

 このような沖縄の諸問題や現状を伝えるため、大学時代に休学して全国で年間約250講演をこなした会社員の知念優幸さん(28)は、沖縄振興予算を巡る誤解について「沖縄の人もこのことについて知らなければ話題にもならない」と、県内での浸透不足も課題に挙げる。

 さらにネットリテラシーの問題にも触れ、「取得したい情報を呼び込むように『沖縄 優遇されている』などのキーワードで検索するとそのような言説に行きつくこともあるはずです」と話す。

一方で優遇措置も

 とはいえ、沖縄には本土復帰以降続く優遇措置もある。公共事業費の補助率がそうで、沖縄は他県に比べて政府の配分の割合が高い(高率補助)。1972年の復帰に伴う沖縄の「特殊事情」に配慮して、河川改修で10分の9(全国10分の5)、国管理の空港整備10分の9.5(全国3分の2)などが高水準のまま、現在まで続いている。政府からより多く事業費を負担してもらえるため、県がより借金(起債)をせずに済み、沖縄県は全国的に県債発行額を低く抑えられている側面がある。

那覇空港第二滑走路 沖縄ニュースネット
2000億円近い国費を投じて完成した那覇空港第二滑走路。写真は2018年、建設中のもの

 税制上の特別措置もそうだ。酒税の軽減のほか、人材育成や金融特区設置に伴う税制優遇など沖縄振興税制がある。これにより他府県よりも有利な土俵上で、産業振興につなげられていると言える。

「沖縄振興予算」ネーミング問題だけにあらず

 予算の名前に具体的な地名が付いていることが珍しく、それ故に「3000億円は追加分だ」という誤解を招く一因となる可能性がある。もちろん、ネーミングが与える印象だけが議論の対象ではない。当然、沖縄振興予算の意義も、時と共に問い直されている。

 冒頭で記した通り、現行の沖縄振興計画は21年度で期限が切れる。22年度以降の沖縄振興計画をどうするのか、議論は今後本格化する。沖縄振興予算はもちろんのこと、高率補助や税制などの優遇措置を継続するのかどうかも注目ポイントだ。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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