常設展へ行こう 学芸員が魅力を語る〜県立博物館・美術館 人類学編(1)

 
貝で作られた世界最古の釣針のレプリカ(沖縄県立博物館・美術館所蔵)

 そしてこの遺跡からは旧石器時代(約2万年前)の人骨に加え、日本で初めてこの時代の貝殻で作った道具(貝器)が発見された。「日本の歴史を変えるような発見と言ってもいい」。その中でも、ギンタカハマという巻貝を使って作られた釣り針は世界最古のものだという。
 これまでに日本の先史時代遺跡から見つかっていた釣り針は主に骨や鹿の角を使ったもので、貝を利用したものは極めて珍しい。

「巻貝の底の平らな部分を加工しているが、曲線の部分などはかなり入念に加工しなければいけないので、非常に大変。我々も実際に貝を使って試しに製作してみたが、とても難しい作業だった。敢えて貝を使う理由としては、釣り針にできるような固い素材がなかったということと、光があたった時にキラキラと光ることによってルアーのような役割を果たしていたのではと考えています」

忘れ去られたことをすくい上げる

 また、サキタリ洞遺跡からはモクズガニというカニの化石も出土しており、周辺で暮らしていた旧石器人たちがカニを食べていた形跡もあるという。伝承によると、付近の集落ではサキタリ洞のことを「カニグワーガマ(カニの洞窟)」と呼んでおり、数十年前まではカニを取って食べていたという証言もあった。
 さらに、ウナギのほか、海の魚ではイラブチャー(ブダイ)やエーグワー(アイゴ)も出土しており、この時代の人たちが魚介類を利用していたことも分かるという。「旧石器時代と現代が直接的につながってはいないが、こうして人々の暮らしが連綿と続いていることが分かることもやりがいの1つ」と語る。

学芸員のやりがいを語る山崎真治さん(港川人復元像は沖縄県立博物館・美術館所蔵)

 「発掘を進めて、何かが見つかった瞬間にやっぱり1番の喜びがある。それは今まで誰も知らなかったことが明らかになる瞬間だから」と山崎さん。「ただ、発掘現場ですぐ分かるわけではなくて、ある程度きちんと時間をかけないと判明しないから、喜びの瞬間のタイムラグはありますけどね」と笑う。

「展示室の分量的にはちょっと小さいけれど、人類の歴史のタイムスパンで考えたら実は4分の3は旧石器時代。途方もなく長い分、分からないこともとても多い。
 変化が激しい現代の中で忘れられてしまったことを、過去からすくい上げる。分かっていない時代のドラマを少しでも明らかにして伝えることが、『世界にここしかない』という沖縄の文化の深みをさらに掘り下げていくことにもつながると思っています」

◆開館時間や最新の企画展などの情報は、沖縄県立博物館・美術館(おきみゅー)WEBサイトへ

◆学芸員がそれぞれの専門について語るコラムも随時更新中

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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