コロナ罹患経験をどう生かすか 音楽家・喜久川ひとしさん
- 2021/1/31
- 新型コロナ・医療
沖縄民謡とシンセサイザーを融合した音楽を作詞作曲、CMや番組のテーマ曲などを提供し、リゾートホテルや国際通りの飲食店で、でいご娘・ひがけい子♪シュビーズのキーボードとして演奏を披露している喜久川ひとしさん(50)。昨年来の新型コロナウイルスの影響で、ステージは激減、スタッフたちも副業を余儀なくされている。そんな中、11月初旬、自らコロナに罹患した。
悲しみが押し寄せて眠れない
「まさか自分が・・・」。発熱して病院に出かけたところ、肺炎で血栓が体中におきる、いわゆる「中等症患者」と認定された。熱以外の自覚症状はないものの、血中酸素の低下でいつ急変してもおかしくないと診断され入院した。
入院中は、自分だけでなく周りの人たちの苦しみも重なって、夜になると悲しみが押し寄せて眠れない。しかし幸いにも2週間ほどで回復、その後の検査でも陰性と認定され、社会復帰しても大丈夫と医者からお墨付きをいただいた。
退院後、喜久川さんは新たな勉強を始めた。「音楽療法資格」である。
なぜ始めたのか聞いてみると、「自分が罹患して、Withコロナ、Afterコロナについて自分は何が出来るのだろうと考えた。テレワークを中心とした働き方、高齢者の増加、子供たちの家籠り・・。そうした状況になっていくと、今までとは違ったストレスが貯まるだろうと。じゃぁ、そこに自分の得意とするシンセサイザーと沖縄音楽で〝癒やし〟を提供出来ないかなと思ったんです」と話した。
そして「やはり知ったかぶりの知識で提供するのではなく、正しい理論に基づいた音楽療法の知識を得て提供しようと、資格を取得したいと思ったんですよ」とつけ加えた。
外から得たものを地元に還元する
喜久川ひとしさんは教育者だった家族の中で育った。4歳からピアノを学び、小説を読むことで美しい日本語の表現を覚え、テレビやラジオから流れる、YMOやTMネットワークから、デジタルミュージックの虜になった。中学の時には既に作詞作曲を手がけ、ロックバンドを組んで人前で演奏していたそうだ。
琉球大学へ入学し、法曹界をめざしたものの上手く進まず、教授から「自分に合うことをすればいいんだよ」と背中を押され、卒業後に音楽の道に進んだ。縁あって沖縄音楽のひがけい子さんと出会い、その師匠である普久原恒勇先生を研究し、浦添に音楽スタジオ「HIT」を開業した。身体を壊して12年でスタジオは締めたものの、その頃利用していた人たちに「僕の青春はHITにあった」と今でも声を掛けられるという。
30歳になり、人づてに日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ(JSPA)に入会、正会員として子供ばんどやナイアガラトライアングルのメンバーなどからトップクオリティーの音楽アドバイスを受けた。
本土の音楽技術を学び、沖縄に持ち帰って、一気に自分の「音」の引き出しが増えた。沖縄県内だけでなく外に目を向けること、外から得たものを地元に還元することが凄く大切なことだと気付いた。
今、演奏を聴くだけでなく手軽に外の音楽を実感できる方法がいくつかある。その一つ、YAMAHAが提供している演奏空間「シンクルーム」の演奏ソフトだ。
これは、音の遅れによるストレスを減らしたサービスで、遠く離れている人たちと気軽に音楽セッションができるというもの。「外国人と一緒に演奏もできるので、日本人にはない感覚の違いを実感できる。コミュニケーションをとるために言葉の隔たりをなくす努力も必要ですけどね」。ここで、音と言葉が取得できるなら一石二鳥である。
罹患の経験は幸せのベクトルへ
喜久川さんは次の時代を見据え、すでにヒーリングミュージック動画を作成し、YouTubeなどでテスト配信を始めている。今後は歌謡民謡や童謡の作曲も手がけていきたいそうだ。
「音楽療法資格をとることで、より自分のスキルが上がると思います。介護施設で童謡会を開いたり、子供会などで教えることができたらいい。ひがけい子さんが既に実戦されていることですが、どうしても学校に通えない子供たちにも、音楽を教えていきたいですね」と、地域貢献活動も視野に入れている。
「これからも、発想力豊かになるようにいろいろチャレンジしていきたい。ミュージシャンは夢を与える仕事。何より自分が健康で幸せであることが大事。健康じゃなければ、音楽を聴く相手に幸せを伝えられないですから」。
コロナ罹患の経験は、すでに幸せのベクトルへと着実に向かっている。
★喜久川ひとしプロフィール★
1970年3月20日沖縄県那覇市生まれ
*でいご娘・ひがけい子♪シュビーズのキーボーディスト。
*作詞、作曲、サウンドコーディネート
*テレビ番組BGMやCMのBGMなどの制作
*日本シンセサイザープロフェッショナルアーツJSPA正会員
*ハートFMなんじょうで毎週金曜日正午12時~12時30分「わしたウチナーけんさんぴん」のパーソナリティー