文化としての「食」に向き合う 棚橋俊夫さんの精進料理(1)
- 2020/11/12
- 食・観光
「精進料理というのは、フレンチや中華のような単なる料理の1ジャンルではなく、その人の生き方そのものを問う料理なんです。」
精進料理というと、野菜や豆腐で作った質素で物足りないお寺の食事といったイメージを持つ人も多いかもしれない。あるいは、肉食魚食が当たり前となっている現在、目や耳に、そして口にすらする機会が減ってしまったために、どういうものかも思い描けないかもしれない。那覇市在住の精進料理人の棚橋俊夫さんは、県産の四季折々の島野菜やトロピカルな果物を織り混ぜた、食すれば体が喜ぶ「琉球精進料理」を仕立て、脈々と受け継がれる日本の伝統的食文化の技術と哲学を広めている。
「清めて、前に進む」
精進料理は、仏教の不殺生という戒律に基づき、僧侶が料理を重要な修行と位置づけた所から始まる。避けるべきは、肉魚などの動物性の食材に限らず、五葷(ごくん)と呼ばれる、ニンニク、ネギ、タマネギ、ニラそしてラッキョウの5種類の人気の高い野菜も含まれる。古来から伝わってきた調理法や作法に加え、棚橋さんならではの野菜の組み合わせや技法には独自の哲学と精神性が込められ、野菜の旨味を最大限引き出す叡智が宿る。
「精進という言葉には『清めて前に進む』という意味が込められています。」自然由来の最も清らかな野菜によって、体の中から清まること、清められることは、精進で最も大切なことだ、と強調する。仕込みには、機械を一切使わず、ひたすら手間ひまを厭わない。「清められたものを一生懸命に作ろうとするのが料理人の役目で、調理は自分が神聖なものにどう対峙していくかという修行でもある」という。こうした伝統的な精神性も含めて表現された料理と向き合うことで、 食べる人たちが自身の現在の生活を顧み、文化的なレベルでの「食」を意識して 考える きっかけを作りたいというのが棚橋さんの考えの1つだ。