年間80イベント!沖縄のライブシーンを撮り続けるカメラマンが伝えたいこと

 

 沖縄のライブイベントにはこの人あり。ピーク時には年間80イベントに顔を出し、全ての出演者を撮影することを信条としているのがカメラマンのダイタクさん(35)だ。ライブハウスの光で線を描いて臨場感を全開にしたその作風は、多くのミュージシャンのSNSアイコンに採用されたり告知に使われたりするなど、沖縄ライブシーンの縁の下の力持ち的存在だ。「沖縄のバンドはかっこいい、ライブハウスは楽しい」ということを写真で伝えたいという使命感に突き動かされるダイタクさん。自身もバンドTHE WASTE PUNKSのベーシストとして活動しており、写真の中からリズムやうねりを感じ取ることができる。

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@daitaku69 | Instagram

光を操る特殊技法で

 その写真を見ると、すぐにダイタクさんが撮ったものだと分かる。

トリックスターグーニーズ(ダイタクさん撮影・提供)

ヨシキカーニバル(ダイタクさん撮影・提供)

 暗いライブハウスでフラッシュを焚いてミュージシャンの姿をまずはっきりと捉え、シャッターをしばらく開いたままカメラを動かすと、照明の残像だけが浮き上がり、特徴的な線や模様を描くことができる。

 ダイタクさんはこの技法で撮られた写真を初めて見た時に、撮影方法がどうなっているのか見当もつかず「最初、何か合成しているのかなと思いましたよ。人はブレていないのに後ろは動いているって、どういうことなんだろうって」と振り返る。

 ちょうどいつものようにライブハウスでステージにレンズを向けていた時に、何かの拍子でシャッタースピードがかなり遅くなっていたまま撮っていたことがあった。その時の写真が、人はブレずに背景が動いているように撮れていた。「それから1カ月ぐらい詰めていって『多分これで正解だろうな』っていう段階にはたどり着けました」

熱気伝わるライブハウスの様子(ダイタクさん撮影・提供)

 そうやって習得した撮影テクニックを、ダイタクさんはライブハウスで写真を撮っている人に積極的にその方法を教えるようにしている。暗い場所での撮影は技術も要るし、あちこち動き回って堂々と立ち振る舞うには度胸も必要で、初心者にはそれなりのハードルがある。だからこそ「カメラの設定さえちゃんとしておけばあの写真は結構誰でも撮れるんですよね。他の人にも早めに成功体験をしてもらって、ライブハウスでの撮影を続けてほしいです」と話し、共に沖縄のライブシーンを盛り上げる仲間を作っている。

「沖縄のイベントは全部スケジュールに」

 ダイタクさんの典型的な週間スケジュールはこうだ。土曜夕方にはイベントで撮影し、夜遅く帰宅した後は撮影データをパソコンに取り込む。日曜朝にすぐ編集に取り掛かって完了させ、その日の夕方にはまたイベントに行き、翌週平日の昼休みを使って日曜撮影分の編集をする。いつもベージュのスーパーカブにまたがってライブハウスに向かう理由はこうだ。「イベント終わったら早く帰って編集したいんですよね」。駐車スペースに制約の少ない原付を最大限に活用する。

 Twitterではさまざまなライブハウスやミュージシャンをフォローして、県内のイベント情報を常にチェックしている。「とにかく、沖縄のライブイベントはまず一回全部スケジュールに入れます。それから前日あたりに行くイベントを決めています」というほどの網羅ぶりだ。

 なぜそこまでするのか。「バンドとライブハウスの魅力を認知してほしいです。沖縄のシーンの盛り上がりが広く伝わったら、県外のバンドもツアーで沖縄までライブしに来てくれるかもしれません」

ライブ写真を撮り始めたきっかけ

 ダイタクさんがライブ写真を撮り始めたきっかけは、偶然と言えば偶然だった。名桜大学在学中に音楽系のサークルに入っていた時のこと。自分が持っていたケータイのカメラが、他の人のよりも性能が良かった。「そのカメラでライブを撮っていたら、褒められてうれしくなったんですよね」

 それから7年も8年も経ったある日のことだった。なんとなく欲しくなったカメラ。マンガ倉庫泡瀬店で中古のCanonの一眼レフカメラ入門機を手にした。「とにかく、Canonって聞いたことあるし、これ買っておけば間違いないだろうと思って」。ライブハウスでまた写真を撮ってみようとカメラをぶら下げ向かったものの、現実はそんなに簡単ではなかった。「ライブハウスが暗すぎて、全然撮れなかったんですよね。今考えたらそりゃそうなんですけど」

 どうにかして写真の腕を上げたいと思っていた矢先、最初に協力してくれたのが沖縄市のライブハウス「SLUM BAR」だった。毎週試行錯誤を繰り返しながら練習した。今のスタイルに落ち着いたのはそれから2年ぐらい経ってからだ。

展示会も視野に

 今後は、これまでに撮りためたライブの写真を集めて、展示会をやりたいとの展望がある。「ライブハウスで展示して、最終的にはライブイベントを組みたいです」と、あくまで主役の座は最後までステージ上のバンドマンにあることがポリシーだ。「編集のために撮った写真を見返していると、前の日のイベントにもう一度行っているような気分になれます」と、そのワクワクを伝えるためにダイタクさんは次の週末にもどこかのライブハウスでシャッターを切り続ける。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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