先島地域の住民避難で図上訓練 武力攻撃想定 現状の輸送力は?

 

 沖縄県は3月17日、他国からの武力攻撃を想定し、国民保護法に基づいて先島諸島の市町村(宮古島市、多良間村、石垣市、竹富町、与那国町)の住民避難を検討する「沖縄県国民保護図上訓練」を県庁で実施した。先島諸島の住民など約12万人を九州に避難させることを想定したもので、各島からの避難日数や経路などが示され、避難のプロセスを確認した。

 訓練には沖縄県、先島諸島5市町村、内閣官房、消防庁、国土交通省、沖縄総合事務局、沖縄県警、第十一管区海上保安本部、自衛隊、民間運輸業者などの各機関が参加した。

図上訓練とは?

 図上訓練とは、予測される事態について地図上でシミュレーションする訓練のこと。海外からの武力攻撃を想定したものは県内で初めてとなる。

訓練で想定した状況は?

 この訓練で想定した状況は以下のように示された。

①国は、我が国周辺の情勢悪化に伴い、万一の事態に備え、事前に関係する各地方公共団体(沖縄県含む)及び指定公共機関等の関係機関と接触を開始。
②県は、沖縄県危機管理対策本部を設置し、先島諸島市町村及び関係機関と避難に関する各種調整を開始。
③A国から日本への武力攻撃の可能性の示唆等もあり,政府は最悪の事態に備え武力攻撃予測事態を認定。

 県は「国民保護に係る連携などについて訓練するための過程の想定であり、特定の辞退を想定したものではない」と強調するものの、先島諸島の住民避難を念頭に置いていることから、いわゆる「台湾有事」における日本への武力攻撃を想定しているとの見方ができる。

現状の輸送力は?

 避難措置の指示(政府素案)では、先島諸島5市町村は九州各県に避難し、その他の沖縄県内市町村は屋内避難とすることが示されている。5市町村の人口は約11万人で、その他約1万人の入域者が滞在していることを想定している。交通手段は原則公共交通機関を利用するとしている。

 県の避難指示案で、八重山地域では各島の住民らが石垣島に移動し、新石垣空港-福岡空港、もしくは石垣港-鹿児島港へと避難する。

 宮古地域でも同様に、多良間島住民は一度宮古島に移動する。宮古島空港・下地島空港から鹿児島空港へと、もしくは平良港から鹿児島港へと避難するという想定だ。

今年2月時点での平常時の1日あたり輸送力は、沖縄県によると、竹富町-石垣市が約7600人、与那国町-石垣市が約230人、石垣市から県内外が5261人、多良間村-宮古島市が約230人、大神島(宮古島市)-宮古島市が200人、宮古島市から県内外が3958人。

 国や県が連携して輸送力を確保した後は、九州7県への1日あたり輸送力が八重山地域で約1万280人、宮古地域で約1万1504人と、計約2.36倍となる計算だ。

 各市町村が出した住民避難にかかる日数としては、与那国町-石垣市が1日、竹富町-石垣市が2日、石垣市-島外が6日以内、多良間村-宮古島市が1日、宮古島市-島外が6日以内。

南西諸島を取り巻く軍事力配備

 今回の図上訓練のみならず、昨年11月には与那国町で、ことし1月には那覇市でそれぞれ、弾道ミサイルの飛来を想定した住民避難訓練が実施されており、“有事”がより現実的な脅威として受け止められつつある。その一方で、このような訓練は「戦争が起こることを前提としており、戦前戦中の社会情勢を想起させるもの」として、実施自体に反対する声も見られる。

 防衛省は2010年の「防衛計画の大綱」で、南西諸島の軍事空白化を埋めることを念頭に、いわゆる「南西シフト」の方向性を示している。以降、陸上自衛隊は2016年には与那国島に与那国駐屯地を、19年には宮古島に宮古島駐屯地、奄美大島に奄美駐屯地、瀬戸内分屯地をそれぞれ開設するなど、“国境の島”から軍事的なにらみを利かせる。今月16日には石垣島に石垣駐屯地を開設し、その2日後の18日には弾薬などを搬入し実質的な運用体制を整えた。

日本政府「ウクライナが侵略されたのは軍事抑止力が足りなかった」

 このように、西方の軍事力配備を強化するのは、中国の軍事台頭を懸念しているからだ。2022年に閣議決定された国家防衛戦略では、防衛戦略環境の変化について「グローバルなパワーバランスが大きく変化し、政治・経済・軍事等にわたる国家間の競争が顕在化している。特に、インド太平洋地域においては、こうした傾向が顕著であり、その中で中国が力による一方的な現状変更やその試みを継続・強化している」と明記している。

 中国は、2022年の中国共産党全国代表大会で「最大の誠意と努力を尽くして平和的統一の実現を目指すが、決して武力行使の放棄を約束しない」と表明していることに加え、台湾周辺での軍事活動を活発化させている。また、同戦略で北朝鮮は「かつてないほど高い頻度で弾道ミサイルを発射している」、ロシアは「ウクライナ侵略を行うとともに、極東地域での軍事活動を活発化させている」として、安全保障にとって深刻な事態が発生する可能性を示している。

 日本政府は、ロシアがウクライナを侵略するに至った背景として、ウクライナの軍事抑止力が不足していたという見解を示しており「力による一方的な現状変更は困難であると認識させる抑止力」の重要性を説いている。

 今回の図上訓練で仮定された状況には、武力攻撃を想定した避難に至る前段階として「あらゆる外交努力を尽くすも」「武力紛争を回避すべく外交努力を継続する一方で」との文言も散見された。備えあれば憂いなしではあるものの、その備えの出番が実際に回ってくる必要が無いよう、政府も市民も一丸となって努力したい。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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