琉大周辺の渋滞解消へ実証実験 交通渋滞なぜ起こる?識者解説
- 2023/1/19
- 社会
八千代エンジニヤリング株式会社(東京都)はこのほど、琉球大学工学部の神谷大介准教授と共同で、琉球大学への通勤・通学時における渋滞の低減を目指した「キャンパスMaaS」の実証実験を行った。MaaS(Mobility as a Service)とは、公共交通などの移動サービスを最適に組み合わせて検索や決済などを一括で行うサービスのこと。マイカーの相乗りや公共交通機関などの利用で沖縄県内の交通系ICカード乗車券「OKICA」にポイントが付与されるインセンティブをつけることで、マイカー利用を抑制し、交通渋滞緩和などにつなげる。
OKICAにポイント付与で公共交通利用推進
実証実験は、昨年12月5日から同16日までの平日10日間に行われた。
ブロックチェーン技術を利用したMaaSの予約システムを導入することで、OKICAにポイントが付与される仕組みを作り出した。この仕組みが技術的に正しく機能するかという点と、実際にマイカー使用の抑制やバス利用の推進につながるかという点を併せて検証した。
この仕組みが社会実装された際は、OKICAに付与されるポイントの原資に、琉球大学の学内駐車場を有料化した分を充てたり、クラウドファンディングによって基金を作ったりするなど、さまざまな案が出されている。
琉球大学では、通勤・通学に多くのマイカーが使われており、交通集中による渋滞だけではなく、学内駐車場やその周辺で接触事故が多発していることも問題となっている。さらに琉球大学の周辺には他にも沖縄国際大学、沖縄キリスト教学院大学・短期大学があるだけではなく、小中高校や病院などの施設が集中していることから交通渋滞が慢性化しているという現状がある。
マイカー利用95%⇒90%で大きな効果も
八千代エンジニヤリングは県の事業の一環で、2018年に沖縄国際大学、翌2019年に琉球大学ですでに通勤や通学の実態調査を行っていた。同社社会資本空間デジタル化研究室の菅原宏明室長は「どうしても車の方が便利だという意見が多いです。大学までだとモノレールでは遠く、バスも渋滞に巻き込まれてしまいます」と話す。
沖縄県内で、関東や関西の都市圏のようにバス利用が進みにくい背景として、1回あたりのバス運賃の高さがある。ただ、沖縄のバス運賃単価そのものが高いというわけではない。例えば東京の大部分では鉄道網が発達しており、鉄道で近くまで行ってバスに乗り換えることが多いため、近距離利用で比較的安価にバスを使うことができる。
「20kmほど離れた場所から来る場合、バスだとどうしても高くなります。毎日利用するとなると経済的に負担が大きくなってしまう状況があります」(菅原室長)
そういった事情も鑑みながら、菅原室長は「毎日ではなくとも例えば月に1回でもマイカー利用を控えて、公共交通を使って頂けるような仕組みになればと思っています」と話す。琉球大学への通勤・通学の現状は、マイカー利用が約95%に対して、バスを主とした公共交通が約5%だという。「1カ月間の平日のうち1回だけでもバスを使ってもらえたら、マイカー利用が95%から90%になって、バス利用が5%から10%になります。そうなるとバス利用者が2倍になって、バス事業者の待遇やサービスの向上につながります」
走った方が早い?那覇市の渋滞
車社会と呼ばれる沖縄県。ただ、全国的に見ると必ずしも沖縄だけが車社会というわけではない。一般財団法人自動車検査登録情報協会の資料によると、2022年3月末時点で自家用乗用車の1世帯あたり保有台数は全国平均が1.032台に対して沖縄県は1.279台と全国25位。1位の福井県は1.708台と大きく差がある。
しかし、大きな問題は交通渋滞だ。2021年3月の内閣府の資料によると、平日混雑時平均旅行速度は東京23区14.6km/h、大阪市15.3km/hに対して那覇市10.8km/hと、距離によっては走った方が早いという事態もあり得てしまう。
渋滞の理由「街の中心がはっきりしない」
前述の琉球大学・神谷准教授は沖縄の交通渋滞が慢性化している原因の一つとして「バスでどこに人を運べばいいのか分からない」と挙げる。どういうことなのか。
「沖縄本島のうるま市と読谷村以南の『中南部都市圏』には、100万人以上の人口が広い範囲で比較的均一に人が住んでいますよね。駅を軸とした“街の中心”がありません。宜野湾の中心や浦添の中心がどこだかははっきりしていません。一般的には街の中心に向けて人を運べば良いのですが、沖縄の場合はまんべんなく住宅地があって、まんべんなく商業地があって、まんべんなく仕事するところがあって。だからまんべんなく人が動いています。その結果、道路が混むんですよ」
さらに神谷准教授は交通渋滞について「1つの理由というものはありませんが」と前置きした上で「通勤手当が出ない会社が圧倒的に多い」という点を挙げる。「出たとしても月3000円や5000円という会社もあり、バスに乗ると大赤字になってしまいます」と話し、他にも、近距離でも車に乗ってしまう生活習慣や、車関係の税金が全国に比べて優遇されていること、バスの運転手不足など、さまざまな社会的要因を指摘した。渋滞緩和には、交通のメカニズム向上のみならず、多角的なアプローチが必要だ。