「時間というフィルター」を意識して紡ぐ言葉と音 ASIAN KUNG-FU GENERATION 後藤正文さんインタビュー<後編>

 
photo by Tetsuya Yamakawa

どうやって「時間」というものを越えていくか

 ―そんな中で『プラネットフォークス』は、歌詞の言葉も含めた楽曲からも非常に勇気もらえるアルバムでした。

「ありがとうございます。でも、何年か経たないと分からないですけどね、作ったものの中にあるエネルギーとか、あの時どういうものを作ったのかみたいなことって。表現物ってやっぱり時間の中で揉まれていくんですよ。だから、今人気があることってあまり大した意味はなくて、とりあえず広がっただけで。売れたってだけでゴミ屑みたいに扱われてる音楽とかもたくさんあるし。
 だから、時間というフィルターを意識するのはめちゃくちゃ大事なんじゃないかなって気がするんです。『今上手いこと言えた』みたいなことは全然大したことない、そんなの藻屑だよ、みたいな(笑)。波打ち際でザパーンってなって、無かったことになるような言葉なんじゃないか。それよりも、きっちり時間かけて書きつけて紙に刷って、本棚とか図書館とかに並ぶ言葉の方が、やっぱ思いもよらぬ力を持つはずなんです

 ―射程距離が長い言葉ということですね。

「そうなんです、まさに」

喜多建介(G&Vo) photo by Tetsuya Yamakawa

 ―時間の話が出ましたけど、アルバム収録曲ごとでレコーディングに結構な時間差がありますよね。

「そうですね、時間かかっちゃいましたね。アルバム計画から練り直しって感じだったんで。元々はロンドンに行って1ヶ月とかで録りたいって話をしてたんですけど、コロナで『あれ?行けないですね』みたいな感じになっちゃったんで。そこからプランを練ってやったし、僕もコロナ入ってソロとかを作ってたりしたので。まあでも『そういうものかな』って気はします。元々毎年1枚出さなきゃいけないみたいな環境がおかしいんだよ、と。みんなそうじゃないと回らなくなっちゃってるってことに、配信プラットフォーム時代の闇があるっていうか。いかにずっと何かをしてるように見せるか、みたいな感じになっちゃってる」

 ―出さなかったら何もしてないんじゃないか、と。

「出した時にアクセスが増えて、それを保ってかないと人がどんどん減っていくみたいな仕組みになっちゃったから。だからどうやって時間というものを越えていくかが、1つの課題ではあるかなという気がします。消費の中から20年後に思いもよらぬブームになるような音楽もあると思うんですけど、そういうことじゃないのも大事かなって。僕たちが最初から意識してるのは、中高生とかがアジカンの曲をコピーしてくれることなんですよ。バンド練習で。これにめちゃくちゃ意味があると思っているし、すごく嬉しいんですよ」

山田貴洋(B&Vo) photo by Tetsuya Yamakawa

中高生が集まって、ちょっとやってみたくなる音楽

 ―それはとてもグッとくる話ですね。

「例えばTHE BLUE HEARTSがなんでこんなに長く支持されてるかって言ったら、作品自体が素晴らしいのもありますけれど、演奏できるのが大きいですよ。みんなが集まって、みんなで楽器を持って、『リンダリンダ』とか、ちょっと練習したら演奏できるから、それがやっぱり1番大きい。そういう残り方ですよね。音楽ってやっぱそういうものなんですよ。サブスクで1回聞かれるよりも、中高生のバンドが『リライト』を1回演奏する時のエネルギーだよ!って思うじゃないすか」

 ―ものすごく最高のエネルギーですもんね、それって。

「そうそう。だから僕はあんまり演奏を難しくしていきたいと思わないですもんね。ソロはともかくとして。やっぱり中高生が集まって、ちょっとやってみたくなるような音楽の方がいいんじゃないのって思いますよね。そういう意味では、青春パンクみたいな波が何度も訪れるのは、みんなが演奏できるからなんですよ」

伊地知潔(Dr) photo by Tetsuya Yamakawa 

 ―なるほど。確かにその視点はあんまり意識したことなかったんですが、そういう理由も多分にありそうです。

楽器演奏とか、音楽的な才能なんて無くてもできるのがロックンロールの良い所で。音楽をプロの手から奪還しようというのがパンクミュージックの思想なので。音楽は専門的な教育を受けて手が動く演奏家たちだけのものなんじゃない、音楽は俺たちのものなんだっていう運動としてパンクがあるから。だから、その意味では俺たちもそのパンクの端っこにいるんだなっていうことは思いますね。だからもっと下手くそなヤツを見たいんですよ最近(笑)。友達とよく『破滅的に下手なバンドって見なくなったね』って話します(笑)」

 ―勢いとか衝動とかアティテュードが爆発してるような。

「そういう意味では銀杏BOYZとかがどうして美しかったかっていうのは、そこにあると思うんですよね。あの時にしかできない一瞬の輝きで、日本中を転げ回った。そこに潔さと美しさがあったんだなって思いますし。そんな姿勢で続けたいですね、おじさんになっても。と言っても洗練されちゃいましたけどね(笑)。(ギターの)喜多くんが7thコード弾いてると、パワーコード弾けよ!とか思ったりしますけど(笑)」

 ―なかなか良いまとめになりました…かね、コレ(笑)。これからライブですね。楽しみにしてます。貴重なお時間ありがとうございました!

photo by Tetsuya Yamakawa

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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