博覧会に内在する権力と欲望の眼差し なはーとで企画展「帝国の祭典」

 

被差別者が生むさらなる差別の連鎖

 終盤は博覧会と日本との関係を見つめ直すセクションが続く。「第五回内国勧業博覧会と人類館」のパートでは、1877年から日本国内で行われていた内国博の中でも最大規模の第五回内国勧業博覧会にフォーカスする。

 その中には、日本の博覧会で初めて<人間の展示>を行った施設「学術人類館」もあった。人類館は、この博覧会の集客の目玉ではあったものの民間業者によって運営された場外施設だった。「人間を見せ物にするという印象を与えてしまうことを懸念したことから、“学術”の文言と要素をにわかに入れ込んだんですね」(小原さん)。
 沖縄やアイヌ、台湾の人たちを展示対象として扱った人類館には、方々から抗議が寄せられたのは言うまでもなく、特に当時の『琉球新報』は反人類館キャンペーンを張った。

 ただ、アイヌらを捉えた人類館の写真に、日本刀を帯刀している男性や学生帽をかぶった子ども、そして和装に近い女性が写ってることについて「これは普段は洋装をしている教育者のアイヌ男性とその妻子が、和人との近親性を服装で提示しているんです。つまり、アイヌの教育のための義援金を集めるために『我々はこんなにも日本に同化したんだ』というアピールだったのではないか」と指摘。

 そして、展示されたアイヌの人たちが実は主催者と契約を交わした上で、いわゆるパフォーマーとして“共犯関係”にあったことにも留意する必要がある、と小原さんは付け加えた。

「当時、人類館にかなり激しく抗議をしていた『琉球新報』なんですが、社説の文面を見てみると、『沖縄県人をアイヌや台湾原住民と同一視するな』というロジックになっている。差別された人たちが、さらなる差別を生み出して抑圧がどんどん移譲されていく構造があります。この意味でも、人類館を巡る言論には近代沖縄や近代日本の屈折が見られると思います」

「『われわれ』とは何なのか」を何度も問い直す

 北海道の近代化・軍事基地化の過程でアイヌの生活基盤が奪われたことで、文化や外見、出自をパッケージングして“売りモノ”にして生きていかざるを得なかった人たちが、博覧会などに出演し、その後北海道で観光業にたずさわっていく歴史的事実について、小原さんは「内地化=進化という価値観の基に文化を序列化・階層化することで、日本中が“人類館化”している状況とも言えそうです」と見解を話す。

 この構造については、現在の沖縄と本土との現状にも通底している部分がかなりありそうだ。また、2025年には大阪万博が開催されることも視野に入れると、展示の見方も変わってくるだろう。

 今回の展示について小原さんは「人間とは何か、日本人とは何か、近代とは何だったのかということも含めて、色々なことを考えるきっかけになると思います」と話す。

 無自覚な差別や優劣の線引きに意識的になるためには「『われわれ』という言葉は何なのか、ということを何度も問い続けないといけません。そのためにも、まず自分自身について内省しなければならないでしょう」と語り、「写真をじっくり見ると細部に色々なことを発見できるので、是非何度も通ってください」と呼びかけた。

 展示は11月6日までで、休館日は第1・3月曜。時間は11~19時となっている。10月22、23両日17時には、小原さんによるギャラリーツアーが行われる。参加は無料だが、申込みが必要。なはーと代表電話(098-861-7810)もしくは、1階の総合案内にて受付中だ。

■関連リンク
帝国の祭典――博覧会と〈人間の展示〉(なはーとWEBサイト)
ギャラリーツアー概要(なはーとWEBサイト)

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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