アクターズスクールが1日限りの“大復活” 牧野アンナさんインタビュー(前編)

 
大復活祭に向けたリハーサルの様子(牧野さん提供)

 ―アクターズ出身と言えば、やはり安室奈美恵さんの存在がブレークスルーになったと思いますが、それまでは沖縄の若い世代が東京に出るにあたって、どんなことが障壁になっていたのでしょうか?

「奈美恵より前にもアクターズスクールからたくさんの子たちがデビューしてはいたんですが、その当時は本当に才能だけに頼ってたというか、可愛い子やちょっと歌える子をプロダクションが見に来て、この子いいねって連れていくっていうやり方だったんです。でも沖縄のその当時の弱みはメンタルだったんですね。10代の子が海を超えて大都会東京に行くと、寂しさもだし、遊びの誘惑もたくさんあるし、歌とかダンスだけに集中せずにフワッと駄目になって沖縄に帰ってくるケースがほとんどでした。
 私自身もソロデビューしましたけど、頑張り続けられなくて戻ってしまったんです。そんな事情もあって、芸能界では『沖縄の子は駄目だ』って言われちゃってたので、育成の仕方を変えなきゃいけないということで、うちの父がメンタルトレーニングをし始めるんですね。さらに、ソロだと駄目になっちゃうからグループを組んで、デビューそのものではなくて、ちゃんとその先を目標にするような育て方をしよう、ということになって。その最初がスーパーモンキーズ(牧野さんがリーダーを務めていた)だったんです。だからスーパーモンキーズはこれまでにないぐらいレッスン自体も凄く厳しかったし、その当時まだ13、14歳の私以外のメンバーに対して『お前たちは沖縄の未来を全て背負うんだ』ということを言って育ててたんですよ」

 ―当時中学生くらいの子たちに対してそのプレッシャーはとんでもないですが、さらにそれを管理・育成すると牧野さんが背負っていたものも限りなく大きく重いというか…。

「父から『お前にこれだけの才能を預けて駄目だったら、全部お前のせいだ』ということを言われていました。だからMAXのメンバーとかは今でも私のことが怖いって言うんですが、その時本当にめちゃくちゃストイックにめちゃめちゃ厳しくやってたので、多分トラウマが全然残ってるんだと思います(笑)。
 父は特に奈美恵の才能をすごく高く評価していて『奈美恵以上の子はもう多分出会うことはない。奈美恵で駄目だったら、もう沖縄は無理だ』ということも言っていたんです。だから『絶対にここで失敗できない』と。東京で住んでる所の玄関にアクターズ全校生徒の写真を飾って、仕事に行く前に必ず『みんなのために頑張ってくるね』って挨拶して出かけるということをしてましたね」

 ―アクターズを辞めて、2002年にダウン症のある方たちのエンターテイメントチーム「LOVE JUNX(ラブジャンクス)」を立ち上げていますが、どんな経緯があったんでしょうか?

 レッスンをしていた当時は、みんなと一緒にいる時間はもちろん楽しいんですけど、指導してること自体に楽しみとか喜びを感じたことは実は1度もなかったんです。そもそもスターを目指してアクターズスクールに入り、でもその才能がないという壁にぶつかり、父に言われて指導者をやることになったので。でも当時指導者って、スターになれなかった人たちの“墓場”という印象だったので…(苦笑)。『スターをたくさん育てて指導者としてスターになるというやり方もあるんだ』と父に言われた通り、アクターズからスターが出れば出るほど、育成している人間として私も注目されるようになり、取材も受けるようになったんです。ただ、やっぱり「自分でそうなった」っていう実感が全くないんですよ。
 それに自分に才能があるかないか分からないで悩んでいるたくさんの生徒や、デビューしてスターになってからもすごく苦しんでる人たちを目の当たりにして、「私の仕事って一体誰を幸せにしてるんだろう?」と思って、育成することの意義を見出せなくなっていったんです。

「LOVE JUNX」WEBサイトより

 それからアクターズを辞めることになって、その頃にダウン症のある人たちと出会いました。ダウン症のある人たちは普通のダンススクールには受け入れてもらえないんですよ。スクールをやることで、その子たちのための場所を作ることで、スターになった子だけがハッピーになるんじゃなくて、その保護者やダウン症のある子を妊娠した人たちだったり、色んな人たちに希望を与えられるし、社会的な意味があると思いました。初めて自分のやってる仕事が意味のあることだと感じられたというか、喜びを持てたというか。ダウン症の人たちも単純に「楽しい」「好き」だから踊っていて、私自身も変な感情の鎧みたいなものを全部はぎ取って、みんなと一緒に楽しんでいいんだ、と感じることですごく救われたんですよね。


 「沖縄アクターズスクール大復活祭」は10月2日に開催する。会場のチケットは完売となっているが、配信チケットは販売中だ。出演者はMAX、島袋寛子、知念里奈、DA PUMP、三浦大知、B.B.WAVES、玉城千春(from Kiroro)。

■関連リンク
「アクターズ魂を感じてもらえたら」 牧野アンナさんインタビュー(後編)
沖縄アクターズスクール大復活祭 〜本土復帰50周年記念〜
配信チケット情報(イープラス)

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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