【統一地方選】選挙カーの内側から ウグイス嬢の現場に密着!

 

 気さくで朗らかなOさんと、もともと友人同士の祖慶さんと長井さんの3人チームは雰囲気がとても良い。ウグイス嬢は地域を回りながら長いこと声を出し続けるため、どうしても疲れてきてしまう。そういった変化も察知しながら「だから休憩も大事ですよ。『甘いの食べようかー』って言って」とOさんのナイス采配が光る。

 Oさんが言うには「選挙の街宣には、暗黙の了解というか、マナーがあるんですよ」。こんな時には音を出さない、という状況があるという。主なものとしては以下。

①学校、保育園、病院、忌中の家の前を通る時
②他の候補者が街頭に立って演説をしている時
③他の候補者の事務所の前を通る時
④他の候補者の選挙カーが道路前方を走っている時

 しかし、こういった暗黙のマナーも、選挙事務所によっては十分に受け継がれていないことも増えてきているという。そのあたりの継承も、公正な選挙に一歩近づくためには必要な作業だと言える。

 さらに、選挙カーは比較的低速で走りながら大音量を鳴らすため、時間や状況によっては住民の迷惑につながることも少なくない。Oさんは一般車の通行の邪魔にならないように頻繁に車を左に寄せながら、先に車を通していくよう常に心掛けている。事務所にいた候補者本人も「一定のエリア内を、各候補が出すたくさんの選挙カーが走るわけですから、音が重なり合って『何を言っているのか分からなくて、うるさいだけ』という状況は作らないように強く意識しています」と話していた。

選挙カーの意外な役目

 選挙カーは意外な役目も兼ねていた。各地に貼られた選挙ポスターに、貼り残しなどの異変がないかをチェックするというものだ。特に今回は台風接近で一旦掲示板が撤去されたこともあり、念入りだ。

 そんな中、ウグイス嬢が時折挟む言葉選びのバリエーションにも感心させられる。ゴルフレンジの前を通る時には祖慶さんが「【候補者】もフルスイングでやって参ります」と会心のダブルミーニングを繰り出してくれた。このように、自らがマンネリ化しないようにしながら新しいワードを作り上げていくセンスもウグイス嬢に要求されるスキルだ。「同じ名前を何度も繰り返し言っていたら、ちゃんと言えているのかどうかが自分でも途中から分からなくなるんですよ」と、不思議な現象が起こることもある。

「ウグイス嬢はみんな持っていますよ」という龍角散ののど飴

 その後、歴戦の選挙カーからオイル漏れが発生し、この日の街宣活動は中断。候補者がウグイス嬢の2人を車で迎えに来て、運転手のOさんはその場で積載車を待つことになった。こういったアクシデントも、生身の人間が向き合う選挙戦の1コマでもある。

たたえ合う候補者「目指すべき目標は一緒」

 事務所に戻ると、特に印象深かったことがあった。よくいろいろな選挙事務所の壁に「必勝」と書いて貼られる「為書き」のことだ。普通ならば、保守系の候補は保守系の政治家から、革新系の候補は革新系の政治家から為書きを贈られる。しかし、この候補者の事務所には「保革を異にするはずの近隣市町村の首長」からの為書きが、しっかりと貼られていた。党派性は違えども人々の幸せのために働くという点で「お互い最終的に向いている方向は同じですから」と候補者本人。この首長とは個人的にも親交が深く、叱咤激励を受けてきた仲だという。

 選挙カーに乗ってみても分かったことだが、候補者同士はお互いを尊重しながら選挙戦に臨み、健闘をたたえ合う姿も目立った。現職でもある候補者は、保革の違う議会会派の議員同士で一緒になって県外での陳情要請なども行っているという。

 振り返って、一部の支持者の姿はどうだろうか。SNS上などで対立候補に何かしらのレッテルを貼り、攻撃すること自体が目的となっているような人は周りにいないだろうか。政策論争に発展させる努力をせず、お互いの溝を深めているだけでは前に進まない。選挙そのものが暗いものとなり、ますます政治に対する興味を失わせてしまう。お互いを尊重しながら、選挙が終わればノーサイドでみんなが幸せになる社会を目指していけますように。そんな選挙を作っていきましょう。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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