【慰霊の日】平和歌『月桃』はなぜ3拍子なのか 沖縄で歌い継がれて40年 海勢頭さんインタビュー

 

『月桃』の明るくも切ない曲調

歌碑のそばに植えられた月桃と共に

 『月桃』は、戦争と平和をテーマにした曲としては明るめの曲調だ。海勢頭さんは「悲しい曲にしては誰にも歌ってもらえないだろう」と、歌を通して沖縄戦を語り継いでもらうことを念頭に置いた。

 コード進行(伴奏などでの和音の順番)の基本的な形は「C-Em-Am-G7」。メジャーキー(長調)のため全体的に明るい雰囲気だが、どこか切なさを潜めるのは「Em-Am」とマイナーコード(短三和音。暗い響きが特徴)が続いた後で「G7」が持つ不安定な響きが心を揺さぶってくるからだろう。

 『月桃』の世界観を印象付ける重要な要素の一つともなっているこのコード進行だが、海勢頭さんは「最初はね、Cメジャーコード(ドミソ)を1つ鳴らしておくだけで歌えるようにしていたんだよ。ものすごくシンプルに考えていました」と『月桃』の原案について話す。コード進行自体がない、という意味だ。

 「できるだけシンプルな方が良いと思って。沖縄の音楽っていろいろコード付けると、逆に(曲自体が)喋りすぎるというか。『変化しない』ことで水平線が広がっているイメージが体感できたらなと。メロディ主体でね。そういう考え方もあったんですよ」

 それでも「内容に応じて変化させた」とコード進行を付けたのは多くの人、とりわけ子どもたちに歌い継いでほしかったからだ。
 「沖縄戦の悲しみは、口で言えるものではありません。子どもたちが(歌詞や曲から)沖縄戦当時の様子を視覚的に受け入れて『二度と戦争してはいけないんだ』という思いを歌ってもらおうと思いました。毎年慰霊の日が近づくと学校で歌って、さらにその時期には大人たちが鎮魂している光景がある、という状況を作れたらと考えたんです」

なぜ3拍子だったのか

 曲の拍子は3拍子。「ズンタッタ」のリズムはワルツなどの舞曲に多く見られ、華やかな印象がある一方、映画『千と千尋の神隠し』の主題歌である『いつも何度でも/木村弓』や、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』の主題歌である『雨のち晴レルヤ/ゆず』など、どこか回想的で儚げな感覚に引き込まれる曲も多い。

 そんな3拍子と前述の“明るくも切ない”コード進行が合わさることで、歌詞の世界観や情景が浮かびやすくなっている効果を感じる。

 海勢頭さんは『月桃』のメロディを直感的なインスピレーションから得たため「3拍子にしようと意識したわけではない」と話すが「沖縄音楽のリズムには変拍子的に3拍子が混ざり込んでいるんですよ。波のリズムは3連符(1拍を3等分したもの)なんだよね。そういった感覚が体に根付いていたんでしょうね。浮かんだ時には3拍子でした」と笑う。

「臆病だから戦争をする」

 『月桃』の6番の最後には「変わらぬ命 変わらぬ心」という一節がある。

 「命の大切さは変わらないし『生き抜く』というウチナーンチュ(沖縄人)の魂も変わらない」と話す海勢頭さんは、沖縄戦当時は2歳で、当時の記憶は残っていないが、物心ついた時には周囲の女性たちがみんな泣いている印象が脳裏に刻まれているという。「(戦後になっても)毎日のように誰かの戦死の報せが来ていて、毎日誰かが泣いていた。子どもながらに『みんなが泣いている変な場所に生まれてしまったなぁ』と思っていましたよ」

 人々の願いもむなしく、今も世界各地で戦争は終わらない。「世界中から平和な生き方を学ぶ先として巡礼に来るような沖縄にするべきですよ」と話す海勢頭さん。「臆病だから戦争をする。戦争しない勇気を持ってほしい」。清らかに力強く咲く月桃の花に自らを重ね、強い心をもって平和を作り上げていきたい。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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