「ピンチはチャンス」観光業から食品ロス削減の石垣牛高級ドッグフードに

 

 2017年の農林水産省の調査によると、日本国民一人当たりの食品ロス量は、1日あたり約132g。茶碗1杯の白米に相当する食品を無駄にしている計算になる。

 そんな中、通常は食肉として出回らない牛の肺の部位を活用することで食品ロスの削減に寄与するドッグフードが誕生した。石垣牛を使用したドッグフード「石垣牛ラングジャーキー」で、開発、販売を手掛けるのは株式会社ヌオーヴォ(那覇市、岸本英一郎代表)。全国的にも有名なブランド牛を使用したことで、“愛犬へのご褒美”として与えたくなる高級志向のニーズにも応えている。開発までの道のりや今後の展望などを、岸本代表に聞いた。

犬へのご褒美と食品ロス削減で一石二鳥

 畜産業や食品業は、生肉を扱うためどうしてもロスが出やすい。原料に「廃棄されるべき肉」を使うことで、その「もったいない」を同時に解決する。

 岸本代表は「『廃棄物』という言葉を使っていますが、人間が食べる時に切れ端などを廃棄しているだけです。食品を捨てることについて、一度立ち止まって考えてもらえれば。何でも商品にできる時代になったということを伝えられたらと思っています」と意義を語る。

 7月1日の発売以降、県内各道の駅やペットショップに加え、ドンキホーテやホームセンタータバタなど大手小売店でも取り扱いが始まっている。

 犬が喜ぶ味を、という点にもこだわる。

 原料は和牛格付けA4、A5の肉のみを厳選して使用し、低温乾燥による熟成でうまみを凝縮している。「犬にとってのステーキみたいな位置づけです」と岸本代表。

 「まず、匂いで惹かれます。もしも犬が普通のご飯(エサ)を食べなくなったとしても、このジャーキーを上から少し振りかけておくだけで、食いつきは抜群です」と、商品には自信を持っている。

 無添加のため、人間の食品基準もクリアしているほど、安全安心を念頭に置いた。

発売まで約2カ月の超スピード

 岸本代表を石垣牛ドッグフード販売の実現に向かわせたのは、愛犬・ベリーちゃんの功績もあった。もともとは2人の娘への誕生日プレゼントとして迎え入れた。ある日、家族に頼まれてドッグフードを買いに行くと、あることに気付いた。「和牛が無い」。原材料に牛、鶏、魚、はたまた牛や羊はあるのに、和牛をうたった商品はそこに無かったのだ。石垣牛を使ったドッグフードがあれば人気が出るのではないか。

 畜産関連の業者とつながりもでき、商品化の現実味も増していた時期だった。

 ちょうど滋賀県の近江牛の販売などを手掛ける「総合近江牛商社グループ」の西野立寛CEOと2月に出会い意気投合、同沖縄支社として石垣牛を使ったソーセージなどの加工品を県内でも展開しようとしていた。

 加えて、総合近江牛商社グループはすでに近江牛を使ったドッグフードの製造販売を行っていた。西野CEOからは「原材料を近江牛から石垣牛に変えるだけで商品化できる」と“県産ブランド高級ドックフード”の完成に向けて協力を得られた。生産ラインは大阪の工場が担うことになった。

 「見本となる(近江牛の)商品がすでにあったのは大きかったです」と岸本代表。構想から発売まで約2カ月のスピード開発だった。

 生産継続のための原料調達は、石垣牛専門店を運営する焼肉金城ゆいまーる牧場(石垣市)と提携。安定的な商品供給によって、大手小売店での取り扱いも勝ち取ることができた。

 今後はラング(肺)だけではなく、ホルバー(陰茎)など食用にならない、もしくは廃棄肉となる肉を活用して、6種類の商品展開も視野に入れている。

 「本当に、出会いに感謝です」と、岸本代表は声を大にしてお礼を述べる。

もともとは観光業「ピンチはチャンス」

 株式会社ヌオーヴォはもともと、ホテル業のコンサルタントやレンタカー事業、ホテルや商業施設の清掃管理などを手掛けてきた、観光業ど真ん中の企業だ。岸本代表自身も、県内大手の旅行会社から独立して起業に至った。

 宮古島を拠点に置き、国産高級車をラインナップさせたレンタカー事業は好調、ホテルの建設ラッシュでコンサルの仕事も順調そのものだった。

 「営業に行けば、常に仕事があった状況でした」

 しかしことし春ごろからの新型コロナウイルスの感染拡大で観光客は激減、観光業は軒並み収益が下がっていき、生き残りを模索しなければならなくなった。ヌオーヴォも例外ではなかった。

 しかし「ピンチはチャンスですよ」と岸本代表は胸を張る。

 石垣牛ラングジャーキーで事業を多角化し、コロナ禍を乗り切ることができている。

 「持ち前の根性で頑張りました。今回に関しては自分でもよくやったなって」

 社員と2人で二人三脚、真夏の炎天下に地道な営業努力が実を結び、販路拡大につながっている。

 振り返ると、岸本代表は逆境の中でも運に恵まれ、時には泥臭くチャンスをもぎ取ってきた。

 起死回生を図ろうと、ジェットスキー関連事業の商談に向かった滋賀県で、知り合いの社長に組んでもらった経営者同士の懇親会。たまたま隣に座り、意気投合したのが、前述の総合近江牛商社グループ・西野CEOだった。

 旅行会社を辞め、現場を知りたいとホテルに就職。当時35歳で安月給の新人は、月に数万円を足すためにガソリンスタンドでアルバイト、10代の同僚にあれこれ教えてもらった。ホテル時代の経験はそのままコンサル業にも活きた。

「ペットにお土産」新しい観光商品の形

 石垣牛のドッグフードの販売に携わっている今も、視線の先には「観光」の2文字を意識している。観光地で売れるお土産を、という視点だ。「一緒に旅行に行けなかったペットに、お土産を渡したいという気持ちに応えたい」。コロナが収束し、売り行きのさらなる増加に期待がかかる。

 自身ももともとは「ペットに高いエサなんて」と思っていた一人だった。しかしいざ一緒に愛犬と時間を過ごしてみると「気持ちが分かるようになるんですよね、実際に飼ってみると」

 愛犬を思い浮かべてこう語る。

 「イタリアングレーハウンドって幸福を呼ぶ犬で有名なんですって」

 ベリーちゃん1才は、岸本さんのもとへ見事に幸福を呼び込んだ。

番外編:実際に食べてみた。

 人間が食べても安全品質の「石垣牛ラングジャーキー」。実際どんな味かと食べてみた。

 素材のうまみが凝縮され、コーヒーのような上品な苦みと香ばしさもほのかに感じられる。

 あなたの愛犬にご褒美ご飯、いかがだろうか。

 株式会社ヌオーヴォ
 https://nuovo.co.jp/


長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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