吉本興業・大﨑会長、沖縄と向き合った44年間「笑いのヒントは沖縄に」

 

 「島ぜんぶでおーきな祭 第14回沖縄国際映画祭」(主催・同実行委員会、運営・株式会社よしもとラフ&ピース)が4月16、17日の日程を終え、閉幕した。

 沖縄からエンターテインメントを発信していくことの意義はどこにあるのか。同映画祭の立役者でもある吉本興業ホールディングスの大﨑洋会長は合同取材に対し「芸能の役割がすごく大きな沖縄で、笑いやエンタメの可能性を探るためのヒントが得られる」と話す。日本復帰間もない沖縄を訪れた時に感じていた“心の引っかかり”から「いつか沖縄のために」と考え続けてきたという。

沖縄は「芸能の役割、概念が違う」

3年ぶりのレッドカーペットが再開されました。

「地元の方からのお声掛けもあって、レッドカーペットが実現できました。対策を万全にしてやらなければならないので、まだ大勢の人を集めて賑やかに、というようにはできないですけれども、映画祭を継続していくことが大事だと思っています。東日本大震災の年にも、自粛ムードの中で沖縄国際映画祭を開催するのかしないのかという判断を迫られましたが、今まで準備を頑張って下さった地元の方やスタッフの方、楽しみにしてくれていたおじいおばあや子どもたちのことを考えて『やろう』と決めたことがありました。それをきっかけにして全国のイベントやライブなどが再開された経緯がありましたので、当時はすごく悩みましたが開催に踏み切ってよかったと思います」

―沖縄の日本復帰50年という年でもあります。例年に比べて沖縄色の強い映画やイベントが多くありました。今回からまた新しい形での映画祭のスタートと位置付けているのでしょうか。

「今回から沖縄支社(株式会社よしもとラフ&ピース)の社員たちが主導して運営しています。沖縄の人たちの気持ちを汲み、沖縄の空気を吸った沖縄支社が手がけるので、沖縄色が強くなりました。沖縄支社のメンバー全員で作り上げたもので、社員も鍛えられたのではないでしょうか。(沖縄でのイベントで)本来は沖縄支社が中心になってすべきことでもあったので、やっと今回から一つの形ができました」

-映画祭などエンターテインメントを発信する場として、沖縄の魅力や可能性をどのようにお考えでしょうか。

「歴史的に見ても沖縄には平和を希求する心を強く持つ方が多い中で、芸能の役割はすごく大きなものがあって、他の大都市などと比べると芸能の概念自体が違うような気がしています。そういった沖縄という場所で笑いやエンタメの可能性を探るという意味では、地元の人たちと感覚を共有していく中で何かヒントのようなものが得られると思っています。体で目で耳で感じることがあるはずです」

「沖縄では(他府県と比べて)安定した大きな産業ができにくいという現状があります。エンタメ産業を沖縄県で成立させれば、世界のどこにもないエンタメの島になります。そうなれば必然的に観光産業を含め多分野にも良い影響として結びついてくるでしょう。沖縄がそのようになればいいなと思います」

「何かが引っかかった」初訪問の沖縄

-大﨑会長自身は、50年前の沖縄の本土復帰をどのように捉えていましたか。

「復帰当時の沖縄は青い海、青い空、リゾート、みたいなイメージでしか知らなくて。(1978年に)吉本に入社した1年目でしたか、初めて沖縄に行ったんですよ。大阪から船に乗って、夕方乗って朝着くんですよね。その時も最初は『南の島だ、楽しそうだな』ぐらいの印象でした。ただ、心に何か引っかかるものがあったというか。急に(米軍機の)爆音が聞こえたり、沖縄の人が恥ずかしそうにしていてこちらとの接点がなかなか見つけられなかったこととか。そこから通い出しました。沖縄に行きたいがためにテレビ番組の企画書に沖縄での撮影も盛り込んで、それを口実に。いつか沖縄のためになるようなことをと考えながら、その時から感じていたことを少しずつ進めていきました。その一つが那覇の沖縄ラフ&ピース専門学校です」

47都道府県や海外の「住みます芸人」など、ローカルやグローバルも織り交ぜた発信をしています。今後のエンタメの発信や情報の流れとしてはどのようなものを見据えていますか。

「物事がデジタル化される中で、中央集権ではなくて分散型が進むのならば、文字通りそうなれば良いなと思います。『上京物語』なんて言葉が一昔前の言葉にもなってきていますし、どこでも住めば都でしょうし。その中で地方と地方がつながり合って、地方で作ったCMや映画を交換し合えばいいんですよ。例えば、日本の田舎で作った映画をベトナムで上映できれば、映像を介していろんな文化が交換できますよね。そういうことがもっと激しく動いていけばと思います」

―大﨑会長の思う『地方の面白さ』とは何でしょうか。

小さなことに楽しみや喜びを見つけられる幸せってあるじゃないですか。そこかなぁ。(前役職の)社長になってからは晩ご飯1人5万円とか7万円とかするようなごちそうを食べる機会もあるじゃないですか。たしかに美味しいです。でも、コンビニで買った焼きそばパンも美味しいですし、冷凍の餃子でもインスタントラーメンでも美味しいし。これは何だろうなぁと。まだ答えは出ないですけど『何食っても美味い方が幸せ』だと思うんです。銭湯で水浴びして風に吹かれて気持ちいいなぁって。そういうことを地方に行くとたくさん学ばせてもらって、感じることができます」

-沖縄国際映画祭に対する地元からの反響はいかがでしょうか。

「いつも言われるのは『大﨑さん、なんでいつも沖縄に一生懸命してくれるの?』『こんなに赤字なって大丈夫?』ですね。今の社長に変わってからは赤字1億円ぐらいになりましたが、僕が社長をしていた時は、6億円とか8億円とか赤字でしたよ。それでも『吉本は沖縄で儲けようとしている』とも言われましたけどね。ビルを買ったりホテルを経営していたりした方が儲かるんですよ。だけど芸人や社員と共通体験がしたくて。そっちの方が値打ちのあることです。でも一つぐらいビル買っとけば良かったですね(笑)」

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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