ちむどんどんしない?復帰50年〝ミラクルシティ〟の市長選に垣間見える沖縄の苦悩

 

 那覇市に次いで沖縄県内第2の規模を誇る都市・沖縄市で4月17日、任期満了にともなう市長選が告示された。投開票は24日。主要米軍基地の門前町として復帰前に隆盛を誇った「コザ市」を前身とする同市の経済振興や貧困対策などを争点に、継続か刷新かが問われるが、9月の知事選の前哨戦にも位置づけられ、その重要性は低くはない。しかし、有権者の視線は熱狂的とはいいがたい。現地を取材してみると、現在の沖縄を象徴するさまざまな課題やウチナーンチュ(沖縄人)の苦悩が浮き彫りになった。

ちむどんどんしませんか?」に「しないよ…」

 玉城デニー知事らが推す前市議の新人・森山政和氏(73)(無=立民、共産、社民推薦)と、政権与党の支援を受けて3選を目指す現職・桑江朝千夫氏(66)(無=自民、公明推薦)が立候補し、一騎打ちとなった沖縄市長選。

 政権与党側が1月以降の3市長選(名護、南城、石垣)に続いて4連勝を達成するか、あるいは米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する玉城知事ら「オール沖縄」勢力が巻き返すかが注目される。選挙人名簿登録者数は16日時点で11万2739人。

 両陣営は17日朝、市選挙管理委員会への立候補の届け出の後、市内の主要交差点を舞台にそれぞれ出陣式に臨んだ。

 このうち玉城知事も応援に駆け付けたコザ十字路の森山陣営出発式では、「1人当たりの市民所得は(県内)41市町村中39位。直ちに改めなくては」と訴えた森山氏に前後して、支持者らがマイクを持って応援。復帰前後の沖縄が舞台であるNHK連続ドラマのウチナーグチ(沖縄言葉)のタイトルになぞらえて、「大切なこの選挙。みなさん、ちむどんどん(ワクワク)しませんか?」と繰り返し呼びかけたが、通行中の一般有権者の視線はどこか冷やかで、なかには小さな声で「しないよ…」と吐き捨てる若者の声も聴かれた。

 盛り上がりに欠けたのは3選を目指す桑江陣営でも同様で、胡屋十字路で開かれた出発式には西銘恒三郎沖縄北方担当相や小渕優子・自民党組織運動本部長が並び、国との連携をアピール。告示前には菅前首相も来援した。ウクライナ国旗カラーのマスク姿で「公約の上に経済を成長させ、貧困対策にしっかり取り組む」と熱弁した桑江氏の第一声に対し、60代の男性は「沖縄アリーナ完成や失業率改善などの実績は見えるが、かつてのコザのにぎわいを思えば小粒」と、スケールダウンした地元への憂いを隠さなかった。

基地と密接な「ミラクルシティ」の過去

 那覇市周辺では、4月16、17の両日、「第14回沖縄国際映画祭」が開催され、17日には国際通りでは、コロナ禍を挟んで3年ぶりにレッドカーペットセレモニーが行われるなど、延べ約1万8000人が映画祭を楽しんだ。

3年ぶりに「レッドカーペット」が開催された「島ぜんぶでおーきな祭 第14回沖縄国際映画祭」=17日、那覇市・国際通り(吉村剛史撮影)

 沖縄市で両陣営が舌戦の火ぶたを切るなか、奇しくも那覇市内では沖縄市を舞台とする映画「ミラクルシティコザ」 (英語字幕版)の特別上映が行われ、出演者らが舞台挨拶に臨んでいた。主演の桐谷健太さんはビデオレターで参加し、同作品について、自身の人生への向き合い方に大きな影響を与えた、と打ち明けたうえで、「何度でもこの作品を見ていただけたらうれしい。観客の皆さんのエネルギーを感じに、ぜひ近いうちに沖縄に行きたい」などと語った。

 同作品は復帰前の1970年代のコザと、現在の沖縄市の姿が交差するタイムスリップコメディ。ベトナム戦争当時、戦地に向かう米兵らが落とすカネで隆盛を極めた熱気ある街の姿と、一転して寂れゆく現在の沖縄市の姿を、かつて米兵らを熱狂させた伝説のロックンローラーだった祖父と、成功を夢見る孫との「魂」の交流を軸に対比。沖縄出身の平一紘監督の独自の脚本が生き生きと過去と現在を浮き彫りにすることで、未来を問いかけた。

 沖縄の知人らの評判がよかったため、実際に鑑賞してみたが、単なる回顧コメディに終わらず、劇中ごく自然に基地の経済的恩恵や「コザ暴動」勃発にもつながった負担の両面に触れており、様々な素材を混ぜ合わせて炒めた沖縄料理にちなむ「ちゃんぷるー文化」が、基地を通じて米国文化と向き合ってきた沖縄市に特に強く根付くとされる意味も理解できる。

 さらには、他者を肩書や出身地などによる固定観念でとらえず、意見の違いをも包含して共存を図ってゆく「コザ精神」についても考えさせられるストーリーだ。

 劇中に登場するバンドのライブ音源は、実際に1970年代に活躍した沖縄出身の伝説的ハードロックバンド「紫」が担当しており、やはり沖縄出身のバンド「ORANGE RANGE」が主題歌を担当するなど、かつての「ミラクルシティコザ」の行く末を決める今回の沖縄市長選だけでなく、復帰50年の沖縄そのものの苦悩を考えるうえでも象徴的な作品だといえそうだ。

 沖縄市の現状に照らせば、桐谷さんがいう「エネルギー」を感じるために現地を訪問するには、まだまだ準備期間が必要だということになるだろう。

改善傾向も、なお地元の課題は山積

 2015年国勢調査によると、沖縄市の完全失業率は7.2%となっている。2000年から10%を超えており、10年には14.5%にのぼったため、たしかに改善傾向にあるが、県内11市の中ではうるま市に次いで2番目に高く、依然、大きな課題だ。

 県の2018年度の統計からは、1人あたりの市民所得が200万3千円で県内41市町村中39位と下位にあるのも事実。桑江氏が市長に就任後は5年で9%上昇しており、一定の成果はみられるがこの間、県全体の平均は16.4%上昇した。

沖縄市庁舎=16日(吉村剛史撮影)

 市政刷新を訴える森山氏は、「人への投資を最大限に実施し、市民所得10%アップを実現する」として、小中学校の給食費無償化などを訴えている。

 これに対し、2期8年の実績を強調する桑江氏は、2021年に完成したコザ運動公園(沖縄市総合運動場)にある多目的アリーナ「沖縄アリーナ」の活用などで「新たな価値を創出して地域の活性化を図る」としている。事実、供用を開始した昨年4月から今年にかけ、プロバスケットボールチーム・琉球ゴールデンキングス公式戦やコンサートなど60件以上のイベントを開催しているものの、コロナ禍の影響で想定稼働率に達していないのが実情だ。

 一方、米軍嘉手納基地などの門前町として騒音被害や事件事故に直面してきた沖縄市の市長選らしい視点としては、沖縄県宜野湾市に設置されている米海兵隊普天間飛行場の機能を移すための名護市辺野古の新基地建設問題があげられるが、森山氏が県民投票の結果をもとに反対しているのに対し、桑江氏は普天間飛行場の危険性の除去が最優先だとして、一定の配慮を示している。

シラケる若者、消極的選択

 両陣営の訴えについて、「理想重視型」(森山氏)と「現実重視型」(桑江氏)と分類する地元の60代の男性は、「公平な視点で語るならば…」と前置きしたうえで、「やはりロシア軍のウクライナ侵攻のようなことがあると、沖縄の人々も台湾有事などを懸念するようになる」「中央の政権与党に全幅の信頼を置くわけではないけれど、安全保障とか、国と国との約束を重視せざるを得ない時代背景も考慮せざるを得ない」と苦悩を吐露。

 だが、告示翌日の18日には、米海兵隊上等兵が昨年10月、面識のない女性に性的暴行を加えようとして負傷させたとして那覇地検が強制性交等致傷罪で昨年12月23付で起訴していたことが明らかになった。

 「たしかに基地の無い沖縄、という理想は魅力的だ。が、かつてのコザの繁栄を知っている世代としては複雑な感情もある。さらにいえば復帰前を知らない若い世代はもっとストレートかつドライで、コロナ禍で観光産業が打撃を受け、経済状況が悪化する中、理想よりも現実、地道でも経済成長を、という思いが強くなっているようだ」と分析している。

 両陣営の第一声の後でスクリーンに浮かびあがった復帰前のコザの幻影があまりに印象的だったので、かつて米兵向け歓楽街のひとつだった沖縄市内にある「吉原社交街」を訪ねてみた。

 復帰後も日本人向けとなって宜野湾市の真栄原社交街と並び称された一大歓楽街だが、はたして2010年頃から始まった警察や市民団体による浄化運動で、かつての賑わいは幻のように消え去っており、空き家や更地が目についた。

かつて県内有数の歓楽街だった「吉原社交街」の一角=19日夜(吉村剛史撮影)

 だが、それでも面影を残す飲食店は今も残っており、寂れた雰囲気の中にも真新しい看板を見ることはできる。復帰前と復帰後、理想と現実、反基地と基地容認、反中央と妥協・協調、建前と本音が入り混じった沖縄の今日の苦悩を象徴しているかのようだった。

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吉村 剛史

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新聞記者・編集者。1965年、兵庫県出身。元産経新聞台北支局長、広島総局長、編集委員。2019年末に退職しフリーに。台北特派員時代には日台漁業協議の最前線を取材。後に学術論文『新聞報道から読み解く馬英九政権の対日、両岸政策-日台民間漁協取り決めを中心に』(2016)などにまとめた。近著に『アジア血風録』(MdN新書)。雑誌やウェブに執筆多数。YouTube番組『吉村剛史のアジア新聞録』『話し台湾・行き台湾』(HYPER J CHANNEL)でMC。東海大学海洋学部非常勤講師。

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