沖縄在住ウクライナ女性「なぜ21世紀に戦争という原始的な手段を」

 

 今回は、ロシア市民が戦争に反対するデモを起こしたり、スポーツ選手が反戦を訴えたりする姿なども、メディアやSNSを通して世界中に届けられた。

 「ロシア国民もウクライナ国民も、一般の人々のレベルでは対立はないと考えています。ロシアの人もウクライナに家族や友人、恋人がいます」

 カタリンさんにも、ロシア人の友人からこんな電話がかかってきたという。「ウクライナが大変なことになっている。どうしてこんなことになってしまったんだろう。信じられない」。いち市民として戦争を悲しみ、戦争に反対するという意識は当たり前のように共有している。

「一般市民レベル」の溝を懸念

ウクライナの現状などを話す本間佳多倫さん=3月9日、糸満市喜屋武

 そんな中でも、カタリンさんが懸念するのは、ウクライナ人とロシア人の対立感情に火がついてしまうことだ。「今はこの戦争に対して、ウクライナ人もロシア人も団結して解決し合おうという状況にあるかもしれません。政治家や一部の金持ちに批判の矛先が向いています。でも、これが長く続いた時のことを考えてみてください。『ロシア人がウクライナ人を殺した』『ウクライナ人がロシア人を殺した』という事実は、まさに事実なんです。怒りや悲しみが積み重なると、絶対に誰かを責めたくなると思います」と、良好なはずだった「一般市民レベルの感情」にも深い溝が刻まれるのではないかと強い懸念を感じている。

多文化が根付く街に生まれたからこそ

 カタリンさんの故郷は、ウクライナ南部、黒海に面したオデッサという街だ。古くから交易が盛んで、現在は自由貿易の拠点ともなっている。それ故、特にたくさんの民族が交じり合って暮らしている。それだけではなく、明るく楽しい人々が住んでいる街としても有名だという。日照時間の長い陽気な風土がそうさせたのではないかと言われている。

カタリンさんの故郷・オデッサ(印の位置)と周辺都市の位置関係

 「人々の普段の会話、例えば市場の人の掛け合いなどがそれだけでコメディみたいな感じなんです。ウクライナのコメディアンたちが、お笑いのセンスを磨くために一度オデッサに住む、ということもよくあります」

 このような多民族文化社会を体現したような街で育ったカタリンさんは、さまざまな違いを受け入れていく大切さを説く。

 カタリンさんの故郷は今、メディアでは「南部の要塞」として紹介され、市民がバリケードを築く場面が報道されている。

 カタリンさんが現在住む糸満市とオデッサには共通点がある。沖縄戦で人々がガマ(自然壕)に避難し命をつないだように、オデッサの世界最大の地下トンネル群もまた第二次世界大戦中の人々を救ってきた。カタリンさんは「ウクライナの人は、沖縄の人と似ています。平和を愛するという『命どぅ宝』の精神があります」と、ユーラシア大陸の反対側からウクライナの平和を願い続けている。

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長濱 良起

投稿者記事一覧

フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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