台湾有事で沖縄は 安全保障研究の第一人者がシンポジウム

 
東京大学東洋文化研究所の佐橋亮准教授

 佐橋准教授は「冷戦終結後の人々は、世界はどんどん良くなるものだと思っていた。国際協調は機能していき、国家間の戦争からはどんどん遠ざかっていると思っていた。中国やロシアも協調していくだろうという国際社会の“設計図” があった」と振り返りながら「しかしこんなにも分かりやすくロシアによってその未来が壊れたというのは誰も想定していなかった」と、今がまさに世界の転換点にいることを強調した。

 米国と中国が「互いの成長を喜ばず、不信感を持っている」と前置きした上で、米国が中国に対して不信感を明確に高めた時期を2015年とした。習近平政権が国内で強権化を進め、周辺国に圧力をかけたという時期と重なっており「1979年に米中関係が正常化して以来、40年続いた関係がついに破壊された」と、両国を取り巻く構造そのものが変わったことを述べた。

 その上で、昨今のウクライナ、ロシア、NATOなどを取り巻く状況から得た教訓として同盟や集団防衛の重要さを挙げた。加えて、大国間の戦争を避けるという意味でウクライナへの集団防衛が働かなかったことから「やはり自主防衛も同じく重要だ」と言及した。

ロシアへの批判高まりで「中国の武力行使はさらに難しく」

 福田教授は、中国の習近平国家主席が台湾に取っている立場や姿勢を、胡錦濤前国家主席と比べると「強硬な言説」に特徴があると説明。軍事力を示唆する際、以前は「非平和的手段」と表現していたものを、習氏は「武力行使」と明言していることを説明した。

法政大学法学部の福田円教授

 また、台湾では一貫して不支持されている「一国二制度」の導入についての言及や「台湾独立勢力」への批判を強めていることも示した。

 その一方で、ロシア―ウクライナと中国-台湾を比較した際に「習近平国家主席が台湾に対して同じような作戦を展開するのかというと、決してそうではない」と解説する。「中国は、ロシアのウクライナ侵攻に対しては完全な支援ができないままだ」と両国に距離感があるとし、さらに武力行使への批判が台湾だけではなく、インターネット統制を超えて中国国内にもあることから「習近平政権にとっては台湾に対する武力行使はさらに選択しにくくなる可能性が大きい」と分析した。しかし「台湾統一を諦めることはしないので、政治的な工作や宣伝活動は活発化していくだろう」と、中国が今後、サイバー攻撃や情報操作を含んだ“ハイブリッド戦争”を可能としていくことを見通した。

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長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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