沖縄で進む軍事拠点化 「台湾有事」を回避するために

 

4.台湾問題は一歩間違えれば戦争に発展する

 しかし何が違うかというと、当時と違って台湾海峡での戦争を想定した際の米中の軍事力が拮抗し、緊張が高まれば一色触発の事態にエスカレートしかねないということです。また2015年の安保法制の成立によってアメリカが攻撃を受ければ日本は自国が武力攻撃を受けない場合でも集団的自衛権を行使せざるを得なくなります。日本は2010年代の半ばから南西諸島にミサイル基地の建設を進めていますが、中国は2020年現在で1,350発のミサイルを保有しています(米国防総省)。戦争が始まれば中国は間違いなく最前線の沖縄の米軍基地と南西諸島の自衛隊基地を破壊するでしょう。沖縄が戦場になる危険性は1995年-1996年の台湾海峡危機とは比べものにならないほども高まっているのです。

 もう一つ注目するべきは蔡英文総統のスタンスです。蔡英文総統は李登輝や李登輝の後に総統になった陳水扁と同様独立色が強いと言われています。そのため中国は台湾が独立宣言をすることをけん制するため軍事的圧力を高めていることは確かです。蔡総統は中国の南シナ海や東シナ海での軍事行動に対して度々非難していますが、独立宣言には一貫して慎重な態度貫いています。私は2018年台北で開催された東アジア民主主義フォーラムでプレゼンテーションを行い、他の登壇者とともに総統府に招かれて蔡総統と話をする機会もがありました。その時私が確信したのは、台湾政府は軍事的な警戒は怠らないものの、民主主義国家として世界の信頼を集め、また民主主義を世界に広めるキープレイヤーになるというソフトパワーを安全保障の重要な柱にしようとしているということでした。

 昨年の9月号の文芸春秋のインタビューで蔡総統は次のような発言をしています。「台湾の一貫した立場は、『圧力に屈服せず、支持を得ながらも暴走しない』というものです。」『暴走しない』というのは独立宣言を行わないということです。独立宣言をすれば中国は軍事行動に出ざるを得ないし、戦争になれば日米が台湾防衛に協力したとしても取返しのつかないことになることを知っているのです。このスタンスは台湾の国民のスタンスに共通します。台湾政府の大陸委員会が2020年11月に行った世論調査では対中国政策について「現状維持」に賛成する台湾人は86.7%で、「すみやかに独立」を求める人は5.0%でした。(田岡俊次、DIAMOND online)2018年の調査では「現状維持」が83.4%で2020年よりも少ない。緊張がより高まった20年の方が増えています。(Taiwan Today:2018年11月2日)

 台湾有事の危機感を煽り、南西諸島での軍事力の強化と合同演習を繰り返す日本とアメリカは、中国の強硬路線の火花に油を注ぐだけでなく、台湾の「暴発」をも誘発しかねない危険な行動なのです。戦争になればアメリカや中国も大きな打撃をうけるでしょうが、最も甚大な被害を被るのは台湾自身と日本です。中でも沖縄と奄美は壊滅的な被害をうける恐れがあります。

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