泡盛「カリー春雨」に溶け込む矜持 香り高い味わいを生み出す酒造り

 

 仕込みごとに麹室を殺菌して麹菌を“総入れ替え”し、いわゆる「蔵付き」の微生物を排除するのも春雨の酒造りの特徴だ。宮里さんは「蔵付きの菌の違いではなく、酒質そのものが味わいに多彩なバリエーションを生むと考えています」と強調する。これは春雨に甕仕熟成の製品がないことにも通ずる考え方だ。

「自分が作っている酒に関しては、保存する容器からの“外的な干渉”は要らないと思ってます。酒そのもので“変われる”し、そのポテンシャルが十分にあります。だから、うちでは味に影響がほとんどないステンレスのタンクに新酒を入れるんです」

 泡盛の最大の特徴の1つに製造工程に黒麹を使用することが挙げられる。製造方法の技術的な面でタイや中国からの影響は歴史的な事実としてあるが、一方でその2つの国に黒麹を使った酒は存在していないという説もある。
 宮里さんはこの点にこそ泡盛の「誇り」を見出し、それに伴って造り手としての「責任」も背負うべきだと強調する。

「私は厳密な意味での泡盛のルーツは無くて、沖縄の先人たちが生み出した叡智の結晶こそが泡盛だと思っています。だからこそ世界的にみても非常に独自性の高い酒であり、誇りを持てる酒だと考えているんです」

偉大な先人たちが目指したもの

 もともと売上が低迷していた泡盛だったが、コロナ禍になったことで業界はより厳しい状況に晒されている。「酒全体の売上が下がっている中でも、泡盛は顕著だと言えます。他の酒に比べて大きな危機感を持ってます」と宮里さん。以前のように泡盛が一律に流行るという状況は今後は起きにくいとみている。

 そんな中、宮里酒造ではコロナ以前から春雨を食との組み合わせで売り出すことにも取り組んでいる。和洋中それぞれのジャンルの料理人とコラボレーションし、コースの1皿1皿それぞれに合わせた春雨を添えて味わう食事会「春雨の会」を開催していた。時には、料理に合わせた味わいを模索するために「麹の隣で眠りながら1時間ごとに状態を確認してました(笑)」という。

 蒸留酒を食事に合わせる食べ方はあまり一般的ではなく、なかなかイメージしづらいかもしれないが、宮里さんは「寿司にも十割そばにも、オリーブオイルを使った料理にももちろん合います」と断言する。実際春雨には、和食に合わせた「和の春雨」と洋食に合わせた「洋の春雨」も商品にラインナップされている。「食事を賑やかに楽しく、美味しくするのもお酒の役割の重要な1つです」

 厳しい現状の中でも「変わっていけばやれます」と先を眼差す宮里さん。「泡盛は戦後の苦しい時にも成長してきました。当然、世代や時代を経て味わいは変わってくでしょうが、その時々のニーズに合わせた新しいアイデアや工夫をしていけばいい。伝統を受け継ぎながらも変わっていけるんです」。

 こう語る宮里さんの言葉には、酒造りへの矜持と先人たちへのやまぬ敬意に溢れている。これからの展望を問うと「かつて泡盛を生み出した、沖縄の偉大な先人たちが目指した酒にたどり着きたいですね」と淀みなく答えた。古くも香りたかく、強くもまろやかに、からくも甘い酒を探求する旅はまだまだ終わりそうにない。

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真栄城 潤一

投稿者記事一覧

1985年生まれ、那覇市出身。
元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。

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