「平常時の準備と回復見据えた動きを」 観光危機管理に取り組む翁長由佳さん
- 2021/12/30
- 経済
「観光危機管理に『4R』という考え方あって、平常時の減災対策(Reduction)、危機対応への準備(Readiness)、危機への対応(Response)、危機からの回復(Recovery)の4段階のサイクルのことを指します。
この4Rに基づくと、危機が発生した際には、その対応をしつつも復興や回復を見据えた動きもしておく必要があります。国や県が打ち出す観光復興支援、例えばGoToトラベルや域内観光促進事業のような急に始まる施策にうまく乗っかるためにも、柔軟な発想で、地域や自社の特性を生かしたプランをすぐに発信できるようにすることも大切です」
弱者に焦点を合わせて、きめ細やかな対策を
—感染対策もそうですが、そのほかの災害もいつ起こってもおかしくないと思います。コロナ前はかなりの数の外国人観光客も来県しており、今後インバウンド再開も見据えるとでの多言語での対応も必須になりますね。
「年間1000万人の観光客が沖縄に来ると想定すると、日常的に約10万人が沖縄に滞在していることになるんです。そのうち約3万人が外国人観光客です。このような状況の中で何かが起こったとして、果たして言葉や文化の違う海外の人たちを守り切れるのかというのは観光危機管理的にも非常に大きな課題の1つです。
観光危機管理の対応策についての1つの考え方があります。いざ有事になった際、観光施設や宿泊施設などにおいて、従業員たちが観光客とそこに訪れている県民とを明確に区別できない場面も多々あることが想定されます。観光の現場ではその内訳を常にしているわけではなく、利用者、来場者などで大きく分けられます。
危機発生時の対応を県民向け、国内観光客向け、海外観光客向け、という3つの対象で考えた時、土地勘が無いどころか言葉も文化も違う海外観光客を軸に、避難や緊急対応などの観光危機管理体制を整え、対策を強化しておけば、それ以外の対象への対策も自ずとできてくると考えます。一番の弱者に焦点を合わせることで、よりきめ細やかな対策が整います」
—観光危機管理という考え方を広く共有するためにはどのようなことが必要でしょうか。
「災害はもちろん新型コロナも含めて、最近では軽石の問題もありましたが観光に影響のある事象がいつ起こるか分かりません。ですから、常に危機意識を持って取り組むことが必要なのですが、残念ながらこうした危機対応は、実際に自分の身に降りかからないとイメージし、取り組むことが非常に難しいのも事実です。
OCVBを退職して今の仕事を始めた時、観光事業者の皆さんの中でも観光危機管理計画について全く知らない人がいるという現実に触れ、まだまだ浸透していないんだなと実感しました。もっと言えば、観光客に接する現場の人たちの中には、OCVBのことをよく知らない人も多くいました。
自分自身が大きな組織の中にいて様々な取り組みをしている時には、業界をリードしている立場から沖縄観光、観光事業者のために発信をしているつもりでしたが、実際には現場まで十分に行き届いてなかったことを改めて知りました。とても反省したことの1つですね。県民を含めて観光現場のスタッフの皆さん一人ひとりに、観光危機管理をもっと身近な取り組みとして理解してもらい、沖縄観光の未来のために取り組んでもらえるよう、いかにわかりやすく伝えるためにはどうしたらいいのか、日々考えています。
災害が発生した時には観光客だけではなくて、その場所にいる県民の皆さんも当然ながら当事者になります。自分が暮らしている場所の最寄りの避難所を把握しているのかどうかなど、先ずは自分の足元の危機を少しでも意識することから始めるのもいいと思います。そうすると隣にいる人に逃げる場所を教えることができるし、それが観光客の場合もある。さらに言えば、地域の中での自分ができることが少しでも増える。こうした地域ごとでの危機対応力を上げることが、エリア一帯の防災意識向上と観光危機管理対応強化にもつながっていくことになります。
コロナという状況もある中で、観光関連事業者だけでなく県民のみなさんも今一度危機について考え、沖縄における観光危機管理について理解を深めるきっかけを見つけていただけるといいですね。こうした取り組みが観光の価値を高める要素になる未来は必ず訪れます。その時、いかに多くの県民の皆さんの理解と協力を得て、観光産業が観光危機管理に取り組めているかどうかが、安全・安心な観光地沖縄としての発展につながります」