「平常時の準備と回復見据えた動きを」 観光危機管理に取り組む翁長由佳さん

 
観光危機管理の取り組みについて語る翁長由佳さん

 2021年ももうすぐ終わりを迎えようとしている。振り返れば、昨年から引き続き新型コロナウイルスに翻弄されっぱなしの年だった。特に観光客が激減した沖縄県の観光業界では「大打撃」「大ダメージ」という言葉を頻繁に見かけたし、実際に閉店する店舗も増えて国際通りの様子なども目に見えて変わった。

 そんな1年を観光危機管理についての講演やマニュアル作りなどを実施している「株式会社サンダーバード」社長の翁長由佳さんに振り返ってもらった。
 2021年を振り返り、2022年の沖縄を見据える年越しインタビュー第1弾。

「観光は危機に弱い」

あまり聞き慣れない言葉ですが「観光危機管理」とはどのような考え方なのでしょうか。

「ちょっと硬い言葉ですよね(笑)。2011年の東日本大震災の後、観光が好調に伸びていた沖縄で当時の県知事から、同様の大規模災害が発生した際に観光客を含めた多くの人たちの命を守れるのかという問いかけがあったことから、観光危機管理の取り組みがスタートしたと聞いています。

 当時、私は沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)に勤めており、宜野湾市の沖縄コンベンションセンターに配属されていました。海に隣接する付近のエリアには、県民以外にもMICEや観光で訪れる国内外の人が相当数います。そんな状況で地震・津波などの災害が発生すると、土地勘もなく、避難所の場所も分からない人たちをどのように安全に逃して命を守るのか。

 それまで施設単位でやっていた火災訓練とは全く違う観点から、広域で、何万人単位の人の避難を考えるのは初めてのことで、その当時の体制ではほとんど何もできない状態だったということを確認することができました。さまざまな危機に対応できるように備え、いかに安全に観光客を含めた人々を助けて無事に帰すことができるのかを、地域や関係機関と連携し考えて取り組みの強化を図ることが観光危機管理です。

 多くの人になじみのある防災訓練もそうですが、有事を想定して備えることで知ったことや取り組んだことは、知識として身につき自信にもつながりますし、何より初動が早くなることで命が助かる確率も高くなるんです。観光危機管理ではこうしたことにより観光に特化した形で取り組み、減災から備え、対応、復興と観光産業の強靭化を図ることで、持続的な観光経済の安定化につなげていきます」

 —2021年は昨年から続くコロナ禍で、まさに“有事真っ只中”という1年でしたが、観光危機管理という観点から見て、この1年の沖縄はどうでしたか。

「観光面で言えば、段階を踏んだ大枠の指針がなかなか出ずに事業者が何を目標にどこに進んでいけばいいのか分からない状態だったな、という印象はありますね。結果論になってしまいますが、早めに方針を打ち出すべき場面がいくつかあって、制限があるにせよその中でもできる動き方があったように思います。この点では『観光は危機に弱い』というイメージがより強いものになってしまったかもしれません。

 感染症への対応は、県の観光危機管理計画の中にも、過去の新型インフルエンザ流行時に策定された計画があり、また、3年前の麻しん流行時における実践的な経験も踏まえ、基本的にはそれに準じた体制で対応ができたと思います。特に水際対策や医療面での対応などはきめ細かにできていたと言っていいでしょう。

 ただし、できることをやってない部分もあります。今現在コロナが少し落ち着いてきて飲食店やホテルが再稼働していますが、既に現場の人材や資機材の不足が問題になっています。こうした状況は当然観光客受入におけるサービス低下につながります。雇用継続のための十分な資金援助と併せ、こんな時だからこそできる観光人材育成等の支援も十分に行うことが急務です。さらに、経済や観光が動き出した時を具体的にイメージしてプランを立て、実践していくこともできたと思います。

 行政や民間で、本来は復興も含めてプラン作りをしないといけない人たちが、コロナの緊急的な対応に追われてしまっていたというのも一因なのかもしれません。

 例えば韓国では、今回の休業期間中に人材育成プログラムを行い、コロナ後もしくはウィズコロナでの経済活動を見据えた観光人材のレベルアップへの支援を行いました。沖縄でも今後の人材不足はより深刻化していく可能性が大きいので、行政や観光業界全体で若い人材の活用や異業種間連携、他県からの派遣なども含め、具体的な対策を考えないといけない課題だと思います」

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