皆が代表取締役「超企業」上下の無い“幸せな働き方ラボ”誕生

 

  那覇市に2020年6月、社員全員が代表取締役という「株式会社超企業」が誕生した。参画するのは採用コンサルタントやアパレル関係、組織構築など各分野で独立済みの7人(代表取締役)に加え、大企業に勤務しながら参加する2人の計9人だ。この一風変わった形態での起業アイデアを出したフリーランスライターで編集者の浅倉彩さんは「上下関係も、依存も支配もない組織を作りたかった。フリーランスの自己決定範囲の広さと大企業の実行力のいいとこ取りができるチームをイメージした」と語る。それぞれの得意分野を持ち合わせた結果、第一弾プロダクトとなる「問いレットペーパー」を同11月から販売。トイレットペーパーに自己と向き合える質問を印刷し、“自己啓発書”としても売り出した。Yahoo!ストアの自己啓発の本部門で売れ筋1位を記録するなど好調だ。

“大人の青春”が生んだ商品

 「問いレットペーパー」には「今、あなたが水に流したいことは?」「あなたにとって『まっすぐ生きる』とはどういうこと?」など、9つの質問が印刷されている。トイレという一人の空間で自分と向き合うための「問い」が頭を巡る。浅倉さんは問いレットペーパーについて「問うことの価値を、毎日必ず訪れ、そして一人になれる場所で実感してもらいたいです」と述べる。

 このユーモアあふれる商品は、上下関係も依存も支配もない信頼関係の中で、メンバー同士が「良いねそれ」と笑い合った軽やかな会話から生まれた背景がある。浅倉さんは「私にとっては、自立した大人になったからこそできる終わらない青春です」と楽しそうに話す。気さくに意見を出し合うことで「それぞれの得意分野や領域の間にふわっと存在するアイデアや好機をすくい取って、成長や収益につなげる」ための“実験の場”となっている。

 すでに第二弾のプロダクトも企画は進行中だ。それは「大人向けの学びコンテンツ」。自社にいてもらいながらその人の自己実現を後押しするようなプログラムを提供する、というもので、教育プログラムに関わってきたメンバーがいたからこそ生まれた事業だ。

 超企業の存在目的は、何か特定の事業内容ではない。“ありたい世界を問い続けるために(既存の枠組みを)beyondする(乗り越える)”ことに重きを置いている。「問いレットペーパー」 は、存在目的や在り方を「問う」という意味で超企業をぴたりと体現した商品となった。「名刺がわりの商品として、最高のアイデアだと思っています」(浅倉さん)

「フリーランスを続けるうちに寂しくなりました」

 なぜ、参画する皆が代表取締役なのか。浅倉さんは「全員が個として自立した目的と当事者意識を持ちながら、対等につながり合ってチームとして挑戦できる組織を作ってみたかった。そういうあり方を支える仕組みとして”あり”なのではないかと思った」と語る。そして、こうとも言う。「12年間もフリーランスでいたら、だんだん寂しくなって仲間が欲しくなっていきました。個人ではできないようなダイナミックな仕事にも飢えていた。かといって、もう一度”就社”するのも違う。既存の選択肢に答えはなさそうだから、自分でつくるしかない」

 そういう思いを浅倉さんが持ち始めたのは、自身が「多彩な働き方」を経験してきたからにほかならない。新卒でITスタートアップに入社後、リクルートに転職、大企業での勤務も経験した。さらには環境系NPOでの仕事を経て、現在はフリーランス。企業の大小や組織の単位や形態までさまざまだが、どれもベストではなかった。しっくり来る“協業の方法”を、数年間も模索していた。

「働き方をデザインする」

 浅倉さんのように、フリーランスで働く人は年々増加している。2019年にリクルートワークス研究所が行った調査によると、本業をフリーランスとして働く人は約324万人で、1年間で19万人、6%増加しているという。

 「企業が人を抱え込んで、その人が目指すプロフェッショナルや働く目的を企業が決めるのは、無理があるのではないかと思っています」と浅倉さん。

 また、フリーランスという働き方が増えることで、企業にとってもリスク軽減になるはずだと見据えている。「今までのように安定的に大きなビジネスが生まれ続ける訳ではない時代です。企業が新卒で社員を大量に採用して、40年間養い続けるのはかなりリスクがありますよね。大企業が何千人もリストラをする時代です」

 しかし、多くの中高年にとっては、企業に属さず個人で働くというのは、感覚として一般的ではないとも言える。「あまりにもひと世代で働き方への価値観も事業環境も変わっていっています。その中で“働き方そのもの”も自分でデザインしていかなければ、自分が幸せに生きられないな、というのが信念としてあります」

フラットな組織の在り方そのものに価値

 組織づくりが専門分野で、同じく代表取締役の徳里政亮さんは前職で、うつ病などのメンタル不調から休職や休学をした人に対する支援などを行う株式会社BowLに勤めていた。「社長が社員に99.9%の権限を持たせる組織でした。役員報酬も全て公開して、フラットな組織づくりをしていました」

 このような“フラットな組織”が成立しうるという状況を、徳里さんは目の前で見てきた。上席が意思決定や指示をするのではなく、それぞれのメンバーが組織の存在目的やルールや仕組みを理解した上で独自に工夫し、進化を続ける組織。徳里さんはこのような組織の在り方を「超企業では一発で実現できた」といきいきとした表情で語る。

 「前職でやっていた、人間関係がフラットな組織開発を、外の企業にも展開したいと考えていました」。この社会課題解決型ビジネスの一環として、徳里さんは「一般社団法人ポリネ」を新しく立ち上げた。

 一人ひとりの自立した働き方を促し、それをプラスに換える「超企業」での働き方は、その化学反応から個々の新ビジネスを生み出す素地を作り出し、各分野への波及効果も推し進めている。


長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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