県出身SUPレーサー来間さんがハワイ海峡横断 カテゴリー別で世界一 沖縄の全3選手が強さ見せつける

 
来間翔太選手
来間翔太選手(本人提供、以下同)

 県出身のSUPレーサー来間翔太選手(37)=Okinawa Gym所属=がこのほど、米国ハワイ州のモロカイ島~オアフ島間52kmを進む「2023 Molokai 2 Oahu Paddleboard World Championships」の14フィート部門に初出場し、6時間40分32秒のタイムで優勝した。同部門には世界各国から16人が出場していた。クラウドファンディングで資金の一部を募り、60人以上から支援を受けていた来間選手。「泣いてしまうぐらい応援のメッセージをもらって、かなり力になりました」と感謝し、無事に海峡を横断できたことに対しては「ほっとしています。タイムとしては納得いっていないので、悔しさも残ります」と更なる高みを目指していく。

無制限部門では県在住2選手も強さ見せる

 SUPは「スタンダップ・パドルボード」の略で、ボードの上に立ってパドルで水面を漕いで進む。全部門を合わせて167人がエントリーし、そのうち126人がゴールを達成した。県出身者としては来間選手が唯一の出場となった。全部門を通して日本からは3選手が出場しており、いずれも沖縄県内在住。無制限部門では兵後有亮選手(三重県出身)が1位、松山幸介選手(大阪府出身)が3位に輝いており、“SUP王国”とも言える県勢の強さを見せつけた。

 来間選手は、閉会式で自身の名前が呼ばれるまで、部門別で優勝したことに気付いていなかったという。“完走”に満足して帰ろうとしていた時に聞こえてきたアナウンスの声。「ガンバッテー!イチバン!ショウタ・クリマ!」。共にハワイに来ていた母への最高の親孝行となった。

表彰を受ける来間選手(右から2人目)=7月31日、米国ハワイ州
表彰を受ける来間選手(右から2人目)=7月31日、米国ハワイ州

レース中に全身がつり出しても

 52kmの長いレースに参加した来間選手にとって、30km以上の距離は実は未知数だった。途中で腕がつり始め、肩がつり背中がつりと、体中がつってきた。ゴール地点のオアフ島で跳ね返ってきた波が行く手を阻んだ。そんな中でも、船で随行するチームメンバーの経験や機転に助けられ、漕ぎ抜くことができたという。

「全身がつった時には、ニュージーランド出身のメンバーが『ミネラルの入った粉』をくれて窮地を脱することができました。船長も出場経験20回を超える百戦錬磨で、(風や波を読んだ)的確なナビゲーションをしてくれました。他の選手と全然違うルートを取っていたので、海の上でポツンと孤立して、途中まで最下位だと思っていました」と笑う。

 周囲への感謝をしきりに口にする来間選手は当初、クラウドファンディングで資金を賄うことためらっていたという。「コロナ禍でみんなが苦労していた時に、個人的なチャレンジを応援してもらうのは腰が引けました」と回顧するものの、後押しとなったのは周囲からの「応援したい人が応援できるような状況を整えてほしい」との要望だった。「自分ってこんなに友だちたくさんいたんだ」と、挑戦することでこれまで作り上げてきた絆を再確認することもできた。

支援者のロゴが入ったTシャツを着てレース前に祈願する来間選手(本人のFacebookより)
支援者のロゴが入ったTシャツを着てレース前に祈願する来間選手(本人のFacebookより)

「沖縄は『SUP聖地』のポテンシャル」

 今回、驚異的な強さを見せた沖縄県勢。来間選手は「沖縄は『SUPの聖地』になれるほどのポテンシャルがあります」と語る。

「まず、真冬でも下半身だけのウェットスーツなど身軽な装備で練習を続けることができます。地理的にも湾が多く、海峡横断を想定した練習にも最適です。また、季節によってさまざまな方角からの風が吹くので、(追い風や向かい風など)角度を付けた練習もできます」

 そんな中でも来間選手が注目しているのが、座間味島だ。中学生たちが放課後にSUPを練習しているという。

「毎年座間味で大会が開催されていて、子どもたちはそれに向かって頑張っています。スピードで言えば自分より速い子がいっぱいいます」と声を大にする。

傷心を癒してくれた地元・沖縄の海

リモート取材に応じる来間選手=8月上旬、米国ハワイ州
リモート取材に応じる来間選手=8月上旬、米国ハワイ州

 今回「ウチナーンチュを代表するつもりで行ってきた」と話す来間選手。10年近く前に傷を負った心を、沖縄の海に癒してもらったことがあった。

「バスケが好きで。プロにはなれなかったけど、ダンクシュートだけできるようになって納得しようと。それで練習を繰り返して、あと1年もあればできるという段階で、左膝の靭帯をケガしてしまいました。辛すぎて自尊心も低くなってしまって。ギブスを付けたまま東南アジアを中心にバックパッカーの旅に出た時に、海外のビーチリゾートよりも沖縄の海がきれいだということに気付きました。それで地元に誇りが持てました。『よし、沖縄に帰ったら海の見える場所で過ごそう』と」

 そうして職場として選んだ恩納村内のホテルで、マリンスポーツのメニューとしてたまたま出会ったのが、SUPだ。インストラクターとしてそのホテルを訪れていたのは、SUPの日本代表でもある萱島宏太選手だった。

「なので、SUPに触れた初日に、日本代表の人に教えてもらいました」と、その恵まれた環境も相まってどんどんその魅力にのめり込んでいった。

 沖縄の海の美しさは、沖縄で生まれ育った人からすると当たり前に感じてしまうことも多い。来間選手ももともとはそんな一人だった。

「沖縄の海は観光地としての側面もあったり、軍事基地として使われていたりもしていますが、沖縄の子どもたちがこれから『これが俺たちの故郷の海だ!』って誇りに思ってもらえたら嬉しいです」と、SUPを通して“美ら海”の魅力を伝えていく。


長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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