国際通りにゴミと戦う戦隊ヒーロー参上!武器は掃除用具「沖縄に恩返し」

 

 沖縄に、戦隊ヒーローが現れた。美ら島戦隊ツナグンジャー。ただし、手にしているのはソードやバズーカではなく、ゴミ袋やゴミ取りばさみ。「沖縄に恩返しがしたい」と赤レンジャーの呼びかけで集まった5人の戦士たちは、国際通りに転がるゴミを拾い集め、沖縄を美しくする活動を続けている。道行く人や車中から、手を振られたり写真を撮られたり。誰一人傷つけない本物のヒーローの戦いに密着した。

赤レンジャー登場!

 国際通りの県庁寄りでの待ち合わせ。

 お!?

 …あ!赤レンジャー!!

 赤レンジャー「はじめまして。お待たせしました」

 国際通りに、赤レンジャーが歩いていた。周囲の人々はみんなこっちを見ている。

 そして、嬉しい。子どもの時に憧れた戦隊ヒーローの、しかも主人公格のレッドと話しているのだ。手にはゴミ取りばさみを持っている。いわば、これが彼らの武器だ。

 しばらくすると、

 ピンクレンジャー「レッドー!」

 ピンクレンジャー、黄レンジャー、緑レンジャーがやってきた!

 赤、黄、緑、ピンクと来たら、残る一人は決まっている。青だ。いつの時代も「冷静でしっかり者」というキャラ設定が相場の青レンジャー。どのように登場してくれるのか。

 冷静に、ゴミ拾いをしながら登場した。

 さぁ、これで5人集合!正義の味方、美ら島戦隊ツナグンジャー!

 5人のゴミ取りばさみが合わさると、素敵な星のマークが出来上がる。

なぜこの格好で、ゴミ拾いを?

 赤レンジャーは、夏の暑い6月5日に一人で国際通りでのごみ拾いを始めた。その時はまだ変身していなかったが、初変身したのは6月16日という。ヒーロー歴は1カ月ほどだ。予定の無い日はほぼ毎日ゴミ拾いをしているという。

 ヒーローに変身したのは「目立つから」。「この格好で注目を集めることで、ゴミ問題や環境問題についての意識が変わってくれたらいいと思っています」

 そして、なんとこの日が5人初集結の日だった。

 赤レンジャーのインスタグラム(赤レンジャー@美ら島戦隊ツナグンジャー/uchina_ongaeshi)を見た仲間同士、引き寄せ合った。

 6月18日、最初に加入したのは青レンジャーだ。赤レンジャーのインスタを見て「面白くないわけがない」と衝撃を受け、その日のうちに国際通りのドンキホーテでコスチュームをゲット、晴れてヒーローになった。

 ピンクレンジャーは「ゴミ拾いはやったことがあった。目立つことをやってみたかったけど1人でやる勇気はなかったので」、黄レンジャーは「やったことないことをやってみよう」、緑レンジャーは「もともとビーチクリーンをやっていて、楽しんでいきたい」と、それぞれ加入していった。

 「本当は黒レンジャーが良かったけど、売っていなかったので緑になった」と語る緑レンジャー。「黒だと日中暑そう」という点も勘案した。

沖縄に恩返しするヒーローに

 赤レンジャーが赤レンジャーになったゆえん。それは「沖縄に恩返しがしたい」の1点に尽きていた。

 赤レンジャーの“中の人”は3年前に県外から沖縄に移り住んだ。ことしの3月いっぱいで脱サラし、居酒屋を始めるはずだったが、新型コロナの影響で開店が叶わず、そのまま自動的に無職となる。加えて、開店するはずの居酒屋に泊まる覚悟で準備に精を出そうとしていたので、元の家も解約していたので、住む場所も失ってしまった。そんな時、助けてくれたのが沖縄の友人知人だった。

 「家に泊めてもらったり、ご飯に招待してもらったり。こんなに優しい県民性はないですよ。助けてくれる人がめちゃくちゃいて。もし東京だとホームレスになっていました」

 コロナ禍が収束して、また沖縄に観光客が戻ってきた時には、ぜひきれいで美しい沖縄を見てほしい。もともと自然が好きで環境問題にも関心は高かった。

 そんな思いから「自分からもいろんな人に与えていきたい」と、掃除道具を手にして国際通りへ出てきた。情熱の赤に身を包んで、自宅からの登場だ。

ヒーローに密着

 ヒーロー活動のはじまりはじまり。

 この日は県庁前のスクランブル交差点から松尾交差点までの区間を往復してゴミ拾いをする。

 今日の担当はざっと、赤、青、ピンクが燃えるゴミ、緑がビン、黄が缶だ。

 国際通りを見渡してみると、こんなにもゴミが落ちていたのかということに気付かされる。

 赤レンジャー「ゴミが多くて、毎回国際通りの3分の1程度しか終わらせることができません」

 ぱっと見では分からなくても、植え込みの奥や、店舗と店舗の隙間にも、たくさんのゴミが捨てられている。拾っても拾っても、毎回ゴミは尽きないという。

 青レンジャー「人って、隠れたところに捨てる傾向があるんですよ。きっと(捨てていることに対して)罪悪感があるんでしょうね」

 青レンジャー「こんなポールの中にはよくペットボトルが入っています」

 緑レンジャーは何やら細かい部分を入念に掃除している。

 有毒なたばこの吸い殻がぎっしり。

ヒーローはやっぱり人気者

 突然のヒーロー登場に、写真をねだられるほどの人気ぶりだ。

 その場で小さな子も一緒に手伝ってくれた。

 5人のヒーローは道行く人にも挨拶を欠かさない。道の向こうから、お店の中から、手を振られては、振り返す。

 ピンクレンジャー「沖縄楽しんでねー!」

 地元の人や観光客問わず「こんにちは」「ありがとうございます」と優しい声をかけられる。

 赤レンジャーは「『ありがとう』や『頑張ってね』もよく言ってもらえるのですが『熱中症には気を付けて』と気遣ってもらっています」

 こんな言葉の交換が、ヒーローたちの原動力となっている。

 近隣のお店の人々も喜ぶ。

 お土産店の女性は「ご苦労様という気持ち。暑いはずなのにね」と、差し入れのお菓子を渡していた。

 その他にも、中高生が「頑張ってください」と駆け寄って飲み物を差し入れたり、活動に賛同する居酒屋が変身(着替え)場所としてスペースを提供してくれたり。地元密着型、本物のローカル戦隊ヒーローだ。

これからも地球を守る活動は続く

 ゴミ袋は1時間半ほどでいっぱいになった。

 赤レンジャーは「今回から5人もいるので、いろんなゴミを分別しながら集めることができます」と喜ぶ。「人数が増えて最高です。1人だったら恥ずかしい気持ちもありますが、みんなでなら思いっきりできます」

 ヒーローたちの秘密基地(自宅)にそれぞれ持ち帰って処分するという。

 新たな戦士も、常にウェルカムだ。色はもう5色そろってはいるが、そこは分身制度でうまいこと調整していく予定だ。赤レンジャーの調整能力が発揮される場面でもある。

 子どものころに「ヒーローになりたい」と将来の夢を描いた大人のみなさん。あなたもヒーローになれます。一緒に地球、救いませんか?


長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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