沖縄特有の「結婚式二次会司会者」年間150本登板のプロ道に迫る/長浜まさみさん

 

 沖縄エンタメ界の特有のジャンルがある。それが「結婚式二次会司会者」だ。沖縄県外の結婚式二次会では、新郎新婦友人が司会をするのが一般的だが、招待客300人規模が当たり前の沖縄の結婚式。当然二次会の規模も大きくなり、大人数の(しかも酔っぱらった)お客さんを確実に楽しませて帰ってもらうというプロだ。

 今回、二次会司会をピーク時で年150本こなし、複数の同業者からも「最多登板」との太鼓判を押される長浜まさみさんに、その極意を聞いた。

貪欲なダブルヘッダー

 「僕で良いんですかね?」と謙虚に登場した長浜さん。良いんです。

 二次会の司会歴は約10年。もともとは沖縄のお笑い事務所「FEC」に所属するなど芸人としても活動をしていた。現在はラジオ関係の仕事もしており、エンタメ業界で自らを発揮してきた半生だ。

 年に150本もどうやってこなすのか。

 「シンプルな話で、土日にそれぞれ昼夜の二次会をダブルヘッダーで入れるんです。すると、週に4本になりますよね。で、月に16本。全部埋まらなかったとしても、年間で150本は二次会の司会が入ります。今はコロナで何か月もストップしていますけど」

 二次会などパーティーの手配業者と提携しており、那覇市内を中心に各会場でマイクを握る。それでも駆け出しのころは月に1、2本だったという。多くの実験や試行錯誤を繰り返し、着実に評価と実績を積み上げてきた。

二次会司会の仕事とは

 二次会司会者の仕事とは、何か。長浜さんは野球の投手に例えて言う。「中継ぎや抑えです。腕があって目立つ、結婚披露宴を担当する司会者は、先発投手なんですよね」

 ぜんざいを美味しそうに食べながら、長浜さんは続ける。

 「もしも披露宴が良かっただけなら『良い披露宴だったね』となります。これを、二次会の最後の最後まで楽しませて『良い結婚式だったね』と言わせるのが、二次会司会者の役目だと思っています」

 出席者同士が互いに歓談する時間もしっかりと確保しながら、新郎新婦の登場に合わせて会場の熱気を最高潮に持って行かなければならない。そこには10年間のうちに掴んできた特殊技能があった。

 「例えば、昼と夜で2本司会が入っている時に、昼の1本目で試してウケたフレーズがあったとしたら、夜の2本目に同じことを同じ間で言うんです。もしも2本目でウケなかったら、これはキラーフレーズにはならないんだな、とか。同じゲームをするにしても、客層が違うとやり方も変えていきます。賑やかな人たち、お堅い人たち、年齢層も毎回違います」

お客さんに楽しんでもらうことを何より優先

 長浜さんは駆け出しの頃、今よりも尖ったことをやろうとしていたという。それは、宴会ゲームに現れていた。

 「最初は、何かしらオリジナリティを残したがってたというか。センセーショナルな何かをやろうとしていたんですが、反応が悪くて」

 変化があったのは、それから1年か2年が過ぎた時だった。

 「もっとシンプルなことをすればいいんじゃないかと思い始めました。ルールをわざわざ説明しなくてもいいようなことです。『自分は面白いんだぞ』という見せ方よりも『お客さんが楽しかったらそれがいい』に変わったんです」

 誰もが知っているビンゴゲームや腕ずもうなどをベースにして、そこにちょい足しでアレンジし、結婚式二次会にカスタマイズしたゲームを生み出していった。

 「僕のビンゴゲームは、一発目からリーチがかかるんですよ」と長浜さん。

 5×5のビンゴカードの、周辺部の16マスだけ残して、中央の9マスを最初から空けるという。

 できるだけ早くリーチを出してもらって、「当たるんじゃないか」のワクワクを長く感じてもらう効果がある。

 こうした二次会のゲームを実況することも、長浜さんが編み出した得意分野だ。

 ラジオの仕事もしている経験から「聞いて楽しい司会を」との心がけから始まったのが、腕ずもうの実況だ。

 「女と女 意地と意地のぶつかり合い 中央線を行ったり来たり 寄せては返す波のよう」

 テンポ良い実況は耳心地がよく、さらに場を盛り上げていく。

大切なことは天国の母から

 二次会司会者1本あたりの単価は、長浜さん曰く「良くはない」。しかし「安い金額だけど高い質を提供する」という部分に長浜さんの哲学がある。

 それは、今は天国にいる母親の背中から学んだ姿勢だった。

 理容師をしていた母は、他の理髪店が時代と共に値段を上げていく中、ずっとカット2000円、シャンプー1000円を維持し続けた。その理由を、こう語っていたという。

 「単価を上げて客数が減ったら、(仕事の)感覚が鈍って余計に客が減る」

 喋りで人々を喜ばせるという気質も、思えば母から受け継いだものだった。

 長浜さんは「お客さんが、理容椅子に2人、待合室に5人の計7人。それを一人でずっとトークで回し続けていました。毎日8時間もですよ」

 実は長浜さん、二次会の司会者から足を洗おうと思ったこともあったという。そんな時も母はこう諭した。

 「自分が好きで始めたんでしょう。お客さんが喜ぶことをするのが仕事だよ」

 病気で亡くなる2日前までハサミを握っていた母。そんな母が他界した翌日に、司会の仕事が入っていた。長浜さんは母の言葉に忠実に「お客さんが喜ぶ仕事」をしようと決め、ステージに上がっていた。お客さんは、異常に盛り上がっていた。

 「あの日から1回1回の仕事に対する姿勢が変わりました」

 場数をこなして感覚を鈍らせない。結婚式二次会最多登板の男は、1球1球全力投球だ。


長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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