首里城火災×コロナ禍のダブルパンチ 地元に全力!カフェオーナー「利益は再建に突っ込む」

 

 沖縄が誇る世界遺産・首里城。そのふもとに2019年末オープンしたカフェがある。「Blups」。もともとは外国人観光客をメインターゲットに見据え、地元首里を愛する男性・粟國英雅さんをオーナーに開店準備を進めていた。その矢先の首里城火災、そしてコロナ禍のダブルパンチ。人は全然目の前の道を通らなくなった。それでも粟國さんは撤退せず、カフェをオープンさせた。大好きな首里のため。「利益上げまくって全部首里城再建に突っ込んでやる!」

毎日が縁日のような首里を作りたい

Blupsオーナー・粟國英雅さん

 首里城正殿もまだあった時だった。いつもの見慣れた景色だ。

 粟國さんは生粋の首里っ子だ。普段から思っていた。「ここ、めっちゃ人歩いてるなぁ」

 沖縄観光を楽しんで、首里城を見に遠くから来てくれている人たち。そんな人たちが歩き疲れた時に一息ついてほっとできる場所を作ろうと思った。

 「出すのはジャパニーズティーでしょ。海外の人は、沖縄と言えども日本的なものも求めているだろうし」「多言語対応も必須だなぁ」

 あれこれ、考えていた。

 当時を振り返りながら、粟國さんはこう語る。

 「有名な観光地、京都や宮島に行くと、名所まで続く道がまるで縁日のようにお店で賑わっていて、たくさんの人が歩いているじゃないですか。首里もそうあってほしいと思いました。地元民として、歩いていて楽しく、きれいな街を作りたかったんです」

 オープン予定日は11月3日、首里文化祭が開催される日に合わせていた。周辺は歩行者天国になり、古式行列や祝賀パレードで華やぐ、首里が一番盛り上がる日だ。

 当日を翌週に控えたある日だった。ちょうど県外から知人が遊びに来ていた。夕方ごろから首里城に行きたいという知人。

 「いいよ、早く飲みに行こう!首里城はどうせいつでもそこにあるし。燃えん限りは無くならないよ!」

 実際に、そんなことを話していた。

家の窓からは燃える首里城

 オープン3日前。10月31日、午前4時ごろだった。妻の声で飛び起きたのだった。

 「ねぇ!首里城が燃えてる!」

 すでにテレビは付いていたが、粟國さんの視線はテレビではなくベランダ窓の向こう北北東にあった。ケータイを見ると友人らから安否を確認するLINEがゆうに50件は入っていた。それぐらい、首里城は近かった。

 着の身着のまま、小さなかばんだけ持って飛び出した。その時の気持ちを表す言葉は、今でも見つからない。

 「首里城に向かいながら『ありえない、ありえない』という言葉だけは出てくるんですよね。でも同時に『ありえない』という言葉の不思議さに気付くんです。現実に起こっている出来事が『ある』はずなのに『ありえない』って」

 そんなことを考えてしまうほど、冷静なようで冷静さを欠いていたのかもしれない。

 Blupsの店先を通った時、鎮座する2体のシーサー。そのうちの1体を撫でて、心からの願い事を語りかけた。「守ってくれ、守ってくれ」

 口を開けて幸せを呼び込むオスシーサー、口を閉じて幸せを逃がさないメスシーサー。世俗的にはこのように信じられている。粟國さんが撫でていたのは、メスの方だった。当たり前に首里城があった幸せが、逃げていくのが怖かった。

当時の再現

「ピンチはチャンス」

 結局、オープンは延期した。

 「あんなにみんな落ち込んでいるのに、オープンなんかできないですよね。せめて四十九日が終わってから、という気持ちでした」

 しかし、プラスに捉えることもできた。

 「今回を機に首里城について知れたなぁと思って。『ピンチはチャンス』ってめちゃくちゃ思いました」

 再オープンには約1カ月を要した。少し時間がかかったのには、訳がある。

 店頭販売用のティーバックのデザインを一新したからだ。

 「願復活首里城」「Restoration Shuri-Jo(首里城再建)」

 お店からお客さんの自宅に、メッセージを届けずにいられなかった。

そしてコロナ直撃

 開店したものの、さらに追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスの感染拡大を懸念した外出自粛だ。外出を自粛するほどなので、旅行などもっての他だ。Blupsの前の道は、全くと言っていいほど人が歩かなくなった。

 実際にカウンターに立つ、店長の具志堅太樹さんは「登下校と出勤時以外は、ほぼ人通りはゼロでした。たまーに地元のおじいちゃんが歩くぐらい」

 客数はゼロの日すらあったという。しかし、粟國さんは、割り切っていた。

 「もう、しょうがないってなりました。どう頑張っても、社会全体がこうなんで。でも、消費が落ち込んだらまた絶対戻る時は来るじゃないですか。どんなことになっても絶対に上手くいかせます。跳ねることしか考えていません」

地元の人々集う場に

 そんなさなか、良い意味で想定外のことが起こった。

 予想よりも早めにコロナの第1波が落ち着き、地元の学生が集まってくるようになった。県立芸大の学生が描いた絵画を店内に飾るなど、地域密着型の空間になった。

 県立芸大の他にも、周辺には城西小、首里中、首里高があり、幅広い年齢層の児童生徒が常に歩いている。そもそも活気がある通りだ。古くからあるお店も多い。

 「地元の人が来てくれるありがたさを、あらためて感じています」

 首里城が見えなくなっても、観光客が少なくなっても、粟國さんにとっては変わらず、首里は首里のまま、故郷は故郷のままだ。首里城眼下の池・龍潭は「超遊び場。中学の時はしょっちゅう釣りしていましたよ」

 地元の人が一息つく場所として。そしてゆくゆくは、また観光客も迎え入れて、ゆっくりしていってほしい。地元の人と県外国外からの人が同じ空間を楽しんでいる様子が浮かんでくる。琉球の大交易時代が始まって約600年の月日が経っても、古都・首里では人々の交流は止まらない。

 7月の後半から、日本国内での新型コロナの第2波が押し寄せつつある。沖縄の観光ハイシーズンである夏休み前にも関わらず、再び客足は遠のいてしまった。見通しの立たない未来を悲観せず、むしろ粟國さんは、試練として積極的に受け止めてやろう、というようにも見える。

 「絶対に再建させたい。この利益全部首里城に突っ込む!」

 Blupsは、首里城の再建と街の再興と共にあり続ける。


長濱 良起

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フリーランス記者。
元琉球新報記者。教育行政、市町村行政、基地問題の現場などを取材する。
琉球大学マスコミ学コース卒業後、県内各企業のスポンサードで世界30カ国を約2年かけて巡る。
2018年、北京・中央民族大学に語学留学。
1986年、沖縄県浦添市出身。著書に「沖縄人世界一周!絆をつなぐ旅!」(編集工房東洋企画)

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